西宮市 歯科【なむら歯科】院長のコラム 兵庫県西宮市の歯科

西宮市 歯科・小児歯科 なむら歯科 0798-23-8404
2024年-4月
定期検診の予約について
今回のコラムは定期検診の予約についてのお願いです。
事情がありまして、常勤の衛生士が2名同時に4月で退職することになりました。幸いパートの衛生士は5名確保出来ましたが、まだ何分不慣れこともありまして、定期健診の予約を取る際に、余裕を持って行うこととさせていただきます。つまり従来よりも少し先の予約になるかもしれませんが、何卒当院の事情をご賢察の上ご了承ください。
 
もちろん通常の歯科治療に関しては、院長の私が担当しますので、ご心配には及びませんが、現在勤務歯科医師は在籍しておらず、歯科医師は院長の私だけです。そのため何分にも予約がかなり先まで一杯ですので、当日にお電話で診療を希望される方は、予約の患者さんを優先する都合上、お断りする場合もあります。その件につきましてもご理解頂ければ幸いです。
 
なお4月から新規で勤務してくれる衛生士5名は、全員が経験豊富なベテランの衛生士です。業務に慣れてきましたら、通常通り定期健診の予約を受け付けさせていだだきますので、どうか悪しからずご了承ください。
 
なお衛生士資格をお持ちの方で、勤務していただける方をご存知でしたら、ぜひご紹介ください。募集の詳細はホームページの「求人案内」の項に詳しく記載しています。
取り急ぎお詫び並びにお願いまで。
2024年-2月
紹介状について
今回のコラムは紹介状についてです。
私は開業以来、近隣の兵庫医大、明和病院、関西労災病院、西宮市立中央病院と医療連携して登録医になっています。口腔外科の専門医と連携をとることにより、患者さんの皆様の口の中の重大な病気をいち早く発見すること、親知らずや埋伏歯などの難しい抜歯の依頼をすること、がんや心臓病、脳疾患などの重篤な全身疾患のために一般の歯科医院では困難な抜歯や観血的処置を依頼すること、などを目的としています。各病院の口腔外科の専門医に依頼するにあたっては、どうしても紹介状が必要になります。
 
昨年12月に提携先の明和病院の歯科口腔外科から緊急メールが届きました。その内容は、明和病院が「紹介受診重点医療機関」に指定されて、紹介状なく受診された場合、歯科初診時に5.500円を窓口徴収することが義務化されたということです。かかりつけの歯医者から「明和病院に紹介するから」あるいは「ちょっと明和さんで診てもらってきて」と口頭で言われても、紹介状を書いてもらわないと、初診受付で5.500円取られるので、くれぐれも注意してほしいということでした。ちなみに兵庫医大は紹介状がないと11.000円取られます。
 
なお紹介状は実際に患者さんのお口の中を診てからでないと書くことができません。例えば電話で「親知らずを抜いて欲しいから紹介状だけ書いて欲しい」あるいは「がんかもしれないので心配なので紹介状だけ書いて欲しい」と言われても書くことはできません。紹介状には患者さんの口の中の所見を書く必要がありますので、実際にお口の中を診てから書くことになっています。これもルールですのでご承知してください。
 
また紹介状はすべての患者さんの診療が終わってから最後に書くことにしていますので、お渡しするのは、早くても翌日以降になります。この点も併せてご理解いただければ幸いです。
2024年-1月
年始のご挨拶
新年あけましておめでとうございます。
先月のコラムにも書きました通り、今年は諸事情が重なり、年賀状でのご挨拶が出来ませんでした。誠に申し訳ありません。代わりにこのコラムで皆様に新年のご挨拶をさせていただきます。
 
昨年は4月から午前診療のみにさせていただきました。そのために従来からご来院の患者さん、特に毎日お勤めで午前中は来られない方、それに学校に通学している子供さんや学生さんには、午後の診療がなくなったことで通院できなくなり、多大なご迷惑をおかけしました。改めて深くお詫び申し上げます。
 
また診療予約の件につきましても、どうしても土曜日に予約が集中する関係で、土曜日の予約が取りづらい状態が続いて、従来土曜日に通院していただいていた患者さんにも、しわ寄せが及んでしまう結果となりました。重ね重ね申し訳ありません。
 
平日も、何とか都合をつけて午前中に来院していただく患者さんで、手一杯の状態が続いていますが、今年は土曜日も含めてこの現状を改善して、少しでもスムーズに治療できるようにしていく所存です。
 
また定期検診のご予約も、従来よりかなり先にお願いしている状況ですが、この点につきましてもご理解いただければ幸いです。
 
本年もスタッフ一同全力を尽くして、患者さんのご要望とご期待に添えるように、精一杯治療いたしますので、どうか引き続きご来院くださいますように、伏してお願い申し上げます。
皆様のご健康とご多幸をお祈りいたします。
2023年-12月
年賀状の件(お詫び)
今回のコラムは、年賀状の件です。
当院は昭和62年に開業して以来37年間、毎年欠かさず患者さんに、新年のご挨拶として、年賀状をお出ししていました。毎年約3000枚、スタッフ全員で精一杯宛名書きをしていました。
 
ところがご存知の通り、午前診療だけになって、スタッフも忙しく診療の合間に年賀状の宛名書きをする時間が取れなくなりました。
そのため今年は年賀状のご挨拶を中止させていただきます。大変申し訳ありません。
 
毎年干支にちなんでデザインを選んで、新年早々に患者さんから喜んでいただくことを楽しみにしていましたが、それもかなわぬことになり残念で仕方ありませんが、当院の事情をご賢察いただき、どうかお許しください。
 
なお年始は4日(木)から診療します。来年も引き続きよろしくお願い申し上げます。
2023年-11月
待合室のリニューアル
今回のコラムは、待合室のリニューアルです。リニューアルと言っても改装したわけではありませんが、まず待合室の椅子を買い換えました。従来の椅子は古くなって一部ですが、座面が剝がれている部分もありました。
 
今回買い換えた椅子は、従来の椅子より座面が少し高くて、高齢者の方にも労せずして座れます。また従来の椅子はクッション性が良くて座り心地はとても良かったのですが、座ったり立ったりするのが面倒でした。今回新しくした椅子は、適度に硬くて立ち上がるのも楽になっています。特に腰痛の方には「座りやすい」と好評をいただいています。また待合室が広くなったように感じると言われます。家具屋さんで色々見て回り苦労してやっと見つけた椅子です。
 
大人6人が十分座れる広さです。マッサージチェアは交換していませんが、これも含めて大人7人が十分座れる広さです。付き添いの方やご家族の方も遠慮なく座ってお待ちいただけます。
 
もう一つテレビも画面の大きな大型サイズのものに変更しました。随分見やすくなったと思います。
 
もちろん時節柄、インフルエンザやコロナなどのウイルス感染症対策として、次亜塩素酸水使用の空気洗浄機も従来通りフル稼働させています。

どうか安心してご来院ください。お待ちしています。
なお新しくした椅子の写真は、ホームページの感染予防対策の項に掲載しています。
2023年-10月
コラム(🎹)3
前回の続きです。
ショパンで悩んでいた頃、偶然にも「片手のピアニスト」というドキュメント番組を見ました。これだと思いました。別に両手で弾けなくても良いと思ったのです。
 
 「子犬のワルツ」から始まって「ノクターンの2番」「幻想即興曲」まで片手で何とか弾けるようになりました。もちろん初心者向けの一番簡単な楽譜を丸暗記して練習しました。一昨年でしたか、ショパンコンクールで日本人が大活躍したシーンも徹夜でYouTubeを見ました。
 
今ではショパンも含めて、レパートリーは30曲を超えましたが、ここで欲が出ました。弾き語りです。自称他称ともに音痴です。でもせっかくだからと思い弾き語りに挑戦しました。
 
 「君といつまでも」「もしもピアノが弾けたなら」「夏の終わりのハーモニー」「無縁坂」「上を向いて歩こう」など、私が練習する姿を見て、妻が横で赤面して眺めていたのは言うまでもありません。最近は「オペラ座の怪人」にも挑戦しました。
 
ところがここでまたしても難題が発生しました。つまり楽譜が読めないので、全て丸暗記に頼っていましたが、レパートリーが増えれば増えるほど、最初に覚えた曲を忘れてしまうのです。本当に焦りました。
 
これは鎌田實先生の著作にあった「人生の80%は忘れても良い」というアドバイスに従いました。それでも貧乏根性で、せっかく覚えた曲を何とか忘れまいと日々練習しています。
 
追記
先日ベーゼンドルファーという名前のピアノを弾く機会がありました。とても高価なピアノらしいのですが、初心者の私では弾いていてもその違いがわかりません。私の技量では、日頃愛用しているピアノと音色が変わらなく感じました。残念です。
2023年-9月
コラム(🎹)2
前回の続きです。
早速妻に「ピアノてどこで売ってるのかな?」と尋ねました。女姉妹で育った妻に変な顔されたのは言うまでもありません。ところがもう翌週には買いに行きました。ピアノの種類も鍵盤の数も知らない買い手(私)に、売り主は思わず「誰に買ってあげるのですか?」と聞いたのも今から思えば当然のことでしょう。
 
それからが至難の連続でした。まず楽譜が全く読めません。シャープもフラットも?です。言い訳になりますが、私は絵を描くのが得意で、高校ではもちろん音楽ではなくて美術を選択しました。高校の美術の先生から美大に行ったらどうかと勧められたのは本当です。大学に行って最初に入ったクラブも美術部でした。油絵を描いていました。大阪の画廊で共同ですが個展を開いたこともあります。
 
でもピアノだけは弾いたことがありませんでした。簡単に考えていました。最初は楽譜にカナ(ドレミファソラシド)を打って弾いていましたが、すぐに限界が訪れました。こうなったら受験勉強を思い出して、丸暗記するしかないと悟りました。来る日も来る日も練習しました。でも初心者ではやはり限界があります。どうしても両手で弾けないのです。頑張りました。やると決めたらやるのは性格だと思います。
 
最初に覚えたのがスコットジョップリンのエンターテイナーです。往年の映画「スティング」のテーマ曲です。それから「ゴッドファーザー」「ライムライト」「ミッションインポシブル」「レットイットビー」もちろん「マイハートウィルゴーン」と続いて、ついにショパンに挑戦しました。これが難関でした。初心者には両手で全く弾けません。悩みに悩みました。
次回に続きます。
2023年-8月
コラム(🎹)1
今回のコラムは、残念ながら歯の話ではありません。
先日の診療中のことです。いつもお洒落な装いで素敵な老婦人から、突然「先生、診療時間を午前中までにしはったんですか。友人の〇〇と話して、先生が辞めはったら、私たち一体どうしたら良いんですやろと相談してたんです。」ありがたいお言葉を頂戴しましたが、「そんなことはありません。でもこのままずっと午後診まで続けていたら、いつかガソリンが切れて突然辞めることになったら、皆さんにご迷惑をおかけするので、少しでも長く続けるために午前診療だけにした次第です。」と返答しました。これは事実です。
 
それではもう一つ、中年過ぎの男性から言われた言葉ですが、「先生、午前中までやて殺生やな。わしらどうしたらいいんや。先生まだ若いのに午後から休んで一体何すんのや?釣りでもするんかいな?」 この返答が今回のコラムのテーマです。
 
私は還暦を過ぎてからピアノを弾き始めました。それはふとしたきっかけでした。皆さんは駅ピアノとか空港ピアノとか、今風に言えばストリートピアノと言う言葉を聞いたことがあると思います。
 
随分前に、まだ始まったばかりの駅ピアノ(確かプラハだったと思います)をBS放送で偶然見たのです。前にもお話した通り、私は男兄弟で育ち鉄拳制裁も辞さない無骨な父親に育てられ、しかも私自身が男の子二人の父親なので、ピアノとは無縁でした。でもピアノを聴くのは大好きでした。
 
ピアノを弾いてみたいという希望は捨てずに還暦まで過ごしてきましたが、チェコのプラハで、決して裕福ではないスーパーの店員が、独学で学んで弾いたマイハートウィルゴーンに感銘を受けました。
次回に続きます。
2023年-7月
他の歯科医院への紹介について
今回のコラムは、他の歯科医院への紹介についてです。
4月から午前診療のみになってから、来院していただいている患者さんには多大なご迷惑をおかけしています。特にお子さんが急に歯が痛くなった場合に、信頼できる近隣の歯科医院を紹介して欲しいとご両親からのご依頼が多々あります。即答できずに大変申し訳ありません。理由をご説明します。
 
私は開業した当初から歯科医師会に所属して以来30年以上経ちました。30年前は開業するのに、近隣の歯科医院にあいさつ回りして、歯科医師会に入会するのが普通でした。
 
ところが最近開業する歯科医師は、歯科医師会に入会しない方が増えています。理由は様々です。歯科医師会に入会するのに入会金が必要、歯科医師会に入会すれば診療を休んで学校検診にいく必要がある等々です。詳細は以前書きましたコラム「歯科医師会について(2016年7月記載)」をご参照ください。
 
歯科医師会に入会して開業している先生なら、歯科医師会の会合や学校検診で直接お会いしてお互いの気心や診療方針等がわかります。ところが未入会の先生でしたら全く面識のない先生がほとんどです。
 
今まで当院に通院してくれた大切な患者さんを、面識のない歯科医師が開業している歯科医院に紹介するわけには、申し訳ありませんが出来ません。何卒ご了解いただければ幸いです。
2023年-5月
予約時間について
今回のコラムは予約時間についてです。
4月から午前診療のみになり、患者さんの皆さんには多大なご迷惑をおかけしています。本当に申し訳ありません。この場を借りて謹んでお詫び申し上げます。
 
患者さんから色々なご意見を頂戴しました。
例えば、「先生、私20年以上ここに通っているのに、これから一体どうしたら良いの?」
「先生、殺生やな。昼から休んで何すんのや」
「午前中までて聞きましたけど、いつまで午前中だけにするんですか?」
「先生、子供の歯が痛くなったら、いつ診てくれるの?学校休んで連れてこなアカンの?」
「土曜日しか来れませんけど、土曜日は混むでしょうね」
極めつけは、「先生、もうしんどいんやな。しょうがない有給取って来るわ!」
感謝の気持ちでいっぱいです。
 
さて予約事情ですが、以前は9時30分から始めていましたが、少し早めて9時10分からスタートすることにしました。9時前にシャッターが開きますのでよろしくお願いします。最終受付は12時30分ですが、以前から来院していただいている患者さんは多少遅れても大丈夫です。なるべく12時45分までにお入りください。だたし事前に電話していただくことが条件です。どんなに待ってもよいから当日見て欲しいと言われる方は、受付しますが、予約の方を優先して治療の順番を決めますので、悪しからずご了承ください。
 
なお土曜日は予約がかなり先まで一杯です。土曜日に治療を希望される方は、なるべく早めにご連絡をいただければ幸いです。定期検診や歯石取りも衛生士が常時3人勤務していますが、休暇を取得する場合がありますので、当日衛生士の人数が少ない日は、場合によってはお断りすることがあります。その点もご容赦ください。
どうか今後とも末長くご来院くださいますよう伏してお願い申し上げます。
2023年-2月
診療時間変更について
大変申し訳ないお知らせです。
4月1日(土)から診療時間を午前中だけに変更します。理由を述べさせてもらいます。私は昭和62年に開業しました。昭和62年生まれの方は今年36才ですので、開業して丸36年になります。
 
来院してくれる皆様と献身的なスタッフのおかげで、順風満帆に無事今まで診療を続けることが出来ました。厚く御礼申し上げます。
 
開業当初は、ご存知な方もいらっしゃると思いますが、夜遅くまで診療していました。仕事帰りの忙しい皆さんのお役に少しでも立てたらと思い、夜9時を過ぎても時には夜10時頃まで診療していました。
 
時は流れ、昭和・平成・令和と時代も変わり、必然的に私も年齢を重ねてきました。この業界で最も大切なことの一つに「臨床経験」があります。どんなに知識があっても経験がないと、治療に生かせないのは明白です。一方でこの職業に必要なことが「体力」です。いくら治療技術があっても、それを生かす「体力」がないと満足な治療はできません。抜歯することも入れ歯を作ることも、皆さんが想像する以上に体力を必要とします。体力が低下すれば、どれほど経験に裏打ちされた治療技術があっても、最高の治療を提供することはできません。
 
しかしながら、まだもう少しこの仕事を続けていきたい、体力の続く限りもう少し地域医療に貢献したいと、思っています。そのためには今までの「太く短く」から「細く長く」続ける方針に転換する必要性があると判断しました。
 
近年の働き方改革も考慮して、少しずつ診療時間を短縮してきましたが、今回午後の診療を全て中止して、午前診療だけにさせていただきます。なお診療する曜日は従来通りで変更はありません。
 
患者さんの皆様には、多大なご迷惑をおかけすることになりますが、何卒ご理解いただき引き続きご来院いただきますよう伏してお願い申し上げます。
2022年-12月
奥歯も保険で白い歯に(続編2)
前回の続きです。
前述したようにCAD/CAM冠は保険適用に際して色々な制約がありますが、自費治療で高額なセラミックの歯に二の足を踏んでいる方や長年奥歯の銀歯が気になっていた方には、ぜひトライしてみる価値があります。特に女性の方には好評です。
 
最近は前歯にもCAD/CAM冠が保険適用になりました。ただし前歯に関しては以前から硬質レジン前装冠という白い歯が保険適用でした。この硬質レジン前装冠は、CAD/CAM冠と違って被せる歯に金属を使用していますので、こちらの方が丈夫です。ですので、前歯に関しては従来型の保険の効く白い歯(硬質レジン前装冠)が良いと思います。
 
当院では長年取引があり技術的にも信頼できる技工所にCAD/CAM冠の作製を依頼しています。若くして奥歯を被せることになった方や、金属アレルギーのある方、また老若男女問わず奥歯の銀歯が以前から気になっていた方も、ぜひ一度ご検討いただければ幸いです。
 
肝心の費用ですが、被せる歯の状態によって多少違いますが、3割負担と仮定すると概算で、歯型を取るのに約3000円ほど、CAD/CAM冠自体は約6000円ほど、合計1万円弱ほど必要です。2割負担ですとその3分の2、1割負担ですと3分の1の金額になります。
 
私が開業した当初は、奥歯の白い歯は保険が効かなくて、白い歯を入れるには高額な治療費を支払っていただく必要がありました。日本人の美意識もここ30年で格段に上がり、それに伴い健康保険制度も順次改正されて、患者さんにとっては朗報と言えます。
 
なおCAD/CAM冠の適用・不適用に関しては、実際にお口の中をみせていただいてからでないと判断できません。お電話・メール・FAXでのお問い合わせは、承っていませんので何卒ご理解ご容赦願います。
2022年-11月
奥歯も保険で白い歯に(続編1)
前回「奥歯も保険で白い歯にできます」というタイトルでコラムを掲載したのは、2018年3月ですので、もう4年以上前になります。その後保険適用範囲も変更になりましたので、もう一度皆さんにお知らせします。
 
保険適用になっている白い歯というのは、CAD/CAM冠と呼ばれています。今流行りのコンピューターのデジタル技術を使用して、3Dで削り出して補綴物(被せ物)を作成する方法です。材質はハイブリッドレジン(強化プラスチック)です。
 
以前は小臼歯(前から4番目と5番目の歯)だけしか保険適用がなかったのですが、現在は第一大臼歯(6番目の歯)にも保険が適用されています。上の歯の第一大臼歯でも下の歯の第一大臼歯でもOKです。ただし第二大臼歯(7番目の歯)が上下左右4本とも揃っている(残っている)ことが、条件です。運悪く第二大臼歯が1本でも欠損している場合は、残念ですが保険適用にはなりません。なお第二大臼歯にはCAD/CAM冠は保険適用にはなりません。もちろん親知らず(第三大臼歯)もダメです。
 
たとえ条件をクリアしても、噛み合わせによってはできない場合もあります。歯ぎしりや嚙みしめ癖(クレンチング)の強い方も、強度的な面から長く持たない場合があります。また保険適用ですので補綴物維持管理の制約があり、一旦CAD/CAM冠を入れると2年間は再製作ができません。
次回に続きます。
2022年-10月
息子二人のむし歯治療について(4)
どんなに仕上げ磨きをしてあげても、甘いものを極力食べさせないようにしても、むし歯になる子は必ずいます。逆に、ほったらかしで、ろくに仕上げ磨きをしないで、甘いものを食べさせ放題でも、むし歯にならない子もいます。だからといって、歯磨きをおろそかにすると将来大変なことになります。
 
理由は簡単明瞭です。ご存じの通り、むし歯も歯周病も細菌による感染症です。むし歯の原因となる細菌と歯周病を進行させる細菌は全く別の細菌なのです。たまたま、むし歯菌が少なくても、歯周病菌が少ないとは限りません。むしろその逆です。
 
長年皆さんのお口の中を治療して、経験的に言えるのは、むし歯の多い方ほど歯周病は進行していません。反対に、むし歯がほとんどない人ほど、歯周病が進んでいる方が見受けられます。
 
毎日ていねいに歯を磨いて、定期的に歯科医院に通院することが、やはり肝要です。むし歯にも歯周病にも、劇的に作用する特効薬などないのです。
 
小さいお子さんが、むし歯になっても悲観せず、大きくなった時の教訓にするくらいの気持ちで、子育てしてください。検診の紙をもらってきても、心配することなどありません。男の子でも女の子でも同じです。泰然自若として子育てすることが大切ではないかと思います。
 
二人の息子が、歯医者の息子にもかかわらず、むし歯になりながらも、ようやく半人前?に成長した父親の偽らざる教訓です。
2022年-9月
息子二人のむし歯治療について(3)
今回は次男のむし歯治療についてです。
次男は開業してから生まれました。相変わらず受付に座って手伝ってくれていた妻も、懐妊してだんだんお腹が大きくなって、いよいよとなりました。開業してまだ1年足らずのことでした。
 
哺乳類は外敵から身を守るために深夜から朝方に出産する傾向にあります。次男の時もそうでした。深夜に産気付いた妻を病院に送って行き、寝過ごすと困るので、診療所に戻って仮眠を取って、朝出勤したスタッフに起こしてもらいました。懐かしい思い出です。
 
今度は同じ轍を踏まないと誓いました。さすがに二人の子育て中は、妻も受付に座って手伝えなくなりました。おかげさまで、その頃には医院も軌道に乗り、優秀なスタッフを揃えることが出来ましたので、妻も晴れて専業主婦になりました。妻の実家にも預けっぱなしということはなくなり、食生活も管理していましたが、次男にも長男ほどではありませんが、むし歯が出来ました。
 
これには遺伝的要因が関与していました。二人とも歯並びは良くて矯正治療とは無縁でしたが、父方と母方の祖父母から受け継いだ、むし歯になりやすい遺伝子は、持っていたようです。早期治療と定期的にフッ素塗布をして予防しました。
次回に続きます。
2022年-8月
息子二人のむし歯治療について(2)
前回の続きです。
かく言う私も岳父に負けず劣らず、夜遅くまで仕事を頑張っていました。日曜日しか休まず、平日はもちろん土曜日も夜9時まで診療していました。息子の仕上げ磨きこそしていたものの、それ以外の子育てはすべて妻に任せきりでした。
 
今振り返って正直に申しますと、私は完全に「昭和のお父さん」でした。子育てはすべて妻に任せきり、掃除も洗濯もしたことがありません。もちろん料理は一度も作ったことがありません。最近ようやく電子レンジの「チン」を覚えました。こんなことでは私自身の老後が心配ですが、もう手遅れです。
 
最初のころは、長男のむし歯を妻と実家のせいにしていました。馬鹿な父親であり、見識の浅い歯医者でした。しばらくして間違いに気づき心を入れ替え、長男の置かれた環境を冷静に分析して対処するようになりました。
 
一番良かったことは、長男の歯のむし歯治療です。絶対に他の歯医者には行きませんので、小さい頃のむし歯治療が、将来どのような経過をたどるのか一目瞭然に分かります。小児の歯科治療に自信を持つことができたのも、長男の歯科治療に関わったおかげです。
 
時折、当院に来院されるお母さんが、お子さんにむし歯ができたことを、とても後悔される表情を垣間見ることがあります。そんな時「お母さん心配いりませんよ。歯医者の息子でもむし歯だらけでしたから!」と心の中で叫んでいます。
次回は次男のむし歯治療についてお伝えします。
2022年-7月
息子二人のむし歯治療について(1)
今回のコラムは、息子二人のむし歯治療についてです。
母、父、岳父と続いて今度は愚息二人のむし歯治療についてです。
今回も身内の恥をさらすことになりますが、ノンフィクションですので、小さなお子さんを育てているご両親には、必ず参考になると存じます。
 
私が開業したのは、紛れもなく昭和の時代です。昭和の終わりに開業しました。長男はすでに生まれていました。確か2才でした。近隣の保育園に長男を預けて、朝から晩まで受付に座って手伝ってくれた妻には、感謝の念に堪えません。当時は夜遅くまで診療していましたので、保育園には義父母が迎えに行ってくれていました。
 
診療が終わって後片付けが済むと、夜の11時を過ぎることも珍しくありませんでした。深夜のファミリーレストランで、バギーに乗せた長男と一緒に、親子3人で遅い夕食を取っていた頃を、走馬灯のように思い出します。
 
さて本題です。前回のコラム「岳父と入れ歯の話」に書きました通り、岳父は超の付く甘党でした。保育園が終わってから、夜遅く迎えに行くまで妻の実家で過ごした長男は、今から思えば、むし歯になるべくして、むし歯になりました。歯医者の息子にもかかわらずです。
 
最初は衝撃でした。もちろん仕上げ磨きは、私と妻が交代で毎晩していました。なぜ歯医者の息子が、まだこんなに小さいのに、むし歯になるのか理解できませんでした。

岳父にとっては初孫でした。岳父自身は娘二人の父親でしたので、待望の男の子でした。可愛くて仕方ありません。しかも当時は岳父も商売が多忙で、孫の機嫌を取るのに、自分と同様に甘いものを、てんこ盛りに与えて、一緒に喜んで食べて悦に入っていました。当然のことです。悪いことをしたわけではありません。
次回に続きます。
2022年-6月
岳父と入れ歯の話(2)
前回の続きです。
岳父は私が開業した頃は、入れ歯ではありませんでした。全部が自分の歯でした。長女が歯医者(私)と結婚して、しかも岳父の地元で開業して大変喜んでいたそうです。(今から思うと甘い考えでしたね)
 
岳父には、歯科医にとっては最大の難敵である性質がありました。「超」のつく「甘党」だったのです。お酒は飲みませんが、甘いもの、特に和菓子には目がありませんでした。10日えびすの酒まんじゅうを箱ごと食べている姿を見た記憶が、今でも鮮明に残っています。幸いにも岳父の家系は、糖尿病の遺伝子を持っていなかったので、あれだけ甘いものを食べていても血糖値は上がりませんでした。ただし歯は別です。むし歯だけではなく、歯周病にも糖分が悪いことなど、岳父は全く知りませんでした。
 
しかも岳父にはもう一つ悪い癖がありました。それはクレンチング、いわゆる嚙みしめる癖です。おまけに硬いのもが大好きでした。もうお分かりだと思います。岳父の口の中の主治医となった私は、モグラ叩きの毎日が続いたのです。
 
それでもお互いに、入れ歯にならないように、精一杯努力しました。20年以上頑張りましたが、とうとう入れ歯が必要になりました。ただしその頃の私はもう十分過ぎるほど経験を積んでいました。開業したばかりで、義祖父母の入れ歯を苦心して作った頃とは違います。
 
完璧な入れ歯が出来たと自負しました。岳父もお世辞ではなく喜んでいました。ところがその入れ歯を洗面所で洗っている最中に落として、運悪く割れてしまいました。幸い直ぐに修理して事なきを得ました。
 
ところが岳父は心配になったのか、全く同じものをもう一つ作って欲しいと言いました。歯の治療というのは、被せ物も入れ歯も含めて、完全にオーダーメイドです。全く同じものが出来るはずがありません。一度はハッキリと断りましたが、どうしてもと言うので仕方なく作りました。同じように見えて微妙に違う入れ歯です。岳父は満足した様子でした。
 
入れ歯を何度作っても、とうとう最後まではめなかった父と、同じ入れ歯を2つ持って満足している岳父。それぞれです。ちなみに岳父はまだ元気に過ごしています。もう一つの入れ歯は仏壇に飾っているそうです。
なるほど。
2022年-5月
岳父と入れ歯の話(1)
 今回のコラムは、岳父と入れ歯の話です。
前回(父)と前々回(母)のシリーズがおかげさまで好評でしたので、身内の恥をさらすようですが、今回も真実を皆さんのお知らせすることを誓います。高齢化社会そして介護社会を迎えて、必ずこのコラムが皆さんのご参考になると存じます。
 
 岳父と私は、もちろん妻と出会った頃からの知り合いですので、もうかれこれ40年以上の付き合いになります。やはり父同様に歯科とは無縁でした。父よりは多少歯に関心がありましたが、それでも大差はありませんでした。
 
 私が開業してからまず課されたミッションは、岳父の父母、つまり義祖父母の入れ歯を作ることでした。もう二人とも亡くなりましたが、当時はお元気で、特に義祖父は太平洋戦争にも従軍した立派な人でした。二人ともあの時代を生き抜いてきた代償は、口の中に如実に現れて、歯に関しては悲惨な状況でしたが、何とかしてあげなくてはと心底思って、頑張って治療して入れ歯を作成しました。
 
 ここからが本題です。岳父の家(つまり妻の実家)で、食事をしている時に、義祖母は、私が苦労して作った入れ歯をいつも外して食事をしていました。そのほうが食べやすいからだそうです。また義祖父は、私が作った入れ歯を、とても器用に自分でヤスリをや工具を使って調整していたそうです。もちろん両方とも後から岳父から聞いた話です。
 
 今冷静に考えると、私も開業したばかりで、知識や意欲は十分すぎるくらいあっても、根本的に経験が不足していました。新米歯医者の拙い技術でも、一言も不平を言わずに私の医院に通院してくれた義祖父母には、感謝の言葉しかありません。
 
 さて肝心の岳父の入れ歯の話です。岳父は冒頭にも言いました通り、父よりは歯に関心がありましたが、当時は商売が多忙で、やはり父同様に知り合いの歯医者に、トラブルがあった時だけ通っていました。ただ父と違って見た目をとても気にする性格でしたので、歯にはお金をかけていました。端的に言えば岳父は、金額の高い歯がイコール良い歯だと考えていました。この考え方は、後で間違いだと気づいたと思います。
次回に続きます。
2022年-4月
父と入れ歯の話(2)
父と入れ歯の話、前回の続きです。
父が元気な時に、もっとしっかり噛めるようにと、兄や私が父の部分入れ歯を作ったことがありましたが、こんなもの入れんでも問題ないと言って、はめませんでした。痛いところだけ治療してくれたら、それで良いという考えは、昔から変わっていませんでした。
 
ところが、くも膜下出血を発症して半身不随になってからは、お世話をしてもらうヘルパーさん達から異口同音に、歯医者さんに行って入れ歯を作ってもらってくださいね!と言われるのです。あげくの果てに、息子である私や妻にも、父を歯医者に連れて行くように親切に依頼します。そんな献身的なヘルパーさん達に向かって、父は「息子二人が阪大出て歯医者しとるから、要らんこと言うな!」と返答します。
 
それでも私は、献身的なヘルパーさん達の意見に従って、父の部分入れ歯を作りました。もちろん色々と工夫しましたが、いかんせん半身不随で片手しか使えませんので、入れ歯の取り外しに支障が生じます。元気な時に慣れていれば良かったのですが、それも結果論です。生来の性格も相まって、結局入れ歯をはめませんでした。
 
そんな父ですが、入れ歯も入れずに残り少ない歯で、相変わらず何でも好きなものを食べていました。一体どこで噛んでいるのか不思議に思っていましたが、本人は全く気にしていませんでした。
 
父を見ていて学んだことが、ひとつあります。それは、歯がないと満足に食べることが出来ないので、一日でも早く入れ歯を作ってあげて、噛めるようになれば、きっと今よりも元気になるはずだと、家族や周囲の人が思い込むのは、案外間違っているのではないかということです。
 
世の中の常識が、本人にとっては非常識なのかもしれません。そう言えば、長寿双子姉妹で有名だった、きんさん、ぎんさんのどちらか一人は、入れ歯をはめずに歯ぐきで噛んでいたということでした。何でも美味しく食べていたと拝聞しています。
我が道を進んだ父。享年92才。
2022年-3月
父と入れ歯の話(1)
しばらくコラムをお休みしていました。
休んでいた理由は諸事情ありますが、毎月楽しみにしていた患者さんの皆様には大変申し訳ありませんでした。今回のコラムは前回の続編とも言えますが「父と入れ歯の話」です。
 
はじめにお断りしておきますが、兄も私も歯科医業を生業にしていますが、父は歯科医師でも医療関係者でもありません。そのためかどうかは知りませんが、兄や私が物心ついた時から、父は口の中には無頓着でした。歯も毎朝磨いていましたが、磨いているというよりは、歯みがき粉を沢山つけて、口をゆすいで、うがいをしているだけだったように記憶しています。
 
そのせいで、もちろんむし歯も多く歯周病も進んでいたと思います。知り合いの歯医者に通っていましたが、痛いときに行くだけで、定期的に通院したりはしませんでした。その理由は、父の性格ももちろんありますが、昭和一桁生まれで時代の背景もあったのだと思います。
 
さて父の思惑とは全く裏腹に、二人の息子が歯科医になったのですが、もうその頃には、父の口の中はボロボロでした。それでも兄に言わせると、父は生来丈夫な歯でしたので、残っている歯で好物のお寿司や焼き肉を食べていました。息子の世話にはなるものかという気概があったような気がします。
 
ところが好事魔多しと言いますか、心身ともにまだこれからという70代前半に、くも膜下出血で倒れて半身不随になりました。車椅子なしではトイレに行くことも出来ず、今まで自由勝手気ままに過ごしてきた生活から、180度一変しました。
何をするにも家族や献身的なヘルパーさん達の介助なしでは、どうしようもなく、すべて他人のお世話にならないと生活できない状態になりました。
次回に続きます。
2021年-9月
母の年齢と入れ歯の話(2)
前回の続きです。
兄とは大学も職業も同じですが、母親から見ると、心配度を数字に表すとしたら、兄が10なら私は100を超えると思います。いやもっとそれ以上かも知れません。私にも二人息子がいて、大学も職業もそれぞれ違いますが、妻の息子たちへの心配度数は、そんなに大差はありません。母の場合、なぜそんなに差があるのかは、残念ですがここではご説明できません。母は時折、妻にメールや電話をして、私の様子を聞いているようですが、随分心配をかけていることは、重々承知しています。
 
そんな母から昔々に、入れ歯の件で相談を受けたことがあります。兄が作った入れ歯がどうもしっくりこないというのです。もう一人の息子である私に、新しい入れ歯を作って欲しいと言うのです。
 
間髪入れずに私はこう言いました。「おふくろ、入れ歯は誰が作っても完璧な入れ歯は出来へん。どんな上手な歯医者が作っても、痛いところは出てくるし、慣れるまで時間がかかるし、慣れたら慣れたで、気に入らんところが出てくるもんや。わざわざ僕のところまで来て作ってもかまへんけど、兄貴の方が上手いと思うよ。」(余談ですが兄は現在大津市歯科医師会会長です)
 
母はしばらくじっと考えてからこう返答しました。「○○ちゃん(私の小さい頃からの愛称)の言うことは、よくわかったわよ。これで我慢します。」
 
あれ以来、母から入れ歯の相談は受けたことがありません。ただ母と同じくらいの年齢の女性の患者さんに出会うと、頑張って良い入れ歯を作って上げようと心底思っています。私自身は入れ歯を入れたことは、もちろんありませんが、入れ歯を入れている人の気持ち、あるいはこれから入れ歯を作って、はめる人の気持ちは、誰よりもわかっているつもりです。
これからもどうかよろしくお願いいたします。
2021年-8月
母の年齢と入れ歯の話(1)
今回のコラムは、コロナ関係ではありませんので、ご容赦ください。
先日のことです。もうかれこれ10年以上来院されている後期高齢者のご婦人の患者さんから、こんなことを聞かれました。とても上品なご婦人で、失礼ですが若かりし頃は、さぞかし綺麗であったと想像できます。
 
いつも来院する度に、感謝の言葉をいただき、恐縮していました。そのご婦人が、先日治療が終わった直後に突然、「先生のお母様は、おいくつですか?」と聞かれました。開業しておかげさまで30年以上経ちますが、母の年齢をダイレクトに聞かれたのは、初めてです。
 
一瞬、返答に苦慮しました。 「昭和〇年生まれです(1桁)。」 「あら、昭和〇年生まれなら私と一つ違いね。私の方が一つ上です。」 「お母さんお元気ですか?」 「おかげさまで元気です。」 「良かった!」
正直に申しまして、しどろもどろしながらの返答でした。母とはしばらく会っていません。しばらくというのは、何か月なのか何年なのか、正確には覚えていません。
 
母は兄の近くに住んでいます。入れ歯をしています。兄の作った入れ歯です。くだんのご婦人は、私の作った入れ歯をはめておられます。ほんの一瞬ですが、このご婦人と母の姿が重なりました。
世に賢兄愚弟という言葉がありますが、私もその一人です。
次号に続きます。
2021年-7月
コロナ対策(換気扇)
今回のコラムは、コロナ対策換気扇です。
なお前回のコラム「ワクチン接種」については、先月(6月)に2回分を一度に掲載しましたので、続きは先月分をご覧ください。私以外のスタッフも医療従事者の特別枠で、7月中には全員接種を完了する予定です。
 
さて昨年の10月にコロナ対策として、診療用チェアを全て新規に入れ替えて、思い切った感染予防対策を行ったことは、すでにお伝えしました。
 
今回、コロナ対策に「換気」が特に重要であることを再認識して、待合室、診療室、受付、トイレ、スタッフルーム、全ての換気扇を性能の良い最新式のものに取り換えました。合わせて、天井裏の換気口のダクトも全て新しいダクトに取り換えて、換気効果をより一層十分なものにしました。
 
また待合室の出入口の玄関マットも抗ウイルス仕様にして2週間に一度交換しています。さらに待合室には次亜塩素酸水噴霧装置付きの空気清浄機を配置しています。
 
まだまだ続くコロナ禍に対して、当院では出来ることは最大限に行っていきます。どうか安心して来院してください。お待ちしています。
2021年-6月
ワクチン接種について(1)
今回のコラムは、ワクチン接種についてです。
3月初旬のある日、高齢者の患者さんを診療していると、その患者さんから「先生はもうワクチン打ったんかいな?」と尋ねられました。「まだ打っていません。実はワクチン接種の申し込みは2月の初旬に行って、当初は3月に接種予定でした。でも遅れている様子です。まだ接種時期の正式な連絡はありません。申し訳ありません。」と正直に答えました。
 
4月になった早々、くだんの患者さんから再度質問がありました。「先生、もうワクチン打ったやろ?」 「申し訳ありません。まだ打っていません。同じ兵庫県の公立病院の医師が、ようやく先週第1回目の接種を行ったという情報が届きました。遅れているようです。」 「さよか。先生がまだ打ってへんのなら、わてら高齢者の接種はまだまだやな。そのうちコロナにかかって、死んでしまうかもしれへんな。」 「本当に申し訳ありません。そんなこと言わずに、頑張ってください。」 「先生から謝ってもらっても、しゃーないで。お国の事情があるんでっしゃろ。」
 
この患者さん(齢80才)は、もうかれこれ20年以上奥様と一緒に当院に通院されています。歯に衣着せぬ言い方をしますが、物事の道理をわきまえたジェントルマンです。
 
当院も最大限感染予防対策に取り組んでいますが、院長の私自身がワクチン接種をしていないのは、事実でした。いつ接種時期の正式決定があるのか、正直悶々とした日々を過ごしていました。
次回に続きます。
2021年-6月
ワクチン接種について(2)
そんな4月のある日、兵庫県のワクチン対策課から、ワクチン接種の問診票が届きました。ようやくワクチンの接種が出来ると安堵したのも束の間、医療従事者向けのワクチン予約サイトに何度接続しても、近隣の病院はおろか、遠方の病院でも予約が出来ません。
 
アメリカやヨーロッパ諸国を始めとする世界各国では、ワクチン接種が高齢者はもちろん一般人や若年者まで接種が進んでいるというのに、医療従事者にさえも、まだ接種出来ない状況に理不尽さを感じえませんでした。いくらお国の事情があるとはいえ、感染予防対策に可能な限り、万全の対策を講じている医療従事者の心境を察して欲しいところです。心配したスタッフの一人が直接ワクチン接種課に電話したところ、ワクチンの供給量が不足しているので、もう少し待ってほしいとの返事でした。
 
ところが5月になって、歯科医師会の特別な取り計らいで、私だけワクチンを接種できることになりました。他のスタッフには申し訳なかったのですが、このチャンスを利用させてもらうことにしました。副反応のことなど心配もありますが、当日、体調を整えてワクチン接種会場に行きました。一回目の接種は接種部位が少し痛む程度でしたが、二回目の接種時には発熱がありました。あらかじめ予想されていましたので、すぐに解熱鎮痛剤を服用しました。大事に至らず幸運でした。
 
もちろんワクチンを接種したから、感染が予防できるわけではありません。感染した時の重症化を防ぐだけです。また変異ウイルスにも効果があるという保証もありません。ただ医療従事者として、来院してくれる患者さんに、少しでも安心と信頼をあたえてあげることが出来れば幸いです。
 
前述の高齢者のジェントルマンが来院されたら、今度こそ「ワクチン、もう打ちました。もうすぐ順番が回ってきますよ。ご安心ください。」と言うつもりです。コロナ禍が一日でも早く収束することを祈願しています。
2021年-5月
ウイルス感染症について(2)
ウイルス感染症についての続きです。
ウイルスは感染症をもたらす病原体として恐れられていますが、反対に太古の時代から、生物の進化の過程で重要な役割を果たしてきました。つまり新型コロナウイルスのように、多くの命を奪うウイルスがいる一方で、命を育み守ってくれるウイルスも存在するのです。
 
ヒトのゲノム(全遺伝子情報)の8%は、遠い祖先が感染したウイルスに由来すると言われています。そうした遺伝子の一部は、胎児と母親を結ぶ胎盤の形成などに重要な役割を果しています。ですから私たちはウイルスの世界に生きていると言っても過言ではありません。
 
さて肝心の新型コロナウイルスですが、由来がまだ特定されていませんが、コウモリとセンザンコウから近縁のウイルスが見つかり、このいずれかが保有していた可能性があると考えられています。
 
センザンコウのコロナウイルスは、コウモリから約100年前に分枝し、そして新型コロナウイルスは知られている限り最も近縁なコウモリのウイルスから、過去40年~70年の間に進化したとみられています。人間以外の動物に寄生して、おとなしくしていたウイルスが突如人間に感染して増殖して暴れだし、人から人へと感染するようになれば、アウトブレイク(集団発生)が起き、一つの地域や国に広がればエピデミック(地域的流行)と呼ばれ、世界中に広がればパンデミック(世界的流行)となります。今まさに新型コロナウイルスが引き起こしている現象です。
 
ウイルスは人知を超えるほど多様で、その数も計り知れないほど膨大です。人間も含めた哺乳類が保有するウイルスは少なくとも32万種に及ぶと推定されています。その中でも新型コロナウイルスは人間にとって難敵中の難敵ですが、一刻も早く収束に向かうことを願ってやみません。
2021年-4月
ウイルス感染症について(1)
今回のコラムは、ウイルス感染症についてです。
私は長年ナショナルジオグラフィックという雑誌を愛読しています。日本版が出来る25年以上前から購読していますので、かれこれ30年以上前から読んでいることになります。僭越ですが待合室にも置いています。
 
今回のコラムは、そのナショナルジオグラフィックに掲載されていたウイルスに関して、興味深い記事を抜粋してお伝えして、先の見えないコロナ禍を過ごすヒントになればと思います。歯とは直接関係のない話になりますが、ご了承ください。
 
ご存知の通り、むし歯や歯周病は細菌による感染症です。一方風邪やインフルエンザ、そしてもちろんコロナはウイルスによる感染症です。歯科に関するウイルス感染症として知られているのは、ヘルペス口内炎、ヘルパンギーナ、手足口病、帯状疱疹などがあります。
 
まず基本的な話からです。細菌は一つの細胞からなり、二つに細胞分裂することにより増えていきます。ところがウイルスは細胞ではありません。ウイルスは寄生する性質を持ち、生きた細胞に入り込み増殖します。そして運が悪ければ寄生した細胞内で、新しいウイルスをどんどん増殖して、ついにはその細胞を突き破って、外に飛び出します。
 
ウイルスが病原性を持つのは、こうした破壊工作のためです。新型コロナウイルスは、人間の気道の上皮細胞でこれを行います。そして最悪の結果、呼吸器不全を起こして、命を奪うことになります。
さらにウイルスは細菌に比べてはるかに小さいサイズです。それゆえにウイルスを撃退することは困難を極めるのです。しかもウイルスは増殖する間に変異するという厄介な性質を持ちます。
次回に続きます。
2021年-3月
コロナ禍のお口のお手入れ(2)
前回の続きです。
大学の恩師からもらったメールの内容の通り、そう言われてみると、歯科医療従事者は、コロナ禍に関係なく以前から例外なく全員マスクをしていました。手前味噌ですが、私は開業以来30数年前からずっと、診療中はマスクの上から顔全体を覆うフェイスガードを着用してきました。開業当初は、その行為が珍しく子供の患者さんから「ここの歯医者さんは、いつも顔にヘルメットをかぶっている!」と言われたことを覚えています。
 
コロナ禍で一時フェイスシールドが品薄になりましたが、どのフェイスシールドが一番感染予防に効果があるのか、開業以来試行錯誤してきましたので、あわてずに普段通り対応出来ました。今ではもちろんスタッフ全員がフェイスシールドもしくはゴーグルを着用しています。
 
話を戻して、新型コロナウイルスの重症化予防には、口腔ケアだけではなく、洗口剤によるうがいも効果があると言われています。香港大学が、2003年にSARSコロナウイルスを使った実験で、サルの鼻腔にウイルスを感染させると、最初に感染する臓器が唾液腺でした。
 
コロナウイルスはインフルエンザウイルスと違い、口腔に増殖の場を持っています。そのため唾液を使ったPCR検査が広く行われています。唾液腺から感染するということは、うがいにより新型コロナウイルス感染症予防になる可能性があると考えられます。
 
新型コロナウイルス対策に「口腔ケアとうがいの励行」、今日から早速試してみてください。最近歯のクリーニングをサボってしまっている方、コロナ禍の時こそ、ぜひ来院をお待ちしています。
2021年-2月
コロナ禍のお口のお手入れ(1)
今回のコラムは、コロナ禍のお口のお手入れです。
新型コロナウイルスの感染拡大は、二度目の緊急事態宣言でも、収束を見せる気配はありません。ワクチンの接種準備も早急に整えられている昨今ですが、新型コロナウイルスに関しては、まだまだ不明な点が多いのも事実です。
 
重症化予防として、最近注目されているのが、口の中の手入れです。口の中をしっかりケアすることにより、むし歯や歯周病の予防だけではなく、新型コロナウイルスの重症化も予防出来れば、歯科医業に携わるものとしましては、これ以上ない程お役に立てることだと思います。
 
その理由を順番にご説明します。昨年末に学生時代からお世話になっている恩師から次のようなメールをもらいました。数年前に歯学部の教授を定年退職されましたが、現在も学会の仕事等に携わって多忙なその恩師は、コロナに関して次のように私に知らせてくれました。
 
「コロナウイルスの感染に関して、私は次のようなことを考えています。コロナウイルスが侵入する部位は、口腔か鼻腔だけ(目も可能性があるかも知れませんが)なので、普段から口腔衛生に携わっている歯科医師や歯科衛生士さん、そして口腔衛生に熱心な患者さんは、一般の人に比べてコロナウイルスに感染しにくいのではないかと」
 
「一方、カリフォルニア大学(だったと思いますが)の研究者は、マスクはコロナウイルスの鼻や口からの侵入を大幅に減少させるので、マスクを装着していると弱毒感染を繰り返すことになり、いわゆるワクチンと同じ効果が期待できるのでは、と報告しているようです。」
次回に続きます。
2020年-11月
診療用チェアを新規入れ替えました
コロナ禍での感染予防対策のために、診療用チェアを新規に入れ替えました。患者さんに直接座っていただき診療するチェア(診療台)は、感染予防対策に最も重要です。今回診療用チェアを全て新規に入れ替えて、患者さんに安心して治療を受けていただくように配慮しました。
 
最新の診療用チェアは色々な点で感染予防対策が取られています。
例えば、ワンタッチで交換可能な新型除菌カートリッジを採用し、衛生的にも優れて、しかも容易に交換が行えます。また1ヶ月に1度の清掃が必要なタンクと排水トラップをユニット正面に配備し、メンテナンス性を向上させました。さらに清掃性に優れた新設計のインスツルメントホルダーを採用して、歯の治療に使用するインスツルメント及びメインチューブの清掃が容易に行えます。
 
もちろん感染予防対策だけではなく、ホールド性の高いシートが患者さんの身体をしっかり支えて、快適な座り心地をサポートします。またチェアの昇降起立時のショックをほとんど感じさせないショックレス機構は、より自然に患者さんを診療ポジションへと導きます。
 
診療用チェアの新規入れ替えに伴う費用は、おそらく皆さんが想像されているよりも高額で、決して少なくありませんが、患者さんに安心して治療を受けていただくことを考えれば、必要不可欠なことと判断しました。今後もどうか引き続きご来院ください。スタッフ一同心よりお待ちしております。
2020年-10月
当院は感染症対策実施歯科医療機関です
当院は歯科医師会の指導に従い、新型コロナウイルス感染症対策チェックリストに沿った対策を実施しています。
チェックリストの項目は以下の通りです。
スタッフに対して、マスクとグローブの着用や手指消毒が適切に実施されています。
スタッフに対して、毎日の検温等の健康管理を適切に実施しています。
スタッフが身体の不調を訴えた場合に適切な対応を講じています。
患者さん、取引業者に対して、マスクの着用、手指消毒を適切に実施しています。
発熱患者さんに対しては、事前に電話相談等を行い、帰国者、接触者センターまたは対応できる医療機関へ紹介する等の対応を講じています。
待合室で一定の距離が保てるように予約調整等必要な措置を講じています。
診療室について飛沫感染予防策を講じるとともに、マスク、グローブ、フェイスシールド、ゴーグル等の着用等適切な対応を講じています。
共用部分、共用物の消毒、換気等を適時、適切に実施しています。
マスク、グローブ等を廃棄する際の適切な方法を講じています。
受付における感染予防対策(遮断物の設置等)を講じています。
スタッフに対して、感染予防対策に係る院内研修等を実施しています。
チェアの消毒や口腔内で使用する歯科医療機器等の滅菌処理等の感染防止策を講じています。
以上です。安心してご来院ください。お待ちしています。
2020年-9月
治療中断のリスクについて
今回のコラムは、治療中断のリスクについてです。
依然としてコロナ禍で大変な昨今が続いています。飲食業の方、観光業の方はもちろん、私ども医療従事者にとりましても、出口の見えないトンネルのような混沌とした状況です。一日でも早く収束にむかうことを願ってやみません。
このコロナ禍で、治療途中で通院をやめてしまう患者さんは、意外に多くいらっしゃいます。ある意味仕方のないことですが、そのまま放置しておくと、さまざまなトラブルの原因となる可能性が高くなります。例を挙げてご説明します。
「歯の神経(歯髄)を取ったまま放置した場合」です。
神経(歯髄)を取ると、歯の痛みが噓のように消えて、あたかも治ったように思えます。ところがそのまま放置すると、神経があった歯の内部から細菌感染を起こして、さらに進むと歯の根の先に根尖病巣が出来て、痛みが再発して、歯ぐき(歯肉)が腫れてくるようになります。
そうなると、もう一度神経の治療(感染根管治療)をやり直さないといけなくなります。さらに放置すれば最悪抜歯することになります。つまり神経を抜いて歯の痛みが消えても、出来るだけ間隔を開けずに続けて通院することが肝要です。
「かぶせ物の型を取ったまま放置した場合」です。
まず歯の神経を温存して型を取った場合は、すぐにかぶせてしまわないと、せっかく神経を残したにもかかわらず、思わぬところからむし歯が進行して、結局大事な歯の神経を抜くことになりかねません。そうすると一から治療をやり直すことになります。何よりも神経を抜くことによって歯の寿命もかわってしまします。次に神経を取った歯の型取りをした場合ですが、痛みがないので型を取ってそのまま放置すると、時間とともにかみ合わせが少しずつ変化し、隣の歯や上の歯(または下の歯)の位置が変わってきて、苦労して作成したかぶせ物が入らなくなります。そうなると、もう一度型を取って作り直すことになります。費用も時間もかかってしまいます。
また仮歯(かり歯)を入れてもらったから大丈夫だと安心してはいけません。仮歯はあくまでも短期的な使用を目的に作っていますので、肝心な時に仮歯が取れたり、歯が破折したりする原因になりますので注意してください。
「とりあえず応急処置をしてもらった場合」です。
歯肉が腫れたけれども、切開して膿を出してもらったら痛みがなくなった、あるいは化膿止めを出してもらって飲んだら、痛みも腫れも治まったというケースです。次に、むし歯で痛んでいたけれど、むし歯の部分に薬を詰めて仮の詰め物をしてもらったら、痛みが軽減したというケースです。どちらのケースも一旦痛みがなくなってもそのまま放置すると、歯周病やむし歯が進行します。自然治癒するほど歯周病もむし歯も甘くありません。
「後悔先に立たず」ということわざがあります。
あの時続けて通院していれば良かったのにと後悔することなく、時間も費用も無駄にすることがないように、この大変なコロナ禍の時期でも続けて通院するようにしていただければ幸いです。
2020年-8月
歯周病と戦う(3)

「歯周病と戦う」第3章です。

歯周ポケットからの出血により、それを栄養素とする歯周病菌は爆発的に増殖し、バイオフィルム(歯垢)の病原性を大幅に高めます。この時こそが歯周病が本格的に進行開始した瞬間です。まさにクラスターが発生したのです。「歯を磨くと血が出た」と軽く見てはいけません。
 
歯周病発症の主な原因は、マイクロバイアルシフトです。つまりマイクロバイアルシフトを元に戻すことが歯周病治療の目標です。歯周ポケットからの出血が続く限り、歯周病の病原性は高まり進行は持続します。
 
歯周病治療により歯周ポケット内の悪玉歯周病菌の量は大幅に低下し、歯周組織は治癒に向かいます。歯周病菌の栄養素である血液の供給を絶ち、病原性の低いバイオフィルム(歯垢)に戻すことが、歯周病治療の目標です。
20世紀と21世紀では、歯周病治療の目標が変わりました。
20世紀には、悪玉歯周病菌をバイオフィルム(歯垢)から追い出せると考えられていました。しかし悪玉歯周病菌は追い出せないことがわかりました。だからこそ、バイオフィルム(歯垢)のマイクロバイアルシフトが起こらないように、適切な口腔ケアが必要なのです。
 
口腔ケアには毎日のセルフケアだけでは不十分です。かかりつけの歯科医院への定期検診、つまりプロフェッショナルケアがあってこそマイクロバイアルシフトが防げます。歯周病のクラスターを発生させないためにも、プロフェッショナルケアがなくてはならないのです。
 
どうか今後とも引き続き定期検診に来ていただき、歯周病と一緒に戦いましょう。
2020年-7月
歯周病と戦う(2)

「歯周病と戦う」第2章です。

歯周病の発生原因は、バイオフィルム(歯垢、プラークとも呼びます)と歯周組織(歯を支えている歯ぐきのこと)の均衡崩壊です。つまり歯周病に感染しても、歯周組織に抵抗性があり、しかもバイオフィルム(歯垢)の病原性が低いと、歯周病にかかっていても歯周病は発症しません。
 
ところがいくつかの理由が重なってバイオフィルム(歯垢)の病原性が高まることによって、この均衡が崩壊します。この時に歯周病が発症するのです。バイオフィルム(歯垢)の病原性が高まるリスクファクター(危険因子)は、すでに皆さんもご存の通りさまざまな要因がありますが、今回は省略します。
バイオフィルム(歯垢)の病原性が高くなるのは、新たな歯周病菌の参入によるものではありません。すでに口の中にいる常在菌のマイクロバイアルシフト(Microbial Shift)が原因です。マイクロバイアルシフトとは、バイオフィルム(歯垢)の環境変化のよって、口腔内細菌が活気づき、歯周病の病原性を高める現象のことを言います。

変な例えで申し訳ありませんが、新型コロナウイルスでよく使われるパラダイムシフトではなく、どちらかと言えばクラスターのような状態です。クラスターが発生すると爆発的に新型コロナウイルス感染者が増加するのと同様に、マイクロバイアルシフトが起こると、歯周病が発生進行します。
マイクロバイアルシフトが発生してバイオフィルム(歯垢)の病原性が高まると、歯周組織に炎症が起こります。さらに炎症が亢進すると歯周ポケットの内面に潰瘍が形成され出血します。歯を磨いたときに血が出るのは、この歯周ポケットからの出血が原因です。
 
ところが歯周病菌は血液中の赤血球ヘモグロビンを鉄源として利用し、これを栄養素として摂取します。健康な歯周組織には出血は見られないため、歯周病菌は栄養素を得られず、ごく低い病原性しか発揮できません。
次回に続きます。
2020年-6月
歯周病と戦う(1)
今回のコラムは、ズバリ「歯周病と戦う」です。少し前置きが長くなりますがご容赦ください。今回ご紹介するのは、最近私が読んだ中で最も感銘を受けた文献です。この文献は日本歯科医師会が発行した「8020運動30周年記念誌」に載っていたものです。「8020運動」とは皆さんもご存知のように「80才で自分の歯を20本残そう!」という運動です。約30年前、当時の平均寿命が80才であり、何でも嚙むことができる歯の本数が約20本と認識されていたことから「8020運動」と命名されました。当時の厚生省と日本歯科医師会がタイアップしてスタートしました。30年前と言えば、私が開業したのが約33年前ですので、ほぼ同じ時期です。あれから30年、歯周病の病因論も治療法も大きな変化がありました。なおこの文献は手前味噌ですが、母校(阪大歯学部)の予防歯科学の教授が書いたものです。それでは簡単にわかりやすくご説明して引用させていただきます。
20世紀の歯科は「削る、詰める、抜く」でした。21世紀の歯科は「予防、健口管理、再生医療」を実践する時代です。この実践に不可欠なのは歯周病の病因論を正しく理解することです。
歯周病はバイオフィルム(歯垢またはプラークとも呼びます)の中に存在する細菌が原因であることは以前から知られていました。1980年代に歯周病の発症に関連しているとされる細菌が10数種類発見され、さらに1999年にそのうち3種類のみが歯周病原因菌であるとされました。
ご存知の通り、むし歯も歯周病も細菌による感染症の一つです。
むし歯の原因菌(ミュータンス連鎖球菌)が口の中に定着するのは、乳歯の萌出とともに開始されますが、一方で歯周病菌が口の中に定着するのは、小学校高学年以降に、そして最も強力な歯周病菌が口の中に定着するのは、18才以降であることが分かってきました。
次回は歯周病発生の原因と歯周病治療の目標についてです。ご期待ください。
2020年-5月
新型コロナウイルス感染対策について
今回のコラムは、新型コロナウイルスについてです。
ご存知の通り緊急事態宣言が、関西では大阪府と兵庫県に4月8日発令されました。兵庫県歯科医師会新型コロナウイルス感染対策委員会から、歯科医師会会員宛てに送付されてきた文書の指示に従い、当院で行っている院内感染対策をお知らせしたいと思います。
 
当院では常日頃から院内感染対策には万全の処置を行っていますが、新型コロナウイルス対策としてより一層対策を講じています。基本的な対策として
「換気の悪い密室空間」
「多くの人の密集している場」
「近距離での会話や発声」
いわゆる「3密」の条件を満たす環境を避けることが肝要です。
 
具体的にまず換気ですが、当院の待合室は大人5人が余裕で座れる広さがありますが、なるべく待合室に患者さんが重ならないように工夫しています。待合室のドアも開放しています。また付き添いの方あるいは他の患者さんとはどうしても接触したくない方は車の中で待っていただくようにしています。幸い当院には専用駐車場が5台ありますので、十分それに対応できます。
 
次に診療室も窓を開けて風通しを良くして換気しています。さらに強力で大型の換気扇を常時作動させています。また完全個室もありますので、特に症状がなく定期検診で来院された患者さんには優先して、完全個室を使用していただきます。
 
もちろん患者さんの治療が終わるごとに使用器具やチェアーの消毒を徹底して心がけ、それに対応するスタッフの人数も確保しています。また治療するスタッフはマスク、グローブ、ゴーグル(フェイスシールド)を着用し、白衣は長袖を使用しています。
 
ただし予約に関しては、従来より間隔を開けさせていただいていますので、ご了承ください。なお仕事や学業の都合でどうしても日程の都合がつかない患者さんに限り、従来通り短期集中で行っています。
 
最後に当院からのお願いですが、新型コロナウイルス感染者ならびに感染の疑いのある患者さんは、大変申し訳ありませんが、来院をお断りしています。お住まいのある相談窓口(西宮市の場合はTEL0798-26-2240)に連絡してその指示に従ってください。
 
念のため申し上げますが、感染症発生当初から、歯科治療を通じての患者さんの感染報告は4月14日現在ありません。
 
歯科医院への通院は不要不急の外出ではありません。新型コロナウイルス感染の疑いさえなければ、どうか安心してお越しください。お待ちしています。
2020年-4月
歯並びが悪くなる原因(3)
大人になってから「歯並びが悪くなる原因」についてです。
第1位は「歯周病」です。歯周病が進行すると、歯を支えている歯槽骨がなくなり、歯が動揺してきます。歯がグラグラしてくると、隣同士の歯の接触面(コンタクトポイント)が緩くなり、歯と歯のすき間が大きくなります。そうなると歯が前後左右上下に動きますので、歯並びが悪くなるのです。これが大人になって「歯並びが悪くなる」最大の原因です。歯周病の方は、歯並びが悪くならないためにも、歯周病の治療を継続して行ってください。
 
次の原因は、抜けた歯をそのまま放置しておくことです。むし歯や歯周病で、やむを得ず抜歯した場合、もしくは自然に抜けた場合、そのまま放置しておくと、隣の歯が寄ってきたり、嚙み合わせの歯(対合歯)が伸びてきたりします。傾斜と挺出と言われる現象です。歯並びだけでなく、噛み合わせも悪くなりますので、注意が必要です。親知らずのように抜いても入れる必要がない歯もありますが、それ以外の歯を抜いた場合あるいは抜けた場合は、必ずかかりつけの歯科医と相談してください。
 
それでは、むし歯で歯を抜いたこともない、歯周病と言われたこともないのに、最近歯並びが悪くなってきたと言う方も現実におられます。この原因は残念ながら「加齢」です。一般的に年齢を重ねると、上の歯は少しすき間ができてきます。逆に下の歯は詰まってきて少しガタガタになります。特に高齢者ではそれが顕著になってきます。でもこのことは病気ではありません。生理的現象です。
 
ただ年を取って歯並びが悪くなると、必然的に歯磨きが難しくなります。だからこそ高齢者ほど、こまめに歯科医院に通って、ご自身では磨けない箇所をケアしてもらう必要があるのです。年齢を重ねると多少歯並びが悪くのは容認していただいて、それに見合うお口のケアをしていただくことが肝要です。そのことがご自身の歯の寿命を少しでも延ばしてあげる大切なことです。
 
たかが歯並び、されど歯並びです。年を取って歯並びが悪くなったと思ったら、ぜひ一度ご相談ください。お待ちしています。
2020年-3月
歯並びが悪くなる原因(2)
「遺伝」以外に「歯並びが悪くなる原因」はあるのでしょうか?
答えはイエスです。まず「顎の発育不良」です。小さい頃から軟らかい物ばかり食べて、噛む回数が少ない、またはほとんど噛まずに飲み込んでいますと、顎の骨に刺激が与えられずに顎の成長が妨げられます。すると、歯が並ぶスペースが確保できずに、歯並びが悪くなります。永久歯自体の大きさは、生まれ持ったものなので、顎が小さいと歯がきれいに並ぶスペースが不足するのは当然です。
 
このことについて一言申し上げますと、小さなお子さんを育てるご両親は、誰でも例外なくとても忙しく時間がありません。ついついお子さんにはいつでも「早くしなさい!」と言ってしまいます。食事をする時も「ぐずぐずしないで早く食べてしまいなさい!」と言うようになります。これは絶対にNGです。
 
小さなお子さんは、ご両親の言うことを忠実に守って早く食べようとします。そうすると必然的に噛まずに飲み込むようになります。その結果「顎の発育不良」が引き起こされます。どうか食事の時は「ゆっくりよく噛んで食べなさいよ」と言ってあげてください。
 
最近気になるのは、女の子の歯並びです。私が開業した頃の30年前に比べて、今の女の子はいわゆる「小顔」でスタイルの良い子が増えています。食生活や環境の変化がもたらした本当に良いことですが、いかんせん「小顔」の子は当然ですが顎も小さくなりますので、歯並びに関してはスペースがなくなりますので支障が出てきます。男の子も最近「小顔」の子がいますが、女の子のご両親は特に気をつけてあげてください。
 
次に「歯並びが悪くなる原因」として考えられることは、「悪習癖」です。典型的な悪習癖が、指しゃぶりです。もちろん幼稚園くらいまでは指しゃぶりをしていても将来的にほとんど問題にならないケースが多いのですが、永久歯が生えてくる小学生になるまで指しゃぶりをしていると、上顎前突や開口(口を閉じても上下の前歯が重ならず、すき間が開いた状態になること)になります。また頬づえをつく癖があると、歯が正常な位置から動いて歯並びが悪くなります。特に最近のお子さんは、スマホゲームなどに夢中になっている時の姿勢に気をつけてあげてください。
 
さらに学童期児童の「歯並びが悪くなる原因」の一つとしてあげられるのは「口呼吸」です。鼻づまりや扁桃腺炎(アデノイド)などによる「口呼吸」が原因で上顎骨が狭くなり、歯並びが悪くなり不正咬合を引き起こします。
 
もう一つ、これが一番重要なことですが、乳歯のむし歯を治療せずに放置すると、むし歯で欠けた部分に隣の歯が寄って来て、永久歯の並ぶスペースが狭くなり歯並びが悪くなります。乳歯をむし歯で早期に抜歯した場合も同様です。乳歯の前歯に関しては、永久歯の前歯の歯並びのことを考えて早期に抜歯する場合がありますが、乳歯の奥歯(臼歯)に関しては、早期に抜歯すると歯が寄って来て永久歯が生えるスペースがなくなり、歯並びが悪くなりますので、できるだけ乳歯の奥歯は抜かないようにすることが大切です。そのためにも乳歯のむし歯は早期発見早期治療が重要です。
 
次回は、大人になってから「歯並びが悪くなる原因」についてです。高齢者の方はぜひ読んでください。
2020年-2月
歯並びが悪くなる原因(1)
今回のコラムは、前回の「矯正治療について」に関連しますが「歯並びが悪くなる原因」についてです。私が所属している兵庫県歯科医師会が毎月神戸新聞に掲載している「でん太が語る歯の豆知識」という連載にも、このことが載っていましたので、これを参考に述べてみたいと思います。「子供編」と「大人編」に分けて3回シリーズでお知らせします。まず子供編からです。
 
歯並びが悪くなる原因ナンバーワンは、残念ながら「遺伝」です。たとえば両親のどちらかが出っ歯(上顎前突)、あるいは受け口(下顎前突)、もしくは乱ぐい歯(叢生)の場合、その両親のお子さんも出っ歯や受け口もしくは乱ぐい歯になりやすいということです。
 
また確率的には少ないのですが、たとえ両親が正常な歯並びでも、両親の父母、つまりそのお子さんの祖父母4人のうち、誰かが歯並びや嚙み合わせに異常がある場合、それが孫に遺伝することがあります。いわゆる隔世遺伝と呼ばれるものです。
 
ここで注意していただきたいのは、両親または祖父母の「遺伝」が原因で歯並びが悪くなったとしても、それを両親や祖父母のせいにしてはいけません。容姿が悪いのを両親のせいにしたり、背が低いのを祖父母のせいにするのと同じです。これは絶対にダメです。この世に生を受けたのは、間違いなく両親のおかげですし、必ず両親または祖父母の良い遺伝子も受け継いでいます。「遺伝」というのは、良い遺伝子も悪い遺伝子も両方受け継ぐものです。このことをお子さんにも十分説明する必要があります。
 
ついでに補足しますと、むし歯になりやすいかどうか、歯周病になりやすいかどうか、これも「遺伝」が大きく関与しています。私の30年以上に及ぶ長い拙い開業医歴の中で、祖父母、両親、子供と三世代を続けてお口の中を治療させていただく場合が多々あります。稀ですが四世代に渡って治療したご家族も何組かあります。むし歯のできる箇所(部位)や歯周病が進行する過程まで遺伝していると考えられる場合も珍しくありません。
 
どうか歯並びが悪いのは、両親や祖父母のせいだと不平を言うことなく、前向きに捉えていただきたいと思います。
次回は「遺伝」以外の「歯並びが悪くなる原因について」お知らせします。
2020年-1月
矯正治療について(2)
矯正治療についてpartⅡです。今回は矯正する時期についてです。
この件についても前回同様に保田先生のコラムを引用させていただきます。
 
子供の矯正の相談に行って「一刻も早く矯正治療をしなくてはならない」「手遅れだ」等と言われると、ご両親はどんな気持ちになるのでしょうか?
 
そもそも矯正治療の対象となる歯並びや嚙み合わせの悪さは、命の危険を伴うようなものではあり得ません。百歩譲って、術者(矯正医)にとって矯正治療のやりやすい時期を逸した、効果的な処置のできる時期を逃したという意味だとしても、アンカースクリュー(矯正装置)の登場など、今の矯正治療の技術的な進歩をもってすれば、手遅れ等という文言は、自らの技術の無さを露呈しているようなものに思えてなりません。また、先生と名の付く者から、手遅れなどと言われると、少なからず精神的にダメージを受けるものです。慎まなくてはなりません。
 
つまり結論は、確かな技術と経験を持った矯正専門医であれば、そんな急ぐ必要はありませんよ、ということです。
 
今回のコラムは、私がご紹介する矯正専門医の宣伝では決してありません。私の33年に及ぶ長い拙い開業歴の中で、矯正しなくて本当に良かったと思う患者さんが数え切れないほどおられます。反対に矯正する必要がなかったのにと思える患者さんも同じ数だけおられます。その方たちの二の舞にならないように願っているだけです。ご参考になれば幸いです。
2019年-12月
矯正治療について(1)
今回は矯正治療についてです。
最初にお断りしておきますが、当院では矯正治療は行っていません。
ですが矯正治療のご相談は受け付けています。私自身は矯正治療を行ったことはありませんが、矯正治療に関しての専門的な知識は、おかげさまで長い経験が物を言いまして持ち合わせています。
 
ご相談を受けた後、矯正治療が必要かもしれないと認めた場合は、矯正治療専門医(日本矯正歯科学会認定医)をご紹介します。いずれも阪大歯学部を卒業して矯正専門医として開業しているドクターです。
一人は私の先輩で兄と同級生の保田先生です。甲子園口で開業しています。もう一人は後輩ですが、阪神西宮駅で開業している植木先生です。二人とも歯科矯正学を専攻して大学院を卒業、博士号を取得している矯正専門医です。手前味噌ですが、二人とも技術も経験も申し分ありません。当院の紹介状があれば矯正の相談は無料で行ってくれます。
 
さて昨今の世相を反映して矯正の相談は後を絶ちません。そこで今回のコラムは、矯正治療を本当にしなくてはならないのか、それともする必要がないのかについてお知らせします。どのご両親も我が子の歯並びに関しては、きれいな歯並びであって欲しいと願っています。この問題に関して、日頃から矯正治療の相談でお世話になっています保田先生が記したコラムが大変わかりやすく書いていますので、勝手ですが引用させていただきます。
 
最初にどこからが矯正しなくてはならないのか、しなくても良いのかという基準についてです。答えは、そのような基準はありません。矯正治療の大きな目的はQOL(Quality of Life)の向上にあるので、しないといけないかどうか決めるのは、歯科の先生(矯正医)ではないのです。
 
続けて保田先生の個人的見解として、歯科医は歯並びや嚙み合わせの状態、顔貌、姿勢を見たり、本人や保護者に対する問診を通じて、どこにどんな問題点があるのか判断して、その情報を提供しなくてはなりません。そしてそのような問題は今後、悪影響を及ぼすものなのか、そうでないのか、放置すればどうなるのかを説明して、そのうえで、家庭の価値観や、転勤が近いとかの諸事情と照らし合わせて、矯正が必要かどうか決めていただいたら良いと言っています。
次回は矯正する時期についてお知らせします。
2019年-11月
大人の予防歯科(2)
大人のための予防歯科partⅡです。
皆さん「根面う蝕」というむし歯をご存知でしょうか?「根面う蝕」とは露出した歯の根元に出来るむし歯のことです。さまざまな要因(一番多いのが歯周病です)で、歯ぐきが下がって、歯の根元部分(根面)が露出したところに発生します。つまり「根面う蝕」は大人になると出来やすくなるむし歯です。しかも根元部分に出来るために、自分自身では気が付きにくく、進行もしやすいために、歯を失うことにつながりかねない恐い病気です。高齢者に多いむし歯と言っても過言ではありません。
 
もう少し詳しく述べます。露出した歯の根元は弱く、非常にむし歯になりやすい場所です。「食べ物が歯にはさまる」「歯の根元がしみるように感じる」といった症状がある方は、もしかすると「根面う蝕」かもしれません。
 
なぜ根元が露出したら、しみるのかと言いますと、歯は歯ぐきから上の部分を歯冠部を呼び、その表面は硬いエナメル質覆われています。ところが歯の根元の部分はエナメル質の覆われていないので、先ほど申しましたが、さまざまな要因で歯ぐきが下がって、歯の根元が露出すると、むし歯になりやすくなるのです。しかも歯の根元の部分は直接象牙質で覆われていて、その象牙質には象牙細管が存在して、その象牙細管には神経(歯髄)が通っているのです。ですから歯ぐきが下がって「根面う蝕」になると、歯がしみるようになるのです。
 
この「根面う蝕」の予防は、歯周病の予防と並行して非常に重要です。歯が長くなったように感じたり、最近妙に冷たいものがしみるようになってきたと感じたりするようでしたら、「根面う蝕」かもしれません。かかりつけの歯科医院で、歯周病と一緒に「根面う蝕」もチェックしてもらってください。
 
当院ではベテランの歯科衛生士が3名常勤しています。「根面う蝕」を見つけることはもちろん、「根面う蝕」を予防する歯磨き方法もわかりやすく教えてくれます。ぜひ一度お越しいただければ幸いです。
 
大人の予防歯科、ご参考になりましたでしょうか?
これからは子供も大人も予防の時代です。
2019年-10月
大人の予防歯科(1)
今回のコラムは、大人の予防歯科です。
前回は子どもの予防歯科のことを述べました。実は日本歯科医師会は「0才からの予防歯科」というリーフレットを発行する前に「はじめよう!予防歯科」という大人のためのリーフレットを先に出版しました。今回ご紹介する順番が逆になりましたが、日本歯科医師会が先に発行したリーフレットを中心に「大人の予防歯科」についてご紹介させていただきます。
 
最初に申しますが、もちろんこのリーフレットも「0才からの予防歯科」と同様に当院では、定期検診に来ていただいた患者さんに無料で配布しています。
 
一般的に予防歯科といいますと、どうしても子どもの歯のことをイメージしますが、超高齢化社会に突入して、予防歯科という言葉は、高齢者向けの言葉としても十分適用できるものです。「予防歯科」とは、日本歯科医師会のリーフレットによると冒頭にこう述べています。
 
むし歯や歯周病になってからの「治療」ではなく、むし歯や歯周病になる前の「予防」を大切にすることです。歯とお口の健康を積極的に守るため、歯科医院での「プロフェッショナルケア(プロケア)」と歯科専門家(歯科医師と歯科衛生士)の指導に基づいた毎日の「セルフケア」の両方で、「予防歯科」を実践しましょう。そのためにも、歯科医院での定期的な健診が大切です。生涯を通じて健康な歯でいるために「予防歯科」を始めましょう。
 
もっとわかりやすく言いますと、定期的に歯科医院通って、歯や歯ぐきの状態を、歯科医師や歯科衛生士にチェックしてもらい、歯石や磨き残しがある箇所の歯垢を取り除き、ご自身に合った歯磨き方法やフッ素塗布などの専門的指導を受けてもらうこと、これがプロケアです。
 
そして歯科医師や歯科衛生士に教えてもらった自分に合った歯磨き方法を毎日行い歯のお手入れをする。具体的には歯垢を残さないように1本ずつ丁寧に磨くこと、歯ブラシが届きにくい歯と歯の間はフロスや歯間ブラシ、ワンタフトブラシを使って歯垢を取り除くこと、必要に応じてフッ素配合の歯みがき粉やデンタルリンスを使用することなどです。これがセルフケアです。
 
そんなことは言われなくてもわかっているとお考えの方が多いと思いますが、ここで一番重要なことは、お口の中の状態は、歯並びや歯と歯ぐきの状態、食生活、もちろん年齢性別によっても、一人ひとり全く異なるということです。だからこそ歯科医院で指導を受けて、ご自分に合った最適な方法でお口の中をお手入れすることが大切です。 
次回は大人のむし歯「根面う蝕」についてです。
2019年-9月
0才からの予防歯科(3)
④ 6才~12才(永久歯が生えてきたら)
個人差はありますが、6才前後に永久歯が生えてきます。下の前歯から生えるお子さんもいれば、下の奥歯(いわゆる6才臼歯)から生えるお子さんもいます。下の前歯は乳歯が抜けて生えてきますので、ほとんどのお母さんは気がつきます。ところが6才臼歯は一番後ろの乳歯のさらに奥からそっと生えてくるので、見過ごしてしまいます。
 
この6才臼歯こそが生涯一番大切な歯なのです。正式には第一大臼歯と呼ばれて永久歯の中でかみ合わせの中心となり、歯並びの基礎となる重要な歯です。この6才臼歯をむし歯から守ることこそが、お母さんとお父さんの最重要ミッションです。
 
6才臼歯は他の永久歯に比べて格段にむし歯になりやすいのです。なぜなら、まずお口の中の一番奥に生えるので磨きにくいこと、次にかみ合う面が深く食べかすがたまりやすいこと、さらに完全に生え終わるまで期間が長いので、その間6才臼歯に歯肉がかぶさっている状態が続き、食べ物が詰まりやすいこと、などがあげられます。
 
このような要因が重なり合っていますので、6才臼歯をむし歯から守ってあげることは、お母さんとお父さんにとってかなり難しいミッションですが、インポッシブルではありません。このミッション遂行のための方法は2つです。
 
まず一つ目のミッションは、仕上げ磨きです。
6才臼歯を小学生のお子さん一人だけの力で完璧に磨くのは到底無理です。ですからお母さんとお父さんが交代で毎日、この6才臼歯を磨いてあげましょう。ポイントは仕上げ磨きの姿勢です。お子さんの頭をご両親の膝の上に乗せて、上から口の中をのぞき込んで、奥に生えている6才臼歯を直視しながら磨くことです。その際に歯ブラシを歯並びに対して斜め45度くらいの角度に横から入れて磨くのがコツです。そのためにもあまり大きいヘッドの歯ブラシは推奨できません。小さいヘッドの歯ブラシでないと奥まで届かないからです。ぜひ実戦してみてください。
 
二つ目のミッションは、かかりつけの歯科医院に行って、この6才臼歯にフッ素塗布とフィッシャーシーラントをしてもらうことです。
フィッシャーシーラントとは、むし歯になりやすい歯の溝の部分を、フッ素含有の樹脂でコーティングする方法で歯は削りません。健康保険も適用されます。当院はベテランの歯科衛生士が常時3人勤務していますので、すぐに行えます。生え始めの6才臼歯にフッ素塗布とフィッシャーシーラントをすることは、むし歯予防の基本と言われています。
 
お子さんの歯のために、お母さんとお父さんにして欲しい最後のミッションは、ただ単に仕上げ磨きをしてあげることではありません。大切なのは、歯の汚れを取り除く能力を、お子さん自身が身に付けられるように、成長段階に応じて手助けをしてあげることです。このことこそ最終的なミッションです。そして将来大人になっても健康な歯でいられるように、自発的な歯磨き習慣を身につけてあげてください。そのためにも、お母さんとお父さんにお願いしたいのは、乳歯が全部抜けて永久歯に生え変わるまで、つまり少なくとも小学校を卒業するまでは、恥ずかしがらずに仕上げ磨きをしてあげましょう。塾の勉強や野球やサッカーの練習も大事ですが、仕上げ磨きも同じくらい大切なことです。
次回は大人のための予防歯科です。ご期待ください。
2019年-8月
0才からの予防歯科(2)
② 0才~2才(乳歯が生えたら)
個人差がありますが、生後8ヶ月頃から下の前歯が生えてきます。この時期に一番注意が必要なのは、いきなり無理に磨かないことです。生後すぐの赤ちゃんは、口の中を触られることに慣れていないだけでなく、口の中に物を入れられると吐き出そうとします。これは母乳以外の異物の侵入を避けるための哺乳類特有の本能的な反射なのです。
 
このことを理解せずに、「歯を磨いてあげなきゃ!」と意気込むお母さんは、緊張して怖い顔になり、必然的に歯ブラシを持つ手に力が入ります。子どもはそのことを敏感に察知して「お母さんの仕上げ磨きは嫌なこと」という先入観を持ちます。この先入観だけは絶対にNGです。
 
1日1回以上(1回だけでもOK)、特に寝る前にお母さん自身がリラックスして、優しく磨いてあげてください。歯ブラシは子ども用の歯ブラシではなくて、仕上げ磨き用のヘッドの小さい歯ブラシを使用してください。
 
なおこの時期に、むし歯になりやすい場所は、上の歯の前歯の外側と奥歯のかみ合わせのところです。
③ 3~5才(乳歯が生えそろう頃)
いよいよ自分でしっかり磨く練習をする時期です。乳歯は全部で20本生えます。早い時期からきちんとして磨き方を覚えることがとても大切です。仕上げ磨きも年齢に合わせて行ってください。
 
西宮市は私も所属する西宮歯科医師会とタイアップして、西宮市在住の方を対象に1才半検診と3才児検診を行っています。これは小さい子どもさんを持つご両親にとって本当に良い制度です。検診を受けることはもちろん、歯に関するさまざまな疑問点や、わからないことがあれば、ぜひ検診の時に聞いてみてください。ご希望なら歯科衛生士さんによる歯磨き指導もしてくれます。
 
この年齢で重要なことは、乳歯だからといって仕上げ磨きを絶対におろそかにしないことです。将来永久歯に生え変わった時を想定して、仕上げ磨きは、お子さんが自分で磨いた後に、必ず毎日、出来れば夜寝る前に、磨いてあげてください。
 
使用する歯ブラシは、お子さん自身が使用する子ども用の歯ブラシと、お母さんとお父さんが使う仕上げ磨き専用の歯ブラシとの2本を、使い分けてください。
この時期にむし歯になりやすい場所は、前述した場所に加えて、歯と歯の間(歯と歯のすき間)です。
次回は永久歯が生えてきた時のむし歯の予防方法です。
2019年-7月
0才からの予防歯科(1)
今回のコラムは、0才からの予防歯科です。
私が所属する日本歯科医師会から「親子でやろう!0才からの予防歯科」というタイトルの小冊子が出版されました。日本歯科医師会が大手歯科メーカーとタイアップして作成した患者さん向けのリーフレットですが、とても良く出来ています。当院でも小さいお子さんを持つお母さんやお父さん、それに妊娠中のお母さんに、このパンフレットを無料で配布しています。今回はその内容を簡単ですがご説明します。 
 
まずこのリーフレットには「お子さまの歯の成長に合わせて、今日からできる子供の予防歯科ガイド」という副題が付いています。一般的に生後8ケ月頃から乳歯が生えはじめ、6歳頃から永久歯に生え変わっていく、こどもの歯。自分できちんと磨けるようになるには、長い年月が必要です。子どもの歯を守るのは、お母さんとお父さんの正しい知識と習慣が不可欠です。親子で一緒に続けていって、いずれは一人で上手に磨けるその日まで頑張りましょう。そんな想いを込めて、この小冊子を日本歯科医師会が作りました。
それでは今からダイジェストでお伝えします。
 
① マタニティ~0才(歯が生えるまで)
すでにご存知の通り妊娠すると、つわりや女性ホルモンの分泌増加により、口腔内環境が悪化して、むし歯が出来やすく、歯周病が進行しやすくなります。2才ですでにむし歯があるお子さんは、お母さんの「74%がむし歯あり」というデータがあります。
 
つまりマタニティ期と出産直後のお母さんの正しい歯磨きの励行と食事習慣の改善がとても重要だということです。生まれたばかりの赤ちゃんの口の中には、むし歯菌はいません。むし歯の原因となる細菌は唾液を介して、お母さんやお父さん、兄弟姉妹、ひょっとしておじいちゃんおばあちゃんから伝わります。お母さんだけではなく家族全員で意識することが重要です。
次回は0才から2才(乳歯が生えたら)です。
2019年-6月
口腔がんについて(partⅡ)
今回口腔がんのコラムを見ていただき、舌がんを含む口腔がんに対するお問い合わせがとても多く、沢山の患者さんが来院されました。
 
結論を先に申し上げますと、残念ですが2名の方が口腔がんでした。一人は舌がん、もう一人は歯肉がんでした。ただ不幸中の幸いで、お二人とも早期がんで発見できましたので、即刻大学病院の口腔外科に紹介しました。現在はお二人ともすでに手術を終えて無事退院されました。退院してお二人の元気な姿を拝見した折は、私も安堵しました。「先生、おかげさまで命拾いしたわ!」と言ってくださった時は、お役に立てて本当に良かったと心底思いました。
 
さて今回舌がんを心配して来院された患者さんの中で最も多かった症例は、舌がんでもなく口内炎でもありません。それは舌痛症と舌炎です。
 
まず舌痛症について少しご説明します。症状としましては、舌がヒリヒリする、やけどみたいな痛みがある、鏡を見ると赤く腫れている、などの症状です。年齢的には中高年の女性の方に多く、体調の変調をきたすことにより症状が悪化したり寛解したりします。ほとんどの場合は積極的な治療はせずに経過観察すれば問題ありません。
 
次に舌炎ですが、さまざまな舌炎がありますが、特に舌がんではないかと心配されるのが、舌の奥の後方側面に赤く腫れたものに気づいて、だんだん大きくなってきたと感じる場合です。これは葉状乳頭と呼ばれるもので、いわゆる扁桃腺が舌にも存在して、この舌扁桃が肥大すると舌根側縁部に葉状乳頭が出現して、赤く腫れているように見えるので、舌がんではないかと心配されます。もちろん舌がんが良くできる場所と同じ部位ですので、鑑別診断と経過観察が必要ですが、葉状乳頭でしたら正常な組織ですので問題ありません。
 
舌がんかもしれないと思って歯科医院を受診する動機と症状は、患者さんによってさまざまですが、その患者さんの訴えをしっかりお聞きして、正確な診断を下すことは、歯科医師にとって最も重要な責務の一つです。
ご心配でしたら、いつでも来院してください。お待ちしています。
2019年-5月
口腔がんについて(2)
口腔がんの続きです。
口腔がんは歯科医院で発見されることが多く、その発見には定期検診が重要な要素です。特に近年の欧米諸国では歯科医院で積極的に口腔がん検診を行っていることで死亡率の減少に繋がっています。つまり歯科医院での早期発見と早期診断が命を守るキーワードです。
 
単なる口内炎かな?と思っても2週間以上治らない場合は、迷わず来院してください。来院して直接お口の中を見せていただき、少しでも疑わしいと判断した場合は、即刻大きな病院の経験豊富な信頼できる口腔外科の専門医をご紹介いたします。
 
口内炎ではないのにレーザー治療をすると、良くなるどころか反対に悪化して、がんが広がります。またせっかく定期検診に来ていただいても、担当の歯科衛生士の診療だけでは口腔がんを見落とす可能性があります。さらに経験の浅い歯科医師では口内炎と口腔がんの見分けがつきません。当院では定期検診でお越しの患者さんには、治療の最後に必ず院長自身が異常がないかどうかチェックします。
 
定期的に来院していただく患者さんのお口の中の変化と異変に気づくことは、歯科医療職の責務です。最近は患者さんに少しでもアピールするために歯科口腔外科を標榜する若い開業医が増えていますが、口腔外科の専門医とは限りません。
 
繰り返し申しますが、開業医では口腔がんの治療は出来ません。早期発見を心がけ、いかに早急に口腔外科のある大きな病院に受診して治療を行うことが重要です。早期の口腔がんの診断は必ずしも容易ではありません。確定診断及び精査は必ず口腔外科の専門医に依頼し、まず「口腔がんを疑う」ことが大切です。これを機に口腔がんに対する理解が進み、口腔がんの多くが早期がんのうちに診断され治療されることを願ってやみません。
 
最後に強調したいことは、むし歯や歯周病だけが、お口の中の病気ではないということです。くれぐれもご注意ください。
2019年-4月
口腔がんについて(1)
今回のコラムは、口腔がんについてです。
つい2ヶ月ほど前のことですが、元アイドルの女性が舌がん(ステージ4)を公表して、11時間に及ぶ外科手術を行ったことが、メディアに取り上げられました。
 
その内容を読むと、最初は口内炎だと思ってレーザー治療や塗り薬を塗っていましたが、徐々に悪化したので専門医に診てもらったところ、口内炎ではなく、舌がんだったということです。しかもその舌がんは進行していてすでにリンパ節にも転移してステージ4の診断でした。
 
メディアの記事を読む限り本当に残念な結果です。もっと早く見つけてあげれば良かったと思ってなりません。そこで今回は舌がんを含む口腔がんについてお話します。
 
代表的な口腔がんは舌がんと歯肉がんです。口腔がんの中で舌がんが約60%を占めます。舌がんを含む口腔がんは比較的珍しいがん、つまり希少がんの一つと言われていますが、日本での患者数は30年前と比較して約3倍に増加しました。近年さらに増加傾向にあり、厚生労働省の調査では今後数10年で、さらに3~4倍に増加すると言われています。
 
口腔がんは早期に発見すれば治癒率は高く、手術後の機能障害も少ないのですが、残念ながら早期がんで専門医を受診する患者さんは4人に1人に過ぎません。つまり口腔がんの一番怖いところは、病状が進行した状態では予後も悪く、容易に死に至る恐ろしい病気であるということです。年間約7000人が口腔がんに罹患して、その約45%が命を落とすと言われています。
 
口腔がんの患者さんの男女比は、3対2で男性に多く、約80%が50才以上ですが、冒頭の元アイドルのように女性でも罹患しますので、男女関係なく注意が必要です。
次回は口腔がんの早期発見方法についてです。
2019年-3月
映画「笑顔の向こうに」
今回のコラムは、映画「笑顔の向こうに」についてです。
この映画は私も所属する日本歯科医師会の全面協力のもとに制作された映画です。この映画を制作するきっかけの一つは、歯科技工士や歯科衛生士不足が以前から大きな問題となっていて、その解決を図ることでした。
 
ですからこの映画は、歯科医療の現場、特に歯科技工士と歯科衛生士が主役です。内容を簡単にお話すると、新人の歯科衛生士と若手の優秀な歯科技工士が金沢から都会の歯科診療所で働くようになり、患者さんや取り巻く人々と触れ合いながら成長するというストーリーです。
 
この映画を通じて「歯科技工士や歯科衛生士はこんなに素晴らしい仕事なのだ」と思ってもらい、さらに歯科医療がこれからの社会に役立つ重要な役割を担っていくということを認識していただけたら幸いです。
 
監督は榎本二郎さん、主役の歯科技工士役に高杉真宙さん、歯科衛生士役に安田聖愛さん、他にも秋吉久美子さん、松原智恵子さん、中山秀征さん、太平サブローさんらが出演しています。
 
この映画は、第16回モナコ国際映画賞で最優秀作品賞および助演男優賞を受賞しました。2月15日から全国のイオンシネマにて公開中です。興味のある方はぜひご覧ください。よろしくお願いします。
2019年-2月
オーラルフレイルとは?
今回のコラムは、オーラルフレイルについてです。
最近マスコミで、オーラルフレイル、あるいはフレイルという言葉を聞く機会があると思います。一体どんな内容の言葉でどんな意味があるのか、簡単にご説明します。
 
まず「フレイル」とは、直訳すると「虚弱」と言う意味です。つまりフレイルとは、高齢になって心身の機能(筋力、認知機能、社会とのつながりなり)が低下した状態のことを言います。
 
次に「オーラルフレイル」とは、口のささいな衰えのことです。たとえば発音がはっきりしない、食べこぼしがある、わずかにむせる、噛めないのものが増えてきた、などです。オーラルフレイルは、フレイルの前の段階で、口の機能が衰えることによって、フレイルが始まることから、口に関するささいな衰えを軽視しなしないようにして、口の機能の低下、食べる機能障害、さらには心身の機能低下までつながる負の連鎖に警笛を鳴らした概念です。
 
少し難しい表現になりましたが、オーラルフレイルとは、つまり噛めない、噛む機能の低下、などにより口腔機能が低下することがフレイルの引き金となり、心身の機能が低下するのを防ごうとする考え方です。
 
もっと簡単に言えば、口に関する「ささいな衰え」が積み重なると、心身の機能低下を引き起こして、さまざまな病気になってしまいますよということです。
 
このオーラルフレイルを予防するには、次の3つのことが重要です。
① 口のささいな衰えに気を付ける。
② バランスの良い食事を取る。
③ かかりつけの歯科医院を持って定期的に行く。
 
さらにフレイル予防の3つの柱は、①栄養、②身体活動、③社会参加、です。
オーラルフレイルもフレイルも難しい話ではありません。いつまでも元気で、おいしく食べられるように、かかりつけの歯科医院に定期的に通って、ずっと笑顔で健康長寿を目指してください。
2019年-1月
マウスガードについて
今回のコラムはマウスガードについてです。
今年はいよいよラグビーのワールドカップが日本で開催されます。
自慢話になって恐縮ですが、ワールドカップ日本代表に名を連ねる福岡堅樹選手は、私の大学時代の仲の良かった同級生の息子さんです。同級生の彼も私と同じ公立高校(彼は天王寺高校、私は膳所高校)から現役で阪大に合格して、卒業するまで6年間ずっと一緒でした。彼も私もお世辞にも模範的な学生ではありませんでしたが、苦楽を共にしました。彼は学生時代から医学部のラグビー部に所属して、勉強よりもラグビーを頑張っていました。ご子息の堅樹さんの韋駄天ぶりは、間違いなく父親譲りです。私流に言わせてもらえば、まさに血統です。私自身はラグビーの経験はありませんが、是非ともワールドカップ日本代表としてご子息の堅樹さんに活躍して欲しいと願っています。
 
さて本題です。最近はラグビーに限らず、サッカー、野球、テニス、ゴルフなどのスポーツを本格的に取り組んでいる子供さんが増えています。その中でも特にコンタクトスポーツと言われる、相手と接触するスポーツでは、口や顎のケガが多いのが特徴です。ラグビーはもちろんマウスガードの着用が義務化されていますが、例えばバスケットボールでも本場NBAの選手はほとんどのプレイヤーがマウスガードをしています。
 
マウスガードには二種類あり、スポーツ用品店で購入できるものと、歯科医師が歯型を取って作製するものとがあります。歯科医師が作製するカスタムメイドのマウスガードは、市販のものに比べてお口にピッタリフィットしますので、外れにくく違和感がありません。スポーツ歯学の研究からマウスガードの可能性は広がっています。マウスガードは大切な歯を守り、脳震とうの発生を抑制するだけではなく、運動パフォーマンスの向上にも効果的です。肝心の費用ですが、スポーツ用のマウスガードは残念ながら保険適用外です。当院では5000円で作製しています。色は単色ですが7種類の色から好きな色を選んでいただきます。型取りをして約1週間出来ます。
 
ぜひ歯科医院でカスタムメイドのマウスガードを作製して、スポーツをする子供さんの大切な歯を守ってあげてください。
頑張れワールドカップ日本ラグビー!福岡堅樹選手!
2018年-12月
受診申込書について(3)
受診申込書、私自身の体験談です。
少し前のことですが、朝起きると目の調子が悪いことに気がつきました。仕事柄、目を酷使していますので目の状態には常日頃から気をつけています。ところがその日はいつもと違って視野の中にギザギザした明るい暗点が出てきて、見えにくい状態になりました。1時間ほどでその症状は治まって事なきを得ましたが、それから2週間の間に同じ症状が3回ほど続きました。眼の動脈の一時的な痙攣による閃輝暗点と言われる症状です。すぐに調べましたが、私の年齢で発症すると、脳梗塞や脳腫瘍などの悪い病気の可能性がなくもありません。脳神経外科を受診して調べてもらうことにしました。
 
さて脳神経外科ですが、大学病院を受診するとなると、地域医療を通して予約が必要ですし、それからさらにMRI検査をするためには、かなりの時間と日時を要します。そこで開業医のドクターを探すことにしました。真っ先に思い浮かんだのが、愚父がクモ膜下出血で倒れて療養中にお世話になったドクターです。すぐに予約を取って診ていただきました。
 
もちろん初診ですので受診申込書に症状を記入します。閃輝暗点の症状の他に、父が以前お世話になったことも記しました。その先生とは初対面でしたが、受診申込書を一瞥した先生は、父のことを覚えてくれて、あなたがご子息でしたかと親しみを込めて接してくれました。柄にもなく緊張していましたが、その先生の言葉に受診申込書の大切さを痛感した次第です。心配でしょうからと言って、初診当日にMRIを撮影してくれました。幸いにも脳はどこも異常がなく安心して家路につきました。
 
なかなか口で言えないことも受診申込書には気軽に書くことができます。ぜひ皆さんも受診申込書を最大限に活用して医療従事者との良好な関係を築いて、悔いのない病気の治療をなさってください。
2018年-11月
受診申込書について(2)
受診申込書(問診票)の続きです。
歯の病気と全身状態の関連性については、今さら言うまでもありません。
まずアレルギーのご質問です。
食品や薬品、金属などに対してさまざまなアレルギーがあります。特に歯科で良く使用する抗生物質や鎮痛剤に対してアレルギーがある方は、同じ薬を服用することは必ず避けなければなりません。金属アレルギーの方も同様です。最近話題になるラテックスアレルギーにも注意が必要です。
 
次に、過去にかかった重い病気と現在かかっている病気に関する質問です。これもとても重要な項目です。たとえば糖尿病と歯周病の関連性などはマスコミにも頻繫に取り上げていますので、皆さんご存知だと思います。また歯科では抜歯や切開、歯石除去など歯肉から出血する処置が多いので、いわゆる血をサラサラにするお薬(抗凝固薬、抗血小板薬)を飲んでいる方は、事前にお知らせいただく必要があります。また骨粗鬆症やリウマチ、癌の治療で骨を強化するお薬を飲んでいる方も受診申込書に書いていただきます。妊娠中の方、授乳中の方も歯科治療に制限がありますのでお知らせいただきます。その他にも色々な病気がありますが、こんな病気は歯科とは関係がないだろうなとご自分で勝手に解釈せずに、包み隠さず受診申込書にご記入ください。当院では個人情報保護法を遵守して患者さんのプライバシーは厳重に守っています。どうか安心して受診申込書に記入してください。またお薬手帳や母子手帳を持参してもらえれば、なおさら好都合です。
 
その他にもご紹介者のお名前や都合の良い予約時間や曜日を書く箇所もあります。
当院の受診申込書(問診票)は、兵庫県歯科医師会会員専用の受診申込書です。とても簡潔で記入しやすく、わかりやすい受診申込書です。ぜひご活用ください。よろしくお願いいたします。
次回は受診申込書について、私自身が患者になった時の体験談です。
2018年-10月
受診申込書について(1)
今回のコラムは受診申込書(問診票)についてです。
当院では初めて来院された患者さんに、最初に受診申込書をご記入いただきます。初めての歯科医院に初診で行く時は、皆さん不安と苦痛でいっぱいです。まずは受診申込書に記入していただき、気分を落ち着かせてください。どこがどんなふうに痛むのか、あるいはどのような治療を望んで来られたのか、受診申込書にご記入いただきます。治療に関してご自分の希望を遠慮なく書いていただいて構いません。
 
たとえば出来るだけ歯を抜きたくない、出来るだけ歯を削ってほしくない。忙しいから来院回数を少なく短期間で治療してほしい、逆にこの機会に悪いところは全部治療してほしい。出来れば保険の範囲内で治療してほしい、待たされるのは嫌だ、などです。また目の不自由な方、あるいはご高齢で小さい字が見えにくい方は、受付が代わりに聞き取るかもしくは、直接歯科医師か歯科衛生士が問診させていただきます。
 
この受診申込書が患者さんの訴え(主訴)と状態(病状)を知るための重要な情報になります。この受診申込書から治療の第一歩が始まると言っても過言ではありません。
この受診申込書をもとに、実際に患者さんと対面して、お口の中の状態を詳しく見ていくことになります。ですから、この受診申込書が患者さんと治療するわれわれ歯科医師、歯科衛生士をつなぐ架け橋になります。
 
さらにこの受診申込書(問診票)には、歯とお口以外の全身的なお身体の情報も、治療に関する重要な内容として記入していただきます。この全身的なお身体の情報が、歯の治療に欠かせないものなのです。
その理由を次回詳しくご説明します。
2018年-9月
ジルコニアクラウンを導入しました
今回のコラムは、ジルコニアクラウン導入の件です。
幸いにも、保険適用の診療で奥歯も白い歯にできるかぶせ物、いわゆるCAD/CAM冠が患者さんの皆さんに好評です。今まで気になっていた銀歯が保険で白い歯になったと喜んでもらえて、少しお役に立てたと存じます。
 
ただ材質的に銀歯に比べて割れやすいこと、また保険適用には周りにある歯の状態やかみ合わせなどの条件があります。具体的に言えば、小臼歯は適用なのですが、大臼歯に関しては下顎の第一大臼歯だけです。しかもかみ合わせや第二大臼歯が上下4本とも揃っていることなどの条件付きです。それでは他の奥歯を銀歯ではなくて、白いかぶせ物にするには、他に選択肢と方法はないのかと言えば、そうでもありません。
 
ジルコニアと言われる材質のものがあります。ジルコニアとは人工ダイヤモンドとも言われているセラミックのことです。ここ数年で飛躍的に研究が進み、人工関節に使用されるなど生体親和性が高く、歯の治療でも用いられる機会が激増しました。
 
今回当院が導入するフルジルコニアクラウンのメリットとデメリットをご説明します。
メリット
保険適用のCAD/CAM冠に比べて割れにくい、つまり材質的に十分な強度があります。
金属を一切使用していないので、金属アレルギーの心配がありません。生体親和性があります。
色が白く光沢があり変色が少ない。同時に金属を使用していないため被せた歯の周囲の歯ぐきの変色も起こしません。
デメリット
保険が効きません。つまり自費治療になります。当院ではフルジルコニアクラウンをリーゾナブルな価格(5万円)に設定しました。
フルジルコニアクラウンは、耐久性には優れていますので奥歯には適していますが、ジルコニア自体には透明感がないので、前歯にはあまり向いていません。
ぜひ一度ご検討ください。よろしくお願いいたします。
2018年-8月
歯科用ドリルを安全殺菌しています
当院はかねてより、院内感染防止については、細心の注意を払っています。特に患者さんに使用する歯科用ドリルの殺菌に関しては、専用オイルを使用する自動化システムを採用し、簡単に短時間で洗浄殺菌を可能にした、未来型殺菌装置を使用しています。
 
その特徴は、歯科用ドリルの殺菌に、生体に無害な安心オイルを使用する点です。“強力な殺菌力を持ちながら人体に低刺激な消毒剤”は、特に医療で常に求められて来ましたが、近年の研究でオイルをベースとした安全な消毒剤が開発され、それが可能になりました。そのオイルを使用して歯科用ドリルを安全殺菌します。約110℃に高温加熱したオイルが、歯科用ドリルの内部まで隅々にクリーンに殺菌・注油します。もちろんそのオイルは人体には無害でさらりとした手触りですので、ご心配には及びません。殺菌時間も約15分間とスピーディーです。
 
この装置を使用することにより、肝炎ウイルス(B型、C型)、HIVウイルス、さらに結核菌、緑色連鎖球菌、黄色ブドウ球菌、肺炎桿菌、緑膿菌、大腸菌などの細菌を死滅させることが可能です。歯科用ドリルは、ほとんどどの患者さんにも使用しますので、院内感染防止にとても効果があります。
ご安心して治療を受けてください。
2018年-7月
アナフィラキシーについて(2)
それでは一体どんな症状が起きると、アナフィラキシーなのでしょうか?
実はアナフィラキシーの症状はさまざまです。最も多いのは、じんましん、かゆみ、赤くなるといった「皮膚の症状」です。次に多いのは、目のかゆみ、まぶたが腫れる、くちびる、舌が腫れるなどの「粘膜の症状」です。そして息切れ、せき、息苦しさなどの「呼吸器の症状」、腹痛や嘔吐などの「消化器の症状」、さらには、血圧低下など「循環器の症状」も見られます。
 
特に、急激な血圧低下で意識を失うなどの「ショック症状」も10%ほどみられ、これはとても危険な状態です。
 
次にアナフィラキシーの症状が出た時の対処法と治療法をご説明します。まず対処法は、アナフィラキシーの原因となる物質をすぐに取り除くことです。治療法は、アナフィラキシーの症状によって異なります。軽い皮膚や粘膜症状の場合は、抗ヒスタミン剤、呼吸器の症状には気管支拡張薬、症状が重くなってくると、ステロイド剤などの内服薬が用いられます。
 
ところが、先ほど述べた「ショック症状」があらわれた場合は、緊急を要しますので、速やかにアドレナリン注射薬(エピペン)を注射する必要があります。注射する部位は足の太ももの筋肉です。ズボンや服を着たままでも注射は可能です。そして早急に専門医療機関に受診してください。
 
アナフィラキシーは命に関わることもあるアレルギー症状です。当院では、患者さんの万が一の場合に備えて、エピペンを使用する許可を得ている歯科医師が私を含めて2名います。どうかご安心して治療を受けてください。
 
追伸
ラテックスアレルギーの方は、事前に申し出ていただければ、お口の中を触るときは、必ずプラスチックグローブを使用させていただきます。
2018年-6月
アナフィラキシーについて(1)
今回のコラムは、アナフィラキシーについてです。
アナフィラキシーとは、発症後、極めて短時間の間に全身にアレルギー症状が出る反応のことです。歯科とは無縁と思われるかも知れませんが、実はそうとは言い切れません。
 
今年の1月、日本人医療安全調査機構の医療事故調査センターから「注射剤によるアナフィラキシーに係る死亡事故の分析」が公表されました。12件の死亡事例が紹介されていますが、原因薬剤は、造影剤4件、抗菌剤4件、筋弛緩剤2件、蛋白分解酵素阻害薬1件、そして歯科用麻酔薬1件でした。その調査によると、死亡事故を防ぐには、超迅速なアドレナリン(エピペン)の筋肉注射が不可欠であると強調されています。
 
当院では、早速エピペンを常備することにしました。ただし診療所に常備したエピペンは「使用登録医」だけが使用できます。今回、院長の私と口腔外科の認定医である常勤歯科医師が講習を受けて使用登録医になりました。来院される患者さんの万が一の場合に備えて万全を期す所存です。
 
さて本来アナフィラキシーの原因は、食物が最も多く、続いて蜂などの昆虫、そして薬物となっています。食べ物では、卵、牛乳、小麦、そば、ピーナッツなど特定の食べ物を食べた時に起こります。子供から大人まで幅広い世代で見みられますが、特に乳幼児に多くみられます。また日本では、スズメバチなどの蜂刺されによるアナフィラキシーショックで年間20人ほどが亡くなっています。
 
もう一つ忘れてはならない原因の一つに、ラテックス(天然ゴム)があります。ラテックスは医療用ゴム手袋やカテーテルなどに使用されています。歯科では医療用ゴム手袋としての使用頻度が高いので、ラテックスアレルギーがある方には特に注意しています。
次回はアナフィラキシーの症状と治療法についてお知らせします。
2018年-5月
歯はいつ磨く(2)
②についての続きです。
なぜ寝る前に磨くのが良いのか、わかりやすく説明しますと、むし歯も歯周病も寝ている間に進行するからです。寝ている間は、しゃべったり食べたりしませんので、口の中がとても静かな状態です。それゆえに、起きている時に比べて、唾液の分泌量が極端に減少します。
 
唾液は、むし歯や歯周病の原因となる細菌の活動を抑える抗菌作用や、一度脱灰した歯を再石灰化して修復する作用など、さまざまな良い働きをしてくれます。
つまり寝ている間が一番危険な状態です。ですから寝る前にできるだけ時間をかけて丁寧に磨いて、むし歯や歯周病の原因となる歯垢(プラーク)を取り除くこと。これは大正解です。
 
最後に③についてです。
ここ数年来、食後30分してから磨く方が良い、と言われています。当院に来られる患者さんからも、同じような質問を受けます。マスコミの報道による影響もあったと思います。
 
理由はこうです。食後すぐに歯を磨くと、食べ物に含まれる酸の影響で歯が柔らかくなっている状態なので、歯が削れたり傷ついたりするので良くない。唾液による歯の再石灰化が始まる食後30分後に磨くのが理想である。なるほど理屈に合っているように思えます。しかしながら、この話に基になったのは実は「酸蝕症(さんしょくしょう)」の実験なのです。しかもエナメル質より柔らかい象牙質に関するデータです。「酸蝕症」については、3年前に書いた当院のコラム「歯が溶ける病気について」に詳しく書いていますので、そちらをご覧ください。
 
確かに酸性の強い飲料水や食物を摂取した後は、その可能性は否定できませんが、普通の食事では酸蝕症は起こりにくいのが実情です。つまり酸蝕症になるリスクよりは、むし歯や歯周病になるリスクの方がはるかに多いので、その原因となる歯垢(プラーク)と糖質(甘い物)をできるだけ速やかに取り除く方が理にかなっています。残念ながら「食後30分してから磨く」のは、正解とは言えません。
 
テレビやネット上で情報が氾濫する昨今です。最新の情報が必ずしも真実とは限りません。
フェイクニュースと唱えている大統領もいるではありませんか?
2018年-4月
歯はいつ磨く?(1)
今回のコラムは、歯はいつ磨く?です。以前に、歯を磨く順番について述べましたが、今回は、歯はいつ磨くのが本当に良いのか、検証していきます。
① 食後すぐ磨く
② 寝る前に磨く
③ 食後30分してから磨く
このコラムを読んでいただいている皆さんは、歯に関心が高い方が多いと存じ上げます。おそらく大多数の方は、③が正解と思っておられるのではないでしょうか。
残念です。①②が正解で、③が不正解です。
 
まず①についてです。
私の年代の頃は「食後はなるべく早く歯磨きを」と言われて育ちました。その理由は、むし歯の原因となる歯垢(プラーク)と、口の中に残る糖質(甘い物)を早く取り除くためです。つまり歯垢の中にいる細菌が糖質を分解して酸を作り、その酸の影響で歯が溶け出し、エナメル質の脱灰が始まると、むし歯になります。それゆえに、食後はなるべく早く歯磨きをして、口の中に残る糖質(甘い物)と歯垢(プラーク)を取り除き、歯の脱灰を可能な限り防ぐことが重要です。理にかなっています。正解です。
 
次に②についてです。
私が歯学部を卒業して数年経った大学の同窓会の時の話です。突然みんなで「歯をいつ磨くのがベストなのか?」という話になりました。すでに開業していた同級生達は口を揃えて「1日3回毎食後すぐに」と言いましたが、大学の口腔衛生学に在籍し研究していた同級生だけは、違うことを言いました。「1日1回寝る前に時間をかけて磨くのがベスト」。その理由を学術的に延々とみんなの前で説明しました。
数年後、彼は某国立大学の教授になりました。手前味噌ですが、とても優秀な教授です。
なぜ寝る前に磨くのが良いのか、次回わかりやすく説明します。
2018年-3月
奥歯も保険で白い歯にできます
奥歯も白い歯が良い、金属の銀歯には抵抗があるとおもわれている方は大勢いらっしゃることと存じます。そうかと言って白いセラミックの歯は保険が効かなくて高額なので、どうしたものかと思案している方もおられることと思います。
そんな方に、保険適用の診療で奥歯も白い歯にできる方法があります。従来も小臼歯に関しては、硬質レジンジャケット冠と言われる材質のかぶせ物が保険適用できましたが、金属に比べて破折しやすく、丈夫ではない欠点がありました。
 
今回、長年当院が信頼して外注している技工所と相談して、保険適用で奥歯も白い歯にできるCAD/CAM冠を導入することにしました。
CAD/CAM冠とは、最新のデジタル技術を用いて制作されるハイブリッドレジン冠のことです。ハイブリッドレジンは保険適用外の素材ですが、CAD/CAM冠に使用される場合は保険適用となります。
 
ただし保険適用には周囲にある歯や、かみ合わせなどの条件がありますので、まずはご相談ください。特に過度な咬合圧が加わる場合、例えば歯ぎしりをする方などは、すぐに取れたり破折したりしますので、CAD/CAM冠を使用できないことがあります。また奥歯でも、保険適用できる歯とできない歯があります。詳しくはご来院の上、デメリットも含めてご説明いたします。
 
肝心の費用ですが、保険適用の白い前歯(硬質レジン前装冠)と同じくらいの金額(3割負担で約6000円)です。歯型取りの費用は別途かかります。ぜひ一度ご検討ください。
2018年-2月
デンタルケアグッズについて(3)
⑨ 入れ歯関連グッズ
入れ歯専用の歯ブラシ、入れ歯洗浄剤、入れ歯安定剤、入れ歯ケース。入れ歯洗浄剤に関しては、どんな種類の入れ歯でも、材質の関係上、汚れや細菌が付着しやすいため、出来るだけ使用するようにお勧めしています。入れ歯に付着している汚れが口臭の原因となることもあります。
入れ歯安定剤に関しては、賛否両論ありますが、最近の入れ歯安定剤は積極的に使用していただいても大丈夫です。当院では、外出時の使用に便利な粉末タイプと、安定感があり違和感の少ないクリームタイプの2種類置いています。なお入れ歯ケースは、当院で新しく入れ歯を作成した場合に限り、無料でプレゼントしています。
⑩ ドライマウスグッズ
お口の中が乾燥するドライマウスでお悩みの方のために、マウスウォッシュタイプのものと、即効性のあるスプレータイプのものと、2種類用意しています。
その他にも、歯周病予防、口臭予防、歯石沈着予防用のマウスウォッシュ(うがい薬)や即効性のあるスプレータイプの口臭予防グッズなどを置いています。
さて、一口にデンタルケアグッズと言っても、沢山の種類があり、テレビのCMを見てもお分かりの通り、次々と新しい商品が発売されています。当院の受付でも「これはドラッグストアでも買えますか?」と聞かれます。当院で販売しているデンタルケアグッズは、そのほとんどが歯科医院専用ですが、中にはドラッグストアで買えるものもあります。でも考えてみて下さい。ドラッグストアでは、無料サンプルがありますか?サンプルをご自身で実際に使用してみて、本当に合っているか、本当に使いやすいかどうか確かめてから購入する方が良いと思いませんか?しかもどの種類、どのサイズがご自身に合っているかは、なかなかわかりません。
当院では、その道のプロフェッショナルである歯科衛生士が、実際にお口の中を見て、どのデンタルケアグッズを使用すれば良いか、適切にアドバイスいたします。
お口の中も十人十色です。ぜひご自分に合ったデンタルケアグッズを選んでいただいて、毎日快適にお過ごしください。
2018年-1月
デンタルケアグッズについて(2)
当院の受付のデンタルケアグッズのご紹介の続きです。
⑤ ワンタフトブラシ
親知らずやブリッジの間など、歯ブラシ、デンタルフロス、歯間ブラシでは届きにくいところが、ピンポイントで磨けます。矯正治療中の方やインプラントをしている方にもお勧めです。
⑥ 舌ブラシ
口臭予防に有効です。色々な舌ブラシがありますが、当院では磨き過ぎたり、こすり過ぎて舌の表面を傷めないように、柔らかいシリコン製の舌ブラシを置いています。
⑦ 歯みがき粉
歯周病予防用、ホワイトニング用、知覚過敏用、電動歯ブラシ用、フッ素入り他。用途に合わせて各種取り揃えていますが、当院では歯みがき粉の使用は、少量かつ必要最小限にと指導しています。あくまでも歯ブラシのアシストとして使用していただくように勧めています。歯みがき粉の効果を期待して、歯みがき粉を沢山つけすぎると、どうしても肝心の歯ブラシする時間が短くなりがちになるからです。特に乳幼児には、なるべく歯みがき粉は使用しないように指導して、歯みがき粉の効果の過信は禁物ですと、ご両親に説明しています。
⑧ 電動歯ブラシ
歯科医院専用の音波歯ブラシを置いています。短時間で効率良く磨きたい方、磨く時にどうしても力が入り過ぎる方、手のご不自由な方などにお勧めしています。信頼のおけるメーカーですので、性能と機能はとても優れています。本体の先に付ける歯ブラシの種類も、普通の歯ブラシ用、ステイン除去用、ワンタフト用と3種類付いています。もちろん替え歯ブラシも受付に常時置いていますので、ご安心ください。一家に一台あれば便利です。 
まだまだデンタルケアグッズ、沢山置いています。 
2017年-12月
デンタルケアグッズについて(1)
今回はデンタルケアグッズについてです。
デンタルケアグッズとは、わかりやすく言えば、歯に関連する商品のことです。代表的なものが、歯ブラシと歯みがき粉です。
最近はドラッグストアやスーパーマーケットの歯ブラシ売り場に行くと、歯ブラシや歯みがき粉以外にも、さまざまなデンタルケアグッズが売られています。電動歯ブラシ、歯間ブラシ、デンタルフロス、洗口液(うがい薬)などです。一体どれを選んで良いのか迷うほどに沢山の商品が並んでいます。私も職業柄、どんな商品が売られているのか時折、見に行ってチェックします。皆さん迷われるのも当然です。そこでまずは、当院の受付に常備して、患者さんに販売しているデンタルケアグッズについてご紹介します。
先にお断りしますが、商品のメーカー名はご容赦ください。
① 大人用の歯ブラシ
普通の硬さと柔らかめの硬さの二種類。試行錯誤の末、選び抜いたイチオシの歯ブラシです。当院のベストグッズです。特に歯肉に問題がある方は、柔らかめをお勧めしています。
② 子供用歯ブラシ
お子さん自身が使用する歯ブラシと仕上げ磨き用の二種類。幼稚園以下の子供さんには、ご両親が磨いてあげる仕上げ磨き用も一緒にお勧めしています。
③ デンタルフロス
柄の付いたT字型のフロスと通常の糸巻き状のフロスの二種類。フロスが初めての方や慣れていない方には、使いやすくて、奥歯まで簡単に届くT字型のフロスをお勧めしています。
④ 歯間ブラシ
L字型の歯間ブラシをSSSサイズからLサイズまで5種類。また歯肉を傷めないゴムタイプのものを1種類。担当の歯科衛生士がピッタリのサイズを教えてくれます。
①②③④に関しては、まず担当の歯科衛生士が最初にサンプルをお渡しして、実際に使用していただき、良ければ購入してもらうようにしています。もちろんカルテには、各々の患者さんに適した歯ブラシ、デンタルフロス、歯間ブラシの種類とサイズを書いていますので、後から買いに来ていただいても、受付がすぐにカルテを見て対応します。つづきは次回です。
2017年-11月
親知らずについて(3)
親知らずに関するエピソードを二つご紹介します。
まず一つ、70代の男性の方です。最近親知らずが生えてきて痛むので、心配だから診てほしいと来院されました。拝見すると、確かに親知らずが出てきて、周囲の歯肉が腫れています。その方いわく、こんな年齢になって親知らずが生えてくるとは知らなかった!
 
実はそうではありません。親知らずはもうこの患者さんの年齢では生えてきません。年齢とともに歯肉が退縮して痩せてくると、今まで歯肉の中に埋まっていた親知らずが、あたかも生えてきたかのように顔を出すのです。まるで恐竜の化石が見つかるかのように、歯肉の中から突然親知らずが出てきたかのように思えるのです。元気で長生きされている証です。
 
最後に親知らずの言葉の由来です。乳歯や6才臼歯(第1大臼歯)は、子供の頃に生えますので、お母さんやお父さんが生えてきたことに気づきます。ところが親知らずが生える年齢の頃は、もうとっくに仕上げ磨きも卒業して、子供さんのお口の中も滅多に見る機会がありません。つまり親はこの歯が生えてきたことを知らないので、親知らずと言う名前がついたそうです。
 
ちなみに英語では、wisdom tooth つまり物事の分別がつく年齢になってから生え始める歯と言う意味です。親知らずのことを、智歯と呼ぶのはそれが由来です。フランス語では、dent de sagesse、ドイツ語では、weisheitszahn、スペイン語では、muela del cordal、すべて同じように、智歯と言う意味です。
親知らずのことで悩んだら、遠慮なくお越しください。お待ちしています。
2017年-10月
親知らずについて(2)
トラブルになるのは、親知らずが斜めに傾いて一部分だけ生えている場合です。この場合、親知らずと第2大臼歯の間にどうしても隙間が出来てしまいます。しかも一番奥ですので、歯ブラシの毛先が届きにくいので、容易に歯肉に炎症を起こしたり、むし歯になったりします。喉が腫れて、痛みと微熱があり、しかも下顎のリンパ腺が腫れて、あわてて内科で診てもらったら、親知らずが原因だったと言うことはよくある話です。
 
そのようなトラブルを起こす親知らずですが、簡単には抜歯出来ません。なぜなら親知らずは生え方もさまざまですが、歯の根が極端に曲がっていたり、太かったり、あるいは歯の根が骨に癒着していたりするからです。特に下顎の親知らずの根の周囲には、下歯槽管と言いまして、唇や舌の感覚をつかさどる神経や太い血管が通っていて、不用意に抜歯して、その管を損傷してしまうと大量に出血したり、しびれが残ったりします。
 
従いまして、親知らずを抜歯するのには、抜歯する歯科医の技術と経験がとても重要になります。当院には私とともに口腔外科の認定医の資格を持つ経験豊富な歯科医が常勤しています。親知らずを抜歯する必要が本当にあるのかどうか、そして抜歯するのならどのタイミングで抜くべきか、十分検討して患者さんにご説明してから行っています。もちろん先ほど触れた神経や血管を損傷する可能性のある親知らずを抜歯する場合には、迷わず紹介状をお書きして、口腔外科のある大きな総合病院でCTを撮影の上、抜歯してもらうようにしています。
 
どうも親知らずが生えてきたみたい、あるいは最近親知らずの付近が腫れて痛んできたけれど、どうしたら良いかわからないと思う方は、迷わずご相談にお越しください。的確に診断して、しかるべき処置を行います。
 
たかが親知らず、されど親知らずです。抜歯する必要があるのか、あるいは抜歯しないでも大丈夫なのかの診断は、とても重要です。そして抜歯するのなら、経験と技術を持つ歯科医が必須です。
次回は親知らずに関するエピソードを二つご紹介します。
2017年-9月
親知らずについて(1)
今回は親知らずについてです。
そもそも親知らずとは一体どんな歯なのでしょうか?
親知らずとは、真ん中の歯から数えて8番目にある第3大臼歯のことを言います。大臼歯は一番最初に第1大臼歯が6才頃に生えてきます。それゆえに第1大臼歯のことを6才臼歯とも言われます。第2大臼歯は小学校高学年から中学生にかけて生えます。そして親知らず(第3大臼歯)はさらにそのあとで高校生から成人にかけて生えてきます。一番最後に生える永久歯ですが、生えてこない人も沢山います。
 
なぜ生えてこないのでしょうか?
原因はまず親知らずが先天的にない人です。次に親知らずが歯肉や顎の中に埋まっている人です。生まれつき親知らずがない人は全く心配要りません。ただし親知らずが生える場所は、左右上下の合計4か所ありますので、4本ともないかどうか確認する必要があります。親知らずが心配な人もそうでない人も、大人になったらぜひ一度レントゲン検査をして、親知らずが何本あるか確認してください。
 
ところで、親知らずがなぜトラブルの原因になるのでしょうか?
それは生え方によっては、治療できないむし歯になったり、重症の歯周炎や歯肉炎になるからなのです。親知らずは口の中の一番奥に一番最後に生えてきます。したがって、お口の小さな(顎の小さな)方、特に女性の方は、親知らずが生える場所(スペース)がありません。そうすると完全に歯肉の中に埋まっていしまうか、もしくは少しだけしか生えないかどちらかになります。さらに親知らずがトラブルになりやすい理由は、真っすぐに生えずに、斜めに生えたり横向きに生えたりするからです。
 
結論から言いますと、真っすぐに生えて、しかも生えるスペースがあれば、親知らずも永久歯の1本に違いはありませんので、あえて抜歯する必要はありません。特に平均寿命が延びて高齢化社会になり、他の歯が抜けた時にひょっとしたら親知らずが、将来役に立つかもしれません。また矯正をして便宜抜歯をした方は、永久歯が通常の方より1本ずつ少なくなっていますので、真っすぐに生えた親知らずは将来必要になる場合も十分あります。
次回は親知らずのトラブルについてです。
2017年-8月
歯を磨く順番について(2)
私は普段は、歯を磨く時に歯磨き粉は全く付けませんので、洗面所では歯を磨きません。椅子に座ってリラックスして歯を磨くようにしています。このリラックスして歯を磨くことが案外重要なことです。洗面所で時間に追われながら急いで立ったまま磨くと、どうしても磨き残しが出て来ます。
 
まず最初に歯ブラシを右手に持って、左下の奥歯の内側(舌側)から磨きます。次に左下の奥歯のかみ合わせの部分(咬合面)、続いて左上の奥歯の内側、同じく左上のかみ合わせの部分を磨きます。そして今度は、歯ブラシを頬っぺたと歯の間に入れてから、口を閉じて、左の奥歯の上下の外側(頬側)を磨きます。この時に歯と歯肉の境目(歯の根元付近)を意識して磨きます。力は出来るだけ入れずに、細かく磨くのがコツです。次に歯ブラシを左手に持ち替えて、右の歯の奥歯を同じように順番に磨きます。
 
それから今度は、歯ブラシを再び右手に持ち替えて、歯ブラシを縦向きにして、前歯の表面を磨きます。特に歯と歯の間に歯ブラシの毛先が当たるのを確認しながら磨きます。次に歯ブラシを左手に持ち替えて、前歯の裏側を同じように歯ブラシを縦向きにして磨きます。
 
これを最低でも2クール繰り返します。一回だけでは、どうしても磨き残しが出るからです。3クール位すると、舌で歯の表面を触ると、ツルツルになっているのがわかります。右手と左手に交互に持ち替える理由は、磨き方に変な癖をつけないことと、手が疲れないためです。
 
私は朝は手磨き、昼食後はフロス、夜は音波歯ブラシと分けていますが、夜は出来るだけ時間をかけて磨きます。少しマニアックな磨き方をご紹介しましたが、ご参考になれば幸いです。
とにかく歯磨きは、奥歯ファーストです。ぜひ今日から試して見て下さい。
2017年-7月
歯を磨く順番について(1)
今回のコラムは、ズバリ、どの歯から磨けば良いかです。
皆さん毎日歯を磨く時、どの歯から磨いていますか?
前歯から磨く方が一番多いのではないでしょうか?特に歯ブラシに歯磨き粉をつけて磨こうとすると、先に前歯に歯磨き粉をつけるほうが、歯磨き粉が口からはみ出なくてすむので、どうしても前歯から磨くようになります。また洗面所で鏡を見ながら磨いている方も、鏡で見やすい前歯から磨く方が多いと思います。普通の方は皆さんこの順番ではないでしょうか?
 
それでは正解です。奥歯から必ず最初に磨いてください。
理由をご説明します。まず一番失いやすい歯、つまり一番抜けてしまいやすい歯は、どの歯かと言えば、それは奥歯(大臼歯)です。なぜでしょうか?ご存じの通り、むし歯や歯周病は、歯や歯周ポケットに付着する細菌が主な原因です。その細菌が最も付着しやすいのが、大臼歯(奥歯)です。奥歯は前歯に比べて、大きく形も複雑です。歯の根も前歯が1本に対して、奥歯は下顎の大臼歯が2本から3本、上顎の大臼歯は3本もあります。根が多いほど形も複雑になりますので、むし歯や歯周病の原因となる細菌が付着しやすくなるのは当然です。加えて歯ブラシの毛先や自浄作用のある唾液が届きにくい場所に生えていますので、必然的に前歯に比べて細菌がたまりやすくなります。
 
アメリカンファーストと唱えている威勢のよい大統領がいますが、歯磨きは、奥歯(大臼歯)ファーストです。一番失われる可能性のある歯から最初に磨くのが、理にかなっています。
 
それでは具体的にどうやって磨けば良いのか、ご参考までに僭越ですが、私の歯を磨く順序を、次回お知らせします。
2017年-6月
お口の中も十人十色(2)
以前ドイツ人の歯を削ったことがありますが、エナメル質が分厚く頑丈なのには驚きました。また黒人の歯を治療しましたが、歯の色が白くきれいなのにも感心しました。人種によっても大いに違いますが、同じ日本人でも本当に皆さん違います。そして人の寿命が違うように、歯の寿命もそれぞれ違います。これらの違いを踏まえて、歯の治療に生かしてこそ、信頼できる歯科医師に一歩近づくのではないのでしょうか?
 
具体的に申しますと、このAと言う患者さんは、小さなむし歯が沢山ありますが、比較的むし歯の進行が緩やかなので、削って治療せずに、しばらく様子を見よう。逆にこのBさんは、むし歯の進行が速いので、むし歯が小さいうちに必要最小限だけ削って早目に治療しておこう、と言う具合です。歯周病に関しても同じことが言えます。このCさんは、お父さんもお母さんも歯周病で悩まれているので、子供の頃から定期的に来院してもらって、将来歯周病にならないように、歯磨き指導を徹底的にしてあげよう。
 
歯をかぶせる場合や入れ歯を入れる場合でも同じです。このDさんは、歯磨きも上手で定期検診も欠かさず来てくれるので、良い材質の歯をかぶせても長持ちするだろう。逆にこのEさんは、歯の質が弱く治療の繰り返しが多いので、長い目で見れば保険の範囲内で治療する方が良いだろう。またこのFさんは糖尿病で治療中なので、歯ぐきがやせて歯肉の形が変わりやすいので、保険の効く入れ歯を入れてしばらく様子を見よう。
 
つまり患者さんの治療を、型にはめずに、沢山ある治療の引き出しから、一番合った治療方針を提案して、実践してあげる、このことが一番重要なことです。決して自分の得意な技術や利益を優先して、それを患者さんの治療に押し付けるのではありません。文字通り、十人十色の患者さんに合った治療をしてあげることです。
 
これからも患者さんのために、スタッフ一同精一杯頑張ってゆく所存ですので、どうかよろしくお願いいたします。
2017年-5月
お口の中も十人十色(1)
今回のコラムは、お口の中も十人十色についてです。
おかげさまで開業して30年経ちました。ここまで来れましたのも、来院していただいた患者さんとそれを支えてくれたスタッフのおかげです。
 
当院は、歯科と小児歯科を標榜していますが、現在は口腔外科の認定医が常勤で勤務していますので、インプラントと矯正以外はほぼオールラウンドに治療を行っています。またインプラントと矯正に関しても信頼のおける専門医を紹介する責任上、手前味噌ですが知識だけは豊富です。
 
さて30年も開業医をしていますと、治療に関してさまざまな引き出しを持ち合わせています。この業界は知識はもちろんですが、何と言っても経験がものを言います。この歯はこう治療すれば良いと、頭の中では分かっていても実際に患者さんのお口の中で、それが出来ないことには話になりません。そのためには豊富な臨床経験が必要です。
 
西宮は人気のある都市ですので、歯科医院に限らず、どの業種も激戦区です。新しい歯科医院も次々に出来ます。最近の新規歯科医院の開業広告を見て思うことは、まだ若くて経験の乏しい歯科医師が、何でも出来ますと広告やホームページに書いてあることにとても不思議に感じます。そんなはずはないと言うのが、正直な私の実感ですが、そうでも書かなければ、なかなか患者さんが集まらないのでしょう。こんなことを言うと語弊がありますが、私でしたら 「まだ若く経験が乏しい身なれど、患者さんの立場に立って誠心誠意治療させていただきます」と書くところです。
 
さて余談が過ぎました。お口の中も十人十色、これは開業して30年、カルテ番号と名簿から類推して約2万人以上診察した経験以上言えることです。大人から子供まで誰一人として同じお口の人はいません。体格や皮膚の色、顔形が違うように、歯の色や大きさと形、歯肉の状態も千差万別です。
次回詳しくご説明します。
2017年-4月
ホワイトニングについて(2)
歯科医院でするホワイトニングの話です。
まず歯のクリーニング(歯面清掃)です。歯科医院で歯科専用の器具を使用すれば、美白用の歯磨き粉だけではどうしても取れない汚れやステインなどの着色を、きれいに落とすことが出来ます。いわゆるPMTCと言われる方法です。このPMTCは、歯周病の検査を行い、歯周病または歯肉炎と診断されれば、歯周病治療の一環として実施でき、保険の範囲内で治療できます。ぜひおすすめします。
 
さてそれでも白くならない方、あるいはもっと白くしたい方には、特殊な薬液を使用して、歯を白くする方法があります。一般的に歯科医院で行うホワイトニングには、オフィスホワイトニングとホームホワイトニングがありますが、当院では歯に優しく自宅で好きな時間に出来るホームホワイトニングを行っています。
 
まず歯のクリーニング(歯面清掃)をした後に、歯の型取りをします。その歯型で患者さんオリジナルの薄いマウスピースを作成します。そのマウスピースに、ホワイトニングジェル(薬液)を入れて、患者さんご自身で、お好きな時間に1日約2時間装着します。これを約2週間続けていただきます。
 
歯科医院に通院する回数は2回だけです。もちろん歯は一切削りません。ただし保険が効きません。これがネックです。(当院では1万8千円です。上の歯と下の歯の両方をすれば、3万6千円になります。何本白くしても料金は同じです。) また誰でもできるわけではありません。たとえば神経を抜いている歯や被せている歯はダメです。ご興味がある方はお気軽にお尋ねください。パンフレットも置いています。
 
追記
ホワイトニングに関しては、最近色々な業種が参入しています。マウスピースを使用する方法は、歯科医院で歯科医師がきちんと歯型を取って作成することが肝要です。またホワイトニングに使用するジェル(薬液)のついても、さまざまな種類があります。直接お口の中に入るものですので、特に注意が必要です。美容感覚で気軽にするととんでもないトラブルに巻き込まれます。
 
当院ではもちろん、厚生労働省が認可した日本のメーカーの日本製のホワイトニング材を使用しています。ご安心ください。
2017年-3月
ホワイトニングについて(1)
今回のコラムはホワイトニングについてです。
誰もが白いきれいな歯に憧れます。歯が白くなれば、笑顔が素晴らしく気分も明るくなります。
一般的にホワイトニングと言っても、色々な方法があります。
まず最も気軽に出来るのは、美白用歯磨き粉を使って歯を磨く方法です。最近はドラッグストアに行くと、美白用の歯磨き粉が沢山売られています。どれを選んで良いのか迷うくらいです。どの歯磨き粉が一番効果があるのか、患者さんからも時々質問を受けます。
 
私が一番心配するのは、歯を傷つけない(正確にはエナメル質を傷つけない)歯磨き粉を使ってもらうことです。特に美白用歯磨き粉には、茶渋やタバコのヤニなどのステインと呼ばれる色素を取るための研磨剤が多く含まれています。この研磨剤が多いと、なるほど茶渋やヤニが取れて白くなりますが、歯を白くしようとするあまりに、強い力でゴシゴシ磨くと、歯の表面をカバーしている一番大事なエナメル質が削れてしまいます。さらに力任せに磨くと、エナメル質が削れてなくなり、歯の神経(歯髄)を守る象牙質が露出してしまいます。
 
この象牙質には象牙細管と言いまして、神経の通る細い管があります。つまり神経が通っていますので、象牙質が露出すれば、冷たいものや暖かいものがしみるようになります。せっかく歯が白くなったのに、歯がしみるようになれば、何にもなりません。完全に逆効果です。顔の美白をやり過ぎて、逆にシミが増えてしまうのと同じです。
 
当院でも手軽に出来るホワイトニングとして、美白用の歯磨き粉を販売しています。もちろんドラッグストアに置いているものではなく、歯科医院専売のエナメル質に優しい歯磨き粉です。ただ歯磨き粉だけでは、歯の美白をするのには、ある程度の限界があります。
次回は歯科医院で行うホワイトニングの話です。
2017年-2月
歯を長持ちさせる秘訣
今回のコラムは、ご自身の大切な歯を長持ちさせるには、いかに定期検診が重要であるかを示すエピソードです。
先日、歯周病の定期検診で来られたあるご婦人から、こんな質問を受けました。なむら歯科に来院される患者さんで最高齢の患者さんはおいくつですか?珍しいご質問ですが、即座にピンと思い浮かんだ患者さんがいました。
 
その患者様は、大正6年生まれですので99才です。私が開業してからずっと来院されていますので、もうかれこれ30年のお付き合いになります。
ご自身ひとりで歩いて来られます。いつも笑顔が印象的な男性の方です。
 
この30年のお付き合いの間には、むし歯になってかぶせ物をしたり、歯が抜けてブリッジを入れたりしましたが、それでも現在ご自身の歯が、親知らずも含めて26本残っています。信じられないかも知れませんが、本当です。現在は、さすがにぐらぐら動いている歯が何本かありますが、いつも必ず定期検診に来ていただき、歯石と歯垢を取って歯磨き指導を受けてもらっています。この患者様が来院されて、その笑顔を拝見することが、私自身この仕事を続けて行くモチベーションになっていると言っても過言ではありません。
 
もちろん定期検診に来たからと言って、歯が必ず長持ちするとは限りません。毎日の歯磨き方法や食生活、さらに両親から受け継いだ遺伝子も大切であることは明白な事実です。ですが定期検診を受けることが、歯を長持ちさせるのに、とても重要な秘訣であることは、この患者様を見ている限り、純然たる事実です。 なおご参考までに、私の父は85才で残存歯が7本、岳父は82才で同じく12本です。二人とも当院に30年通っていますが、定期検診にはあまり熱心とは言えません。息子や女婿が歯科医ですと油断するのでしょうか?それとも私の孝行が足りないのでしょうか?
 
くだんのご質問をされたご婦人は、御歳83才でご自分の歯が23本も残っておられます。いつも必ず定期検診に来られます。ご質問にていねいにお答えした後、100才まで一緒に頑張りましょう、とお声を掛けさせていただいたのは言うまでもありません。
2017年-1月
日本人の口臭について(2)
私が学生時代の時ですから、もう35年以上も前ですが、母校の大学の教授が講義でこう話したのを覚えています。欧米人が口臭に敏感なのは、「キス」と「ハグ」の習慣があるからである。なるほどと思ったことを今でも思い出します。日本でも、私が開業した30年前に比べれば、口臭ははるかに少なくなっています。特に女性の口臭は激減したように感じます。ただし、一部の男性、喫煙、飲酒過多な方は相変わらず口臭がします。そして何より歯周病が進行している方は、男女問わず口臭がします。特に高齢化社会に突入しましたので、必然的に高齢者の口臭が問題となっています。
 
口臭対策としては、歯ブラシだけではなく、フロスや歯間ブラシ、ワンタフトブラシを併用して、口臭の原因となる歯垢(プラーク)を除去することが肝要です。また舌の表面についた舌苔(ぜったい)を取ることも効果があります。しかし特に高齢者では、加齢とともに歯ぐきもやせてきて、歯と歯の間、歯と歯ぐきの境目が広がって、食べカスが詰まりやすくなり、大変磨きにくくなります。さらに加齢にともなう唾液の分泌量の低下で、口の中が乾燥して口臭の原因となる細菌が繁殖しやすくなります。
 
そうなると、ご自身だけでは口臭の原因となる歯垢(プラーク)を完全に取り除くことは、ほぼ不可能になります。そこで、歯科衛生士の出番です。口臭の原因となる歯垢や歯石の除去はもちろんのこと、どこが磨けていないか、どういうふうに磨ければ取れるのかなど、ていねいにアドバイスしてくれます。
 
口臭が気になる日本人の皆さま、ぜひ歯科医院を訪れて、歯科衛生士によるプロフェショナルケアを受けて下さい。
 
リオデジャネイロオリンピックも昨年無事終わり、3年後にはいよいよ東京オリンピックが開催されます。外国人を迎える「おもてなし」の一環として、ぜひ皆さんも口臭予防対策をしてください。よろしくお願いします。
2016年-12月
日本人の口臭について(1)
私は、職業柄歯科に関する色々な雑誌を読んでいます。その中で毎月楽しみにしているのが、歯科衛生士さんがつくっているネットワークマガジンです。その特集に、今回のコラムで紹介する「日本人の口臭、どう思う?」と言う特集がありました。
 
その記事の中で「ニッポン大好きな外国人に聞きました。あなたは日本人の口臭に、がっかりした経験がありますか?在日外国人100名のうち、72名がYESと答えたこの質問。清潔感があり、きめ細やかな心配りのできる国民として知られているのに、口臭だけはいただけない、そんなふうに思われているなんて、ちょっと残念です」と記載されていました。なるほど、そう思うことも多々あります。
 
口臭に関しては、当院のコラムでもすでに取り上げました。2009年の3月ですから、もう7年以上前です。口臭に関する基本的なことは変わりませんので、詳しくはぜひそれをご覧ください。(トップページの院長コラムの「目次」から簡単に探せます)
 
当院にも過去に色々な外国人が来院されました。私は英語だけは多少学びましたが、それ以外の外国語は全くダメですので、外国人の方が来られたら、「外国語対訳歯科診療会話集」と言う本を片手に、コミュニケーションを取って治療しています。確かに外国人の方は、フロスの使い方も上手ですし、日本人に比べれば口臭も少ないように思われます。
 
とはいえ、それも地域性があることも事実です。以前来院された東南アジアの某国の男性は、日本では当の昔に使用されなくなったアマルガムと言われる銀合金がほとんどの歯に充填され、口臭も結構ありました。ただ一般的に日本に来られる外国人は、比較的経済的に恵まれている方が多く、幼少時よりオーラルケアがしっかりしていますので。口臭は少ないように感じます。
次回は日本人の口臭対策についてです。
2016年-11月
抗生物質と鎮痛剤について(2)
鎮痛剤のロキソニンは、最近ドラッグストアや薬局でも簡単に手に入るようになりましたが、過剰摂取は胃腸障害や腎機能障害の原因になりますので、気を付けてください。
当院では、ロキソニンに比べて比較的体への負担が軽いと言われているアセトアミノフェン系の鎮痛剤(カロナール)を、次のような患者さんに出すようにしています。主に高齢者や幼児、また胃潰瘍などの胃腸障害を患っている患者さん、アスピリン喘息の患者さん、人工透析を受けて腎機能が低下している患者さんなどです。さらに薬の飲み合わせや、同じ作用のある薬の重複投与を避けるため、お薬手帳を必ず持ってきてもらうように、受付でも診療室でも、患者さんにお願いしています。
 
ただし例外ももちろんあります。忙しくて何度も通院できない患者さんや、翌日から長期出張の予定があったり、帰省する患者さんには、投与日数を多めにして、その間の症状の悪化に備えます。特に海外出張や海外留学を直近に控えている方には、現地で歯科を受診することは困難な状況がありますので、安心な量の抗生物質と鎮痛剤を出すように配慮しています。また抗生物質や鎮痛剤に限らず、お薬を安心のお守りのように考えている患者さんがいることも事実ですので、その場合には服用する際の注意事項を十分説明した上で、少しだけ多めに出すように心がけています。
 
高齢化社会になり、高血圧や糖尿病などの生活習慣病を持つ方が圧倒的に増えています。それらの病気に対して開発された多種多様な薬を飲むことによって、病気の進行と悪化を防ぐことが出来ています。そのような有効な薬のおかげで、多くの方が長生き出来ていると言っても過言ではありません。
 
抗生物質も鎮痛剤も、そのような薬と一緒に、上手に必要量だけ服用することが肝心です。繰り返しますが、過ぎたるは及ばざるが如しです。
ご高覧ありがとうございました。
2016年-10月
抗生物質と鎮痛剤について(1)
今回のコラムは抗生物質と鎮痛剤の服用についてです。
医科では、風邪を引いて咳が出て気管支炎や肺炎を起こした時に、また外傷や手術をして傷口が化膿した場合に、化膿止めと称して抗生物質が処方されます。さらに高熱が出て、痛みがひどい時は、解熱鎮痛剤も一緒に処方されます。歯科でも、抜歯したり、歯肉が腫れて化膿したりすると抗生物質を出します。また歯痛がひどい時や、治療後に痛みが出ることが予想される時は鎮痛剤を出します。
 
抗生物質も解熱鎮痛剤も非常に有効な薬です。特に抗生物質は、人類の寿命延命に大きく貢献した画期的な薬です。ところが最近の研究では、薬剤耐性菌の問題に端を発して、抗生物質の過剰投与並びに過剰摂取に対して、警笛を鳴らす声が医科でも歯科でも上がっています。過ぎたるは及ばざるが如しなのです。つまり普段から敢えて服用する必要のないのに飲み続けると、肝心な時に抗生物質が効かないということです。
 
歯科でも例えば抜歯に関しては、抗生物質は抜歯直前に服用することが望ましく、抜歯後の服用は出来るだけ必要最小限にするように、某大学病院の口腔外科の主任教授から指導を受けています。大学の同窓生でもあり、手前味噌ですが優秀なその教授の指導は、豊富なデータに基づき、とても説得力があります。ところが開業医では説明してすぐに抜歯することや、歯肉が腫れてすぐに切開して膿をださないといけないような緊急を要する処置が圧倒的に多く、それを習慣化することは事実上困難です。
 
そこで、当院では、抜歯並びに切開などの観血的処置をした際には、帰宅後すぐに抗生物質を服用するように指導しています。場合によっては、診療室内で処置の前後に、すぐに飲んでもらうことも行っています。さらに投与量と日数に関しても、できるだけ少なくなるように、配慮しています。特に高齢者では腎機能が低下している可能性があり、過剰な抗生物質の服用により腎機能が悪化しやすくなるので注意が必要です。
次回は鎮痛剤のことです。
2016年-9月
女性と歯周病について(2)
まず最初に女性ホルモンが増加するのは、15才前後(思春期)です。特に最近診療して感じることは、部活や受験に多忙な中高生の女性に、歯肉が赤く腫れる歯肉炎が目立ちます。これはやはり女性ホルモンの影響と思われます。この時期の娘さんを持つお母様は、たとえ部活や受験で忙しくても、就寝前だけは特に時間をかけて念入りに歯を磨くように指導してあげて下さい。それでも歯肉から出血するようでしたら、迷わず連れて来て下さい。
 
次に急激に女性ホルモンが増加するのは、20代から30代(妊娠~出産)の時期です。特に妊娠すると、つわりで歯みがきが普段よりやりにくく、しかも口の中が酸性になりますので、口の中のケアが行き届かず歯周病になりやすくなります。また重度の歯周病は早産や低体重児出産のリスクを高めますので、注意が必要です。これに対しては、西宮市には妊婦検診という大変便利な制度があります。西宮市から妊婦検診の用紙が届きましたら、出来るだけ受診してください。検診の費用は無料です。妊娠中から早目にケアしていくことがとても大切です。
 
3番目の時期は、逆に女性ホルモンが低下する50才以降(更年期から高齢期)です。女性ホルモンの低下とともに、唾液の分泌量が減少して、ドライマウスになりやすくなります。そして徐々に骨をつくる働きが弱まり、骨粗鬆症になっていきます。そうすると歯を支えている歯槽骨にも影響が出てきて、歯周病が悪化してくるのです。この時期に差し掛かった女性は特に、半年に一度は歯科医院を訪れて、毎日の歯みがきでは落としにくい歯垢や歯石を取りに来て下さい。つまり毎日のセルフケアと定期的なプロフェッショナルケアを併用して、歯周病の進行を防ぐことが重要となります。
 
女性特有の歯周病の予防策、ご参考になりましたでしょうか?
どうか末長くご自身の歯を守っていただき、健康な歯でいられることを切に願っています。
2016年-8月
女性と歯周病について(1)
今回のコラムは女性と歯周病についてです。男性と歯周病に関しては以前からも良く言われて来ました。特に喫煙です。タバコに含まれるニコチンは歯肉に有害な作用を及ぼし、歯周病を悪化させることは周知の事実です。また暴飲暴食、特にお酒の飲み過ぎはこれも喫煙同様に歯周病を悪化させます。そして一番の原因は男性に多い、いい加減な歯みがきです。これは歯周病のみならず、口臭の原因にもなります。
 
さてそれでは、女性は歯周病にならないのか、あるいはなりにくいのかと問われれば、そうとも限りません。例えば糖尿病と歯周病の関係は、すでにマスコミ等で報道されていますが、密接な関係にあります。この糖尿病はご存じの通り、女性も男性も同じようになる病気です。他にも動脈硬化や関節リウマチ、アルツハイマー病など歯周病と関連がある病気は、男女差はあまりありません。ただ私の約30年に及ぶ拙い開業医歴から言わせていただくと、高齢化社会を迎えて、歯周病は男女ともに最も注意するべき病気のひとつです。
 
前置きが長くなりましたが、それでは女性特有の歯周病予防について述べてみます。まず歯周病が男女ともに高齢者に多いイメージがあるのは、年齢を重ねてから初めて、歯肉から出血したり腫れたり、さらに歯が動いてきたりするなどの自覚症状が出てくるからです。つまり歯周病は、色々な症状が出てくる年齢より前に、しっかり口の中のケアをすることがとても大切なのです。
 
女性には歯周病になりやすい3つの時期があると言われています。まず基本的なことからです。歯周病を進行させる細菌(歯周病菌)の中には、女性ホルモンを栄養源にする細菌がいると言う事実です。それゆえに女性の方は、女性ホルモンの増減に伴う口の中のケアがライフステージに渡って必要になります。
次回から順を追ってご説明します。
2016年-7月
歯科医師会について
今回のコラムは、歯科医師会についてです。患者様から時折、先生は歯科医師会に入っていますか?とご質問を受けます。私は開業以来ずっと西宮市歯科医師会に所属しています。おかげさまで開業30周年を迎えることが出来ました。最近は開業しても歯科医師会に入会しない先生が増えています。理由は定かではありませんが、歯科医師会が行っている事業なくしては、市民の生活は成り立たないと言っても過言ではありません。
 
例えば検診です。検診とひと口に言ってもさまざまです。公立の小学校、中学校、高校、幼稚園、保育所の歯科健診から、小さいお子さんを対象とした1才半健診と3才児健診。それに歯周疾患健診、妊婦健診、長寿健診までさまざまな健診があり、これらすべてを歯科医師会に入会している歯科医師が行っています。
 
もちろん検診だけではありません。年末年始の休日診療や障害者歯科治療、さらに訪問歯科治療も歯科医師会所属の歯科医師が当番制で行っています。歯と口の衛生週間や、いい歯の日の検診や無料フッ素塗布事業もそうです。それ以外にも沢山の事業を歯科医師会に入会している歯科医師が行っています。そのほとんどが報酬の少ない、あるいは全く報酬の出ないボランティア活動の類いです。
 
しかも歯科医師会の事業活動を行うために自院の診療を休診することも、まれではありません。かくいう私も10年前に、父が倒れて要介護4になってから、歯科医師会の事業活動から一線を引かせていただきましたが、それまでは診療が終わってから夜遅くに所属する歯科医師会の会合に出席したり、支部の支部長を務めたりしていました。ですから今でも第一線で歯科医師会の事業に積極的に活動されている先生には、本当に頭が下がる思いです。ご苦労様です。
熊本震災、東北大震災、そして阪神淡路大震災の例をあげるまでもありませんが、いかなる場合でも地域医療に貢献することは、医療に携わる一員として、私欲のない心とともに必要なことではないのでしょうか?
2016年-6月
私の歯科治療体験談(3)
私は普段は、歯を噛みしめたりする癖もなく、夜中に歯ぎしりする癖もありませんが、職業柄とても細かい作業をしています。特に難しい歯の根の治療をしている時や、親知らずの抜歯などの治療をしている時は無意識に、歯と歯を接触させて、強く噛みしめていました。この作業が約30年続けば、歯の一本ぐらいは破折しても不思議ではありません。幸い私の破折した奥歯は、完全に二つに折れてしまったわけではなく、神経さえ取れば、痛みがなくなり、歯も抜かずに済む程度でした。
 
さて、本題の私自身の歯の神経の治療です。一番麻酔が効きにくいと言われる下の奥歯です。これも幸いなことに、当院には私以外に二人の有能な女性歯科医師がいます。それぞれ経験もあり、今ではわざわざ兄の診療所に行って治療を受ける必要もありません。ただどうしても立場上、私が院長ですので、二人とも私の歯の治療を積極的にしたがりません。特に一番難しいと言われる奥歯の神経の治療ですから、なおさらです。
 
ここで必要なことは、大学時代に兄に治療してもらった経験です。つまり信頼関係です。日頃から私が指導している技術を習得した二人のドクターに、全幅の信頼を寄せて、決して疑心暗鬼にならずに、治療してもらいました。当院では麻酔をする時に少しでも痛みが出ないように、電動式の注射器を使用しています。電動式ですと麻酔液がゆっくり確実に入ります。また注射針も一番細い針を使って、痛みが少なくなるように工夫しています。   
結果は正直に申しまして、神経を抜く時と、神経に代わる薬を詰める時に、少し痛みましたが、治療後は痛みもすっかり消えて、現在まで問題なく過ごせています。感謝しています。
 
ちなみに大学時代に兄に治療してもらった前歯ですが、かれこれ35年以上経ちますが、一度も再治療することなく過ごせています。歯科材料は当時と比べると、現在は比較にならないほど進歩して良い材質になっています。そのことを考えると、歯の治療は、つくづく最先端の材料や器具ではなく、治療する歯科医師の技術と誠意が一番肝心であることを、改めて学んだ次第です。
兄にも感謝を込めて。
2016年-5月
私の歯科治療体験談(2)
問題の歯は、右下の一番奥の歯です。最初の痛みは、冷水痛でした。
つまり冷たいものを飲む時に、しみました。知覚過敏かなと思って、自院でレントゲンを撮ると、むし歯が見つかりました。アマルガムと言われる古い銀合金が詰まっていましたが、その隙間からむし歯が進行していました。おそらく小学生か中学生の頃に治療したものだと思います。
 
早速、兄の診療所に行って治療してもらいました。
まず古い銀合金を除去して、むし歯を治療しましたが、思った以上にむし歯が深く、何とか神経を取らずに残してもらい、インレーと言われる部分的な金属のかぶせ物をしてもらいました。神経に近いむし歯を治療した場合は、治療後もしばらく冷たいものや、場合によっては、熱いものもしみることがあります。ですが通常は1ヶ月も経てば少しずつしみてこなくなります。
ところが、この歯はそうは行きませんでした。
 
治療してからもずっと冷たいものや熱いものがしみていました。
しばらく様子を見ていると、せっかく入れてもらったインレーが外れました。その頃には、一緒に手伝ってくれる女性歯科医師が当院にいましたので、すぐにつけ直してもらいましたが、またしばらくすると取れました。何度も取れるので、今度はインレーをつけなおさずに、レジンと言う白い詰め物をしてもらいました。この白い詰め物は、見た目は歯と同じ色ですので、とても審美的には良いのですが、金属に比べて強度が不足ししています。しばらくすると今度はそのレジンが欠けて来ました。
 
その頃からです。冷たいものや熱いものがしみるだけではなく、物を咬んだりすると痛みが出るようになりました。これは変だと思って、再度レントゲンを撮りましたが、異常は見つかりませんでした。さらに様子を見ていると、とうとう夜間痛(夜寝ている時に歯がズキズキ痛む)が出て来ました。
 
レントゲンに異常がなく、むし歯の治療もしているのに、歯がズキズキ痛むのは、何故か? ピンと来ました。歯の破折です。そう言えば、私は診療中に歯を噛みしめる癖がありました。詳しくは、当院のコラム「歯を接触させる癖(TCH)について」をご覧ください。これが治療した歯を破折させた原因でした。
次回は歯の神経を抜いてもらった体験談です。痛いですよ!
2016年-4月
私の歯科治療体験談(1)
今回のコラムは、私自身の歯科治療体験談を述べさせていただきます。
おかげさまで、今年で開業30年目を迎えることが出来ました。これもひとえに来院していただいた皆さんのおかげです。感謝の念に堪えません。
 
さて時々患者さんから、私自身の歯科治療は、一体どのようにして行っているのかご質問を受けます。診療中なので具体的に申し上げることが難しいのが実情ですので、この機会に述べさせていただきます。歯科治療を受ける立場のプロフェッショナルなコメントが、皆さんのお役にたてれば幸いです。
 
当院のホームページの院長紹介の項でも述べさせていただきましたが、私自身は歯科とは無縁の生い立ちでしたので、幼少時はむし歯が多くとても苦労しました。中学高校になっても、なまじ受験勉強とやらを少々いたしておりましたので、歯みがきは大いに適当でした。さすがに大学に入学し、歯学部と言う名の学部に入り、この道に進むようになると、歯もていねいに磨くようになりましたが、それまでのツケが消えてなくなるほど、甘くはないのが、むし歯です。
 
最初に、上の前歯の歯と歯のすき間が、むし歯になりました。幸い当時、兄が阪大の付属病院にいましたので、治療してもらいました。麻酔が効きにくくて随分痛い思いをしました。なぜ麻酔が効きにくかったのかは、今から思い出すと、先入観と言うものでしょう。当時は兄も私もお互い若く、治療する方も治療される方も、知識だけ豊富で、麻酔が本当に効いているのか、痛みがでるのではないかと、お互い疑心暗鬼でした。こういうケースでは、痛みの閾値が上がって、普段は痛まないのに、少し触るだけでも痛みを感じる時があります。やはり主治医を信用して、治療を受けることがなにより必要です。
 
さて開業して、おかげさまで忙しい日々が続いていましたが、当初は私1人だけで診療していましたので、かぶせものが取れたり、新たにむし歯が出来たりすると、大津の兄の診療所へ通院して治療を受けていました。ほとんどが一回か二回の治療で終わったのですが、どうしても痛みが完全に治らない歯がありました。次回はこの歯の治療経過について詳しく述べさせていただきます。
2016年-2月
デジタルX腺撮影を導入しました
かねてより導入を検討していましたデジタルレントゲンを、今年1月より導入開始しました。デジタルX腺撮影のメリットを、いくつかあげてみます。
レントゲン撮影に必要な放射線量を従来の約1/4以下に。
患者様のレントゲンの被ばく量も従来より軽減します。
鮮明でクリアな画像。従来より正確な診断が可能です。
撮影後すぐに画像を見ることができます。
現像液・定着液の廃液処理が不要になり、地球環境にやさしく、エコに貢献します。
良いことばかりですが、デメリットもあります。
デジタルで撮影すると、保険点数が少しアップします。つまり患者様の一部負担金が従来より少し増えることになります。申し訳ございません。
患者様には全く関係がありませんが、導入初期費用が高額でした。これは医院側の問題ですので、ご心配なく。
メリットを最大限に生かした治療をいたします。ご期待ください。
2016年-1月
「老人と歯」について(2)
ひところアンチエイジングと言う言葉が流行りました。
アンチエイジングとは本来、加齢による身体的機能の老化を予防したり、改善することですが、実年齢より若く見せると誤解されているようです。テレビに映る芸能人や歌手の「若々しさ」に、つい自分もと考えるのは、むべなるかなですが、私は逆に年齢不相応に「白すぎる歯」をみて、違和感を感じますし、明らかに植毛とわかるふさふさした頭や、ボトックスを入れたシワのない不自然な顔を見ると、この業界の方たちはみなさん大変だなと思ってしまします。
 
年をとって、歯や歯ぐきがおとろえて老化するのは、自然なことです。若い頃に比べて、固いものでも何でもかんで食べることが出来なくなるのも自然の摂理です。入れ歯になったからと言って悲観する必要は全くありません。それが老いというものです。だからこそ、年齢相応に歯のケアが必要になるのです。みなさん若い頃は、夜更かしして一晩ぐらい歯を磨かなくても、むし歯にもならず、歯ぐきから血もでなかったと思います。ところが、歯も歯ぐきも年をとればとるほど、弱くなり、毎日のケア(お手入れ)が必要になってきます。そして毎日ご自身でするケアだけではどうしても追いつかなくなり、不十分になります。特に全身的な病気を持った方は、お口の中までケアする十分な時間が取れません。
 
そこで、歯と歯ぐきの専門家の歯科医院に行って、定期的にケアしてもらう必要が出て来ます。定期的に歯科医院に行って、歯の掃除をしてもらったり、入れ歯の調整をしてもらうだけでも、随分違います。つまり高齢な方ほど、定期的に歯科医院に受診することが重要だと思います。
 
どうか若い頃の輝きを取り戻したいと言った要求はぐっとこらえて、年齢相応に、分相応に、お口の中のことを考えて、リハビリ感覚で定期的に歯科医院に通って下さい。お待ちしています。
2015年-12月
「老人と歯」について(1)
「老人と海」という名作を書いたのは、ご存じの通り、かの有名なノーベル賞作家ヘミングウェイですが、今回のコラムは、「老人と歯」についてです。急速に高齢化社会が進む中、一体何歳から、ヘミングウェイの言うように「老人」と定義するのか定かではありません。かく言う私も、開業した当時はまだ20歳台後半でしたが、約30年の年月を経て50歳台後半になりました。老人に限りなく近い中年のおじさんです。しかし「老い」は確実に進行しています。生命体、しかも哺乳類である限り、「老い」と言う事実は、年齢とともに絶対に避けては通れません。「歯」や「歯肉」も確実に老いていきます。
 
このセラミックの歯は、永久に持つと言われたのに、はたまた、インプラントをしたら、一生ものですと説明を受けた、などとクレームを付けて、当院を訪れる患者さんが少なからずいらっしゃいます。また自費治療を希望して、これを入れたら一生持ちますか?と質問を受けることがあります。
 
確かにセラミックの歯自体は、よほど固いものを咬んで割れない限りは、大丈夫です。またインプラントもチタン製の人工歯根は、滅多に破損したりしません。でも何か皆さん誤解されているようです。セラミックなどの人工のかぶせものを支えている歯根や、インプラントを支える歯槽骨、そして最も大切な周囲の歯肉は確実に老いてくるのです。
 
高価な宝石(指輪)を買ったとします。宝石自体は大丈夫でも、それをはめる指は確実に老いてきます。病気で寝たきりになったり、入院中の人には、果たして高価な指輪は必要でしょうか?
 
でもその大切な指輪は、リフォームすれば、かわいい娘や孫に譲れます。ところが歯は、どんなに素晴らしい入れ歯でも、インプラントでも他人には絶対に使用できません。
 
薄くなった頭髪に植毛したり、ウィグをかぶるのと、歯を治療することは、「老い」と「健康」の観点から、明らかに違います。お口の中の健康を維持しながら、健やかに「老いる」ためには、どうすれば良いのか、考えていきましょう。
2015年-11月
長寿歯科健診を受けましょう
西宮市では、歯や歯ぐきの健康を維持するために、長寿歯科健診を実施しています。この機会にぜひご受診ください。
 
今回の対象者は、平成27年4月1日時点で75歳および80歳の方です。西宮市から長寿歯科健診の受診券(黄色の紙)が送られて来ます。この受診券と後期高齢者医療被保険者証を持参して、歯科医院に来て下さい。
 
健診内容は、むし歯と歯周病のチェック、咀嚼機能(かむ力)と嚥下機能(のみこむ力)などです。健診料は無料です。ただし検診した上で治療が必要な場合は、治療費はご本人負担(保険治療)となりますが、初診料がかかりません。もちろん治療が必要でない方、治療を希望されない方は、無料です。
 
年をとるにつれて、歯周病やむし歯が原因で歯を失う人は少なくありません。自分の歯がどれだけ維持できるかは食べる楽しみだけではなく、転倒や介護のリスクにも関わることがわかってきました。
 
また高齢になると、歯ぐきも退縮してきますので、歯と歯の間のすき間がひろがり、食べカスがどうしてもはさまってしまい、若いころに比べてとても磨きにくくなります。入れ歯の方も、入れ歯を入れている部分の歯ぐきがだんだんやせてきて、入れ歯と歯ぐきの間にものが入るようになります。
 
年のせいだからとあきらめずに、定期的に歯科医院で歯の掃除や入れ歯の調整をすることは、とても重要なことです。また年齢に相応した歯の磨き方や、入れ歯の手入れの方法を聞くだけでも参考になるかと存じます。
 
最近どうも固いものが食べにくくなったと感じる方、食事のたびに食べカスがはさまって仕方がないと感じる方、入れ歯の調子がどうも悪いと感じている方などは、この機会にぜひ受診して下さい。お待ちしています。
2015年-10月
歯を接触させる癖(TCH)とは?(2)
歯を接触させる癖(TCH)の原因は何か? 
無意識に歯を接触させる癖ですので、その原因を特定することは困難ですが、どんな時にTCHを行っているかと言いますと、およそ2つのシーンが考えられます。まず、緊張するシーンです。緊張すると交感神経が働き、どうしても歯を食いしばります。それが持続するとTCHになります。次に集中するシーンです。精密作業、車の運転、家事、勉強、パソコン、スマホ、ゲームなどです。特にうつむいて何かをしているシーンで良くTCHが見られます。IT化の進んだ社会背景も大きな原因です。
 
それでは、一体どうやって歯を接触させる癖(TCH)を治すのか? 顎関節症や歯ぎしりでしたら、夜寝ている時だけ装着するマウスピース(スプリント)が保険の範囲内で作成することが出来ますが、TCH自体を歯科医院で治療する手立ては、残念ながらありません。つまりセルフケア、ご自身で改善していくことが、最も重要となります。
 
まずシールを貼ることです。無意識に歯を接触させている場所、例えば、精密作業時、車の運転、家事、パソコン、スマホ、ゲームをしている時に、目立つ所に、「歯を合わせない」「リラックス」と書いたシールを貼って下さい。そしてそのシールに気が付くと、鼻から大きく息を吸って、口を少し開いて、息を吐き出します。要点は口から息を吐くことです。口から息を吐こうとすると歯は接触できません。これがポイントです。
 
もう少しつっこんだ言い方をすれば、「ため息」をつくことです。思い切りため息をつくと、歯は接触できません。精密作業をしている時、運転中、あるいは家事で忙しい時、またパソコン、スマホ、ゲームに集中している時に、何度も「ため息」をついて下さい。すると上下の歯が接触しません。
 
歯を接触させる癖(TCH)があると、歯や歯を支えている歯肉にダメージが蓄積され、歯と歯肉を消耗し、歯がもろくなったり、歯周病が悪化したり、また最初に申しましたように、顎関節症になります。
 
そう言えば思い当たる節があると感じる方は、今日から意識して上下の歯を接触させないように注意しましょう。口もとからリラックスすることが大切です。
2015年-9月
歯を接触させる癖(TCH)とは?(1)
無意識に歯を接触させる癖のことを、TCH (tooth contacting habit)と言います。今、あなたの上下の歯はくっついていませんか? 意外に思われるかもしれませんが、普通は、口を閉じていても、上下の歯どこも接触していません。もちろん、食事や会話する時には、上下の歯が接触します。ただそれは瞬間的なものです。どんなに良く咬んで食べる人でも、どんなに良く会話する人でも、上下の歯が接触している時間は、意外に短く、一日にわずか20分程度です。
 
ところが、食事や会話以外の時間に、上下の歯がずっと接触している人がいます。この癖のことを、TCHと呼びます。このTCHと言う癖の何が問題なのか、ご説明します。
 
上下の歯が離れている時は、顎には力が入っていませんので、リラックスしています。ところが、上下の歯が接触している時は、顎に力が入っています。つまり口を開けたり、閉じたりする筋肉が緊張して、顎の関節に負荷がかかっている状態です。
 
顎の関節に、無理な力が加わり続けると、顎関節症になります。顎関節症になると、口を開けようとすると、顎の関節や筋肉が痛んだり、口を開けたり閉じたりすると、顎がカクカク鳴ったり、顎がカクンを外れてしまいそうになったり、さらに口が途中までしか開かなくなったりするといった症状が出てきます。思い当たる節のある方は、大勢いらっしゃることと存じます。
 
最近の研究では、この上下の歯を接触させる癖(TCH)が、顎関節症の主な原因であるということが知られてきました。痛みを伴う顎関節症の約80%の患者さんに、TCHが見られたという調査報告もあります。
 
もちろん咬み合わせが悪い方や、歯を抜けたまま放置している方や、顎の関節の形態自体に問題があり、顎関節症になりやすい方もおられます。また転んで顎を強く打ったりした場合でも、顎関節症になります。しかしTCHを改善することによって、多くの顎関節症の患者さんの症状が良くなっています。
 
また歯を接触させる癖があると、当然ですが、歯や歯を支えている歯肉に過度の負担がかかり、歯が欠けたり、歯周病が悪化します。
次回は、このTCHの原因と改善する方法をお知らせします。
2015年-8月
歯が溶ける病気について(3)
歯が溶けやすい飲み物や食べ物には、前回申しました通り、健康に良いものが多くあります。黒酢や栄養ドリンク、水分補給のためのスポーツドリンク、そしてレモンやグレープフルーツなどの果物もそうです。これらを全部やめることは不可能です。
むし歯でもないのに、歯が溶けて(エナメル質が溶けて)、結果的に歯に穴が開いて治療が必要になれば、何か損をしたような気になりませんか?
 
それでは、歯が溶ける酸蝕症の予防方法について述べて行きます。まずおすすめする予防法は、酸性の飲食物を口にしたら、そのあとすぐに、水やお茶を飲むことです。つまり酸が口の中に長く残らないように、水やお茶で中和するのです。水分補給のためのスポーツドリンクもそうです。スポーツドリンクばかり飲まずに、途中にお茶やお水を飲んでください。特に毎日、健康のために酢や栄養ドリンクや、グレープフルーツなどの酸性の果物を取っている方には、水やお茶を後から飲んで下さい。牛乳も酸性でありませんので、おすすめです。
 
次に注意してもらうことは、酸っぱいものを食べたり飲んだりした後は、30分ほど歯みがきを控えて下さい。本来は、食後にすぐ歯を磨くことは、むし歯の予防にはとても良い習慣ですが、酸性のものを食べたり飲んだりして、エナメル質が酸でやわらかくなっている状態で、歯をゴシゴシ磨くとエナメル質の表面が削れてしまいます。唾液が酸を中和して歯を修復してくれるまで、待って下さい。
 
そして酸性の飲食物がお好きな方は、特に柔らかく小さめの歯ブラシを使用して下さい。ゴシゴシ磨くのは、絶対にやめて下さい。歯磨き粉の付け過ぎにも十分注意して下さい。研磨剤の入っていないフッ素入りの歯磨き粉もおすすめです。
 
むし歯でもないのに、歯が削れてきたな?歯が黄色くなってきたな?と感じたら、遠慮なくお越しください。もしかしたら歯が溶ける酸蝕症かもしれません。
2015年-7月
歯が溶ける病気について(2)
歯が溶ける飲料水について、まず人気のソフトドリンクからです。
ナンバーワンは、コーラです。コーラは特に酸性が強く、酸蝕症のリスクが高まり、歯が溶けてしまいます。コーラの好きな方はぜひ注意していください。
 
次に、サイダーなどの炭酸飲料、そしてスポーツドリンクです。このスポーツドリンクが要注意です。暑い季節に、熱中症や脱水症状の予防に、水分をこまめに取ることはとても重要ですが、酸性の強いスポーツドリンクばかり飲むと、歯が溶けて酸蝕症になります。部活で忙しい中学・高校生の皆さん、またテニスやゴルフ好きな大人の方も、スポーツドリンクばかり飲まず、お茶や水も併せて、水分補給をして下さい。乳幼児向けの飲料にも、ジュースなど酸性の飲料水が多くあります。乳歯はエナメル質が薄く柔らかいため、甘い飲み物が好きな赤ちゃんは気をつけて下さい。
 
次はアルコール飲料です。
酸性の代表格が、かんきつ系の果汁が入ったチューハイとワインです。ワインは赤も白も酸性です。ビールは少しだけ酸性です。日本酒とウィスキーはほぼ中性で、アルコール類で唯一酸性ではないのが、ジンです。
 
健康ドリンクの中で、注意が必要なのは、黒酢と炭酸の栄養ドリンクです。
黒酢や栄養ドリンクは体には良くても、酸性が強く歯が溶けやすく要注意です。
 
飲むヨーグルトも酸性です。
果物の中では、レモン、グレープフルーツ、そしてオレンジが強い酸性です。
 
逆に酸性ではない(歯が溶けにくい)飲み物は何か?
お水(ミネラルウォーター)、お茶、緑茶、紅茶、コーヒー(ただしお砂糖なし)、それに牛乳、豆乳などです。
次回は、酸蝕症を予防する(歯が溶けるのを防ぐ)方法をお伝えします。
2015年-6月
歯が溶ける病気について(1)
今回は、歯が溶ける病気についてです。
歯というのは、表面の一番外側は、エナメル質と言われる非常に固い組織でおおわれています。エナメル質は、人体の中で最も固くて、骨よりも固く、歯を守る鎧(よろい)の役割を果たしています。この固いエナメル質のおかげで、固いものを咬み砕いたり、咬みちぎって、すり潰すことができるのです。ところが、このエナメル質が溶けて穴があき、その下の組織である象牙質が露出してしまうことがあります。象牙質は、エナメル質よりずっとやわらかくて、象牙細管と言われる神経(歯髄)の通り道がありますので、象牙質がむき出しになると、歯がしみたり、痛みを感じます。ではなぜ歯の一番固い組織であるエナメル質が溶けてしまうのでしょうか?
 
歯が溶ける病気の中で、一番多くて、一番知られているのが、むし歯です。むし歯は、ご存じのように、口の中の細菌が糖質から作った酸によって、歯質(エナメル質や象牙質)が溶ける(正確には脱灰される)病気です。
 
ところが、むし歯ではなくても、歯が溶ける病気があります。それが酸蝕症(さんしょくしょう)といわれる病気です。酸蝕症とは、むし歯と違って、強い酸性の物質が歯に触れることによって、歯が溶けてしまう症状のことを言います。
むし歯のように、口の中の細菌に関係なく、歯が溶けてしまう、これが酸蝕症です。
 
それでは原因を探っていきましょう。まずメッキ工場やガラス細工の工場で働く人たちです。どうしても酸性のガスを吸ってしまいますので、酸蝕症になりやすくなります。職業用病のひとつです。次に、逆流性食道炎、拒食症などの病気の方です。胃酸が逆流して口の中に入り、それが原因で歯が溶けてしまいます。ゲップをした時の酸っぱい感じを思い出していただければわかります。胃酸は強い酸性です。
 
そして、これが一番多い原因ですが、清涼飲料水(特に炭酸)、スポーツドリンク、ワインなどの酸性の飲み物、一部の果汁です。
それでは、一体どんな飲み物が酸性なのでしょうか?
次回に詳しくお話します。
2015年-5月
ドライマウスについて(3)
ドライマウス治療のマッサージ法について簡単にご説明します。
唾液腺には、耳下腺、顎下腺、舌下腺の3つの大唾液腺があります。この3つの大唾液腺をマッサージして、刺激することによって、唾液の分泌を促進させるのです。そのためには、具体的にどうすれば良いのでしょうか?
 
まず耳下腺からです。左右の耳たぶの下の部位を、人差し指と中指で10回ほど円を描くようにマッサージしてください。次に顎下腺です。左右の耳より下方で、下顎のえら骨の内側にあたるやわらかい部位を、同じく人差し指と中指で10回ほどやさしく押さえて下さい。最後に舌下腺です。顎の先のとがった部分の下部の内側に今度は両手の親指を当てて、10回ほど押してください。食後や寝る前に、うがいをして口をうるおしてから、マッサージするのが、より効果的です。
 
お口の中に手を入れて、直接耳下腺などをマッサージして刺激する方法もありますが、ひとりで行うのは、むずかしいと思われます。このマッサージ法については、当院の衛生士に気軽にお尋ねください。
 
また当院では、唾液の成分を補う保湿剤を配合した洗口液やジェル、スプレーなども置いています。サンプルもありますので、気軽に受付や衛生士にお尋ねください。
 
最後に、ドライマウスと診断されたら、あるいはドライマウスかなと思ったら、唾液の分泌量が低下することによって、むし歯や歯周病になりやすいことを自覚して、定期的に歯科医院に通院されることを、おすすめします。
2015年-4月
ドライマウスについて(2)
ドライマウスの原因は他にもあります。唾液の分泌は、自律神経の働きに支配されているため、ストレスによる神経性要因でもドライマウスが生じます。ストレスによって交感神経の働きが強まり、唾液分泌が減少します。
 
さらに鼻ではなく口で呼吸をする方、いわゆる口呼吸をする習癖のある方は、口の中が渇いて、ドライマウスになります。風邪を引いて鼻が詰まって、口でしか呼吸ができない状態を思い出していただけると、わかります。
 
そして最後に、老化「加齢」です。これが一番の原因かもしれません。加齢とともに、筋力も衰えて、噛む力がなくなると、唾液の分泌量は減少します。もちろん唾液腺自体の機能も加齢とともに低下しますので、必然的に唾液の量は減ってきます。
 
それでは、ドライマウスの治療は一体どのようにするのか、順番にご説明します。まず、原因が除去できそうなものと、原因除去が困難なものにわけて考えます。
 
原因が除去できそうなもの、例えば糖尿病や腎臓病、薬の副作用などは、主治医のドクターと相談の上、薬の変更や原因となっている病気の治療を勧めます。また過度のストレスに対しては、気分転換のための運動や音楽なども効果的です。口呼吸に対しては、耳鼻咽喉科に受診して原因を探してもらうことも必要です。
 
 これに対し、原因が除去出来そうにないもの、例えば外傷や放射線治療で唾液腺自体が損傷した場合、そして老化「加齢」により唾液腺自体の機能が低下した場合です。
 
この場合の治療方法は、患者さん本人にしていただく、対症療法になります。すなわち、減少した唾液を補う保湿剤の使用や、唾液腺のマッサージ、またドライマウスに起因する粘膜障害に対しては、うがい薬や軟膏を使用します。
 
特にドライマウスに効果があるのが、唾液腺を刺激するマッサージ法と保湿剤の使用です。ご自身でもできますので、ぜひマスターしていただけたらと存じます。次回はこのマッサージ法についてご説明します。
2015年-3月
ドライマウスについて(1)
今回はドライマウスについてです。高齢者社会をむかえて、日常生活に支障をきたすさまざまな疾患や症状が注目されるようになりました。ドライマウスも、その一つです。マスコミやテレビでも頻繁に取り上げられています。
 
ドライマウスとは、唾液の分泌量が減少して、お口の中が乾燥し、その結果、「口の中が頻繁に渇く」、「唾液がネバネバする」、「食べ物がうまく飲み込めない」、「味がおかしい(味覚障害)」、「口臭が気になる」などの症状がでてくるのが特徴です。またドライマウスになるとお口の中の環境に変化が起こり、風邪を引きやすくなり、肺炎が起こりやすくなるとも言われています。
 
ではなぜ唾液の分泌が減少するのでしょうか?原因はさまざまです。皆さん普段はあまり唾液の存在を意識することはないと思います。しかし、唾液はとても重要な働きをしています。たとえば、食べる、飲む、話すといった口の働きを助ける、あるいは、口の中から入ってくる細菌から身を守る、そして、むし歯や歯周病を防ぐなどの働きがあります。
 
ですからドライマウスの原因を突き止めて改善していくことは、健康維持のために、とても重要なことなのです。
 それではドライマウスの原因を順番に探っていきましょう。まず全身的な病気です。唾液が減少する病気として、糖尿病と腎臓病があげられます。糖尿病や腎臓病の合併症として、利尿が進むと、体内の水分不足になり、ドライマウスが生じやすくなります。またドライマウスの患者さんの約10%は、シェーグレン症候群だと言われています。この病気は女性に多い自己免疫疾患で、ドライアイと言って涙腺の分泌も減少しますので、お口だけではなく、目も乾燥するのが特徴です。
 
次に飲んでいるお薬の影響です。特に高血圧のお薬や抗うつ剤、睡眠薬、安定剤などのお薬の副作用でもドライマウスになります。最近の研究では、胃薬、抗アレルギー剤、風邪薬なども含めて、5種類以上のお薬を毎日飲んでいると、副作用としてドライマウスになることがあると言われています。
また顔面の腫瘍などに対する放射線治療や、外傷により唾液腺そのものの損傷により唾液が出なくなり、ドライマウスになることもあります。次回は治療方法についてです。
2015年-1月
院長コラム一覧表(目次)
おかげさまで、院長コラムを掲載して8年目を迎えました。色々なことを記してきましたが、初めての読んでいただく方のために、一覧表(目次)をつけました。年度月別に並べました。興味ある内容がありましたら、ぜひお読みください。
2014年11月 忙しくて何度も通院できない方のために
2014年9月 金属のバネがない入れ歯について
2014年7月 青年よ、歯を磨け (2回) 
2014年6月 歯の根の病気と治療について
2014年5月 妊婦検診を受けましょう
2014年4月 入院前に歯科医院に行く
2014年1月 カヌーとの出合い (3回)
2013年11月 世界で最も多い病気 (2回)
2013年7月 口腔粘膜病変について (4回)
2012年11月 病気を持った患者様の歯科治療について(7回)
2012年10月 お口の主治医になります
2012年8月 歯科治療のレントゲンについて (2回)
2012年4月 歯の痛みついて (4回)
2011年10月 チーム医療について (4回)
2011年7月 入れ歯(義歯)について (3回)
2011年1月 歯の磨き方~心をこめて~ (6回)
2010年12月 知覚過敏について (2回)
2010年7月 こどものむし歯を予防しよう (4回)
2010年4月 歯磨き粉について (3回)
2009年12月 睡眠時無呼吸症候群の治療 (4回)
2009年9月 口の中の「がん」について (3回)
2009年7月 むし歯になりにくい丈夫な歯を目指す (2回)
2009年6月 シーラントのおすすめ
2009年3月 口臭について (3回)
2008年12月 歯の外傷(歯のけが、口のけが) (3回)
2008年11月 電動(音波)歯ブラシ使用の是非について
2008年10月 歯肉から出血する時の歯みがきについて
2008年9月 睡眠と歯科の深い関わりについて
2008年8月 なぜ寝る前に歯を磨くことが重要なのですか?
2014年-11月
忙しくて何度も通院できない方のために
忙しくて何度も通院できない方のために、短期集中治療システムを取り入れることにいたしました。できるだけ短期間で治療が終わるようにいたします。
 
当院では、9月から常勤のドクターを採用しましたが、治療技術はもちろん、治療内容の説明もていねいで、信頼できる優秀なドクターです。従来勤務してくれているベテランドクターと私とで、ドクター3名体制で診療に当たることが出来るようになりました。また歯科衛生士も現在4名勤務しています。それに伴い、院内を改装して診療台(チェアー)を1台増設いたしました。
 
診療台もスタッフにも余裕ができたことで、治療回数や治療期間を短縮することができるようになりました。また今まで待合室で長時間お待たせして、ご迷惑をおかけすることが、多々ありましたが、それも解消できる体制が整いました。
 
忙しくて何度も治療に通えない、また長期間の通院は仕事の関係で困難だという方、海外勤務や単身赴任の方、お祝い事があるのでそれまでに、あるいは入院するのでそれまでに、受験や塾で忙しい学生の方、もちろん小さい子供さんがいらっしゃるお母さん、また保険の有効期限が迫っている方や、保険が切り替えになる方など、さまざまな理由で、時間と期間がない方は、できるだけ短期間で治療が終わるようにいたします。
 
ただし院長限定で治療をご希望の方、また、かぶせ物や入れ歯など、型取りをして治療しなくてはならない方は、多少日数がかかることをご了承ください。もちろん週一回程度の間隔で治療をご希望の方は、今まで通りに治療いたします。
受付までお気軽にご相談ください。
2014年-9月
金属のバネがない入れ歯
金属のバネのない入れ歯「ノンクラスプデンチャー」を始めました。歯が抜けてしまって、あるいはどうしても歯を抜かなくてはならなくなった時、その抜けた場所に、人工の歯を入れる方法は、3つあります。一つ目は入れ歯、二つ目は抜けた両サイドの歯を削って入れるブリッジ、三つ目は人工の歯根を顎に埋め込むインプラントです。
 
それぞれ短所と長所がありますが、ブリッジとインプラントは固定式なのが長所ですが、ブリッジの場合、どうしても抜けた両サイドの歯を削らなければなりません。またインプラントの場合は、人工の歯根を顎に埋め込む手術が必要で、難易度の高い処置で、トラブルも少なくありません。
 
入れ歯は逆に、取り外しが面倒だということと、金属のバネが見えて嫌だという欠点があります。今まで、色々な患者さんに、さまざまな入れ歯を入れさせていただきましたが、総入れ歯は別として、部分入れ歯の場合、金属のバネが見えるというのが、最大のネックでした。特に若い患者さんやオシャレに気を使っている御婦人の方には、正直に言いまして、入れ歯を勧めにくいのが、現状でした。
 
今回、長年当院の取引先である入れ歯専門の技工所と相談して、金属のバネがない入れ歯(ノンクラスプデンチャー)を開始しました。今までも何度か作成したことはありますが、患者さんの声に応えて今回本格的に導入することにしました。
 
ノンクラスプデンチャーの一番の長所は、金属のバネが見えないことです。金属のバネがないので、一見して、入れ歯をしていることがわかりません。口もとの見た目が大きく変わります。人前でも口もとを気にせずに笑えるようになります。またブリッジのように両サイドの歯を削ったり、インプラントのように人工の歯根を顎に埋め込む手術も不要です。
 
ただしノンクラスプデンチャーは、保険が効かないのが最大の欠点です。つまり自費治療になります。当院では出来る限り、リーゾナブルな費用設定にしました。抜けた歯の本数によって、料金が変わりますが、6万円から9万円で作成します。
ぜひご相談下さい。
2014年-8月
「青年よ、歯を磨け」(2)
「青年よ、電動(音波)歯ブラシを使え」 これは実践したことです。前回申しました通り、私は恥ずかしながら、育児も手伝ったかどうか疑問でしたが、さすがに歯の仕上げ磨きは、2人の息子にしました。小学校低学年ぐらいまで、毎日夜寝る前にしていました。その後、どうしたものか思案した結果、電動歯ブラシを持たせることにしました。安価なものはダメです。少なくとも充電式のメーカー品にして下さい。できれば歯科医院専用が望ましいと言えます。
 
なぜ電動(音波)歯ブラシかと言いますと、普通の歯ブラシでは、きれいに磨くためには、鉛筆持ちで細かく動かして磨く必要があります。それでも女性のほとんどの方は、お化粧をする感覚で、教えられた通りに念入りに歯磨きします。ところが、男性、特に青年にはそれが面倒くさくて、つい力を入れてゴシゴシ磨いてしまいます。しかも時間をかけて、ていねいに磨く集中力が続きません。電動(音波)歯ブラシなら、歯や歯肉に歯ブラシの毛先を当てるだけですので、細かく動かす動作が不要で、面倒くさがり屋の青年にはピッタリです。しかもむし歯や歯周病の原因となる歯垢の除去は、手で磨くのと同じ効果があります。
 
それでは具体的に、どうやって磨かせたかと言いますと、いわゆる「ながら磨きです」。時間をかけて磨かせる方法はこれしかありません。夜寝る前にソファーに座らせて、漫画の本を読みながら、磨かせるのです。「ジャンプ」でも「マガジン」でもかまいません。できれば単行本より続きのある週刊誌が向いています。
 
妻もそうでしたが、女性の方は漫画の本と言って、小馬鹿にしますが、実際に読んでみると悪いことばかりではないことが良くわかります。おもしろいからです。磨きの基本だけ徹底的に教えて、あとは自由に漫画を読みながら磨かせるのです。知らず知らずのうちに、10分ぐらいは平気に磨くようになります。10分間磨くとなったら、それこそお父さんやお母さんより長く磨いているのではないでしょうか?
 
二人の息子は、時々旅行に行くからと言って、旅行鞄に電動歯ブラシを入れて行きます。普通の歯ブラシが使えないからなのですが、一緒に行った友人から、さすが歯医者の息子やと言われるのが恥ずかしかったみたいです。今ではもちろん平気になりました。
この長い時間歯を磨く習慣、毎日夜寝る前に、洗面所ではなく、ソファーに座って磨く習慣こそ、「イクメン」に必要な習慣です。自分の歯もろくに磨けないのに、子供の歯は絶対に磨けません。そんな青年は結婚相手としては、不合格です。当然です。
 
むし歯は、ご存じのように細菌による感染症です。ほとんどの子供が両親から、むし歯菌が感染します。ひと昔前の青年ならそれでもOKですが、「イクメン」をする青年なら、歯をきちんと磨く必要がどうしてもあるのです。そうでなければ、子供に確実に、むし歯菌が感染するからです。
「青年よ、歯を磨け」 ご理解いただけたでしょうか?
2014年-7月
「青年よ、歯を磨け。」(1)
「青年よ、大志を抱け」と名言を残したのは、ご存じ札幌農学校(現北海道大学)のウィリアム・クラークです。また「青年よ、ユーコンに行け」と言ったのは、私の趣味の一つカヌー(カヤック)の第一人者である野田知佑氏です。私は一介の歯科医師ですが、最近特に感じることは 「青年よ、歯を磨け」です。
 
青年とは、おもに高校生から20歳代の男性を意味しますが、私が学生だった30年以上前に比べて、青年は皆ファッションセンスにあふれ、オシャレになりました。一方でどんな職業でも女性の活躍する場が増えて、男女平等などと言う言葉は死語のものとなりつつあります。歯科医師でも例外ではありません。私が学生だった頃は、歯学部や医学部に入学する女性は約1割程度でしたが、今や歯学部も医学部も半数近くが女性です。
 
そして昨今流行の「イクメン」です。男女が共同で子育てに参加するのは、もはや当然となっています。私事で恐縮ですが、男2人兄弟で育って、子供も息子二人の父親である私は、典型的な昭和の父親です。家事はむろん食事を作ったり、掃除洗濯はほとんどしたことがありません。育児も手伝ったかどうかはなはだ疑問です。最近ようやく出来るようになった唯一のことと言えば、ゴミ出しです。青年時代は約10年間ひとりで下宿生活を送りましたが、妻や息子二人に、信じられないと言われるのも、むべなるかなです。
 
話が脱線しました。なぜ「青年よ、歯を磨け」なのかは、青年が近い将来「イクメン」しないといけないからです。最近の青年は、ファッションセンスは抜群なのに、歯はあまり磨けていません。当院でも、中学生から大学生の青年に、ベテランの衛生士3名が懸命になって歯磨き指導を行っていますが、どこ吹く風です。「歯ブラシは鉛筆もちで、手鏡を見て磨いて下さいね」と言ったところで、実際家に帰ったら、そんなことをして磨いていません。その点女の子は優秀です。ほとんどの若い女性は、衛生士の言う通りに磨くようになります。ではどうしたら、青年が歯を磨くようになるのか。
その答えは、「青年よ、電動(音波)歯ブラシを使え」です。
次回ご説明します。
2014年-6月
歯の根の病気と治療について
今回は歯の根の病気と治療についてです。むし歯が深くなり、神経(歯髄)まで進行してしまうと、神経を取り除く治療が必要になります。通常、神経まで進行したむし歯は、冷たいものや熱いものがしみたり、ズキズキ痛んだりします。夜中になると痛むのも特徴です。ところがまれに、ゆっくり進行したむし歯では、あまり痛みが伴うことなく、神経までやられてしまうことがあります。また外傷によってダメージを受けた歯の場合も、多くの場合は痛みを伴うことなく神経が死んでしまいます。その場合は、歯が少し黒ずんで変色して来ます。
 
いずれの場合でも、歯の神経(歯髄)まで、細菌(バイ菌)に感染してしまうと、歯の根の治療が必要になります。もちろん神経が残っている時は、痛みを伴いますので、麻酔が必要です。神経(歯髄)を抜くので「抜髄」と呼びます。また神経が死んでいる場合は、通常麻酔が不要ですが、これを「感染根管処置」と言います。神経(歯髄)まで進行したむし歯を放置しておくと、どうなるかと言いますと、感染した細菌(バイ菌)が神経(歯髄)全体に及んで、さらに歯の根の先まで進行して、根の先の骨(歯槽骨)の中に膿がたまります。この状態になると、根の先の方の歯肉が腫れてきて、ズキズキ痛むことがあります。そして最後には根が腐ってしまい、歯がボロボロの状態になり、歯を抜かなければならなくなってしまいます。
 
ですから、神経まで進行したむし歯の場合は、速やかに根の治療が必要になるのです。ところが、この根の治療こそ歯科治療の中で最も難しいと言われる治療なのです。治療自体の難解さはもちろんですが、患者様の年齢や全身状態によっても、治療方針に大きく差が出て来ます。特に若い年齢では、なるべく神経は取らずに残した方が将来のために良いとされています。逆に明らかに神経まで進行しているにもかかわらず、根の治療をしないでかぶせてしまったり、あるいは根の治療が不十分のままかぶせてしまうと、根が化膿して再治療が必要になります。また患者様がご自身の都合で、歯の痛みがなくなったからと言って、根の治療を途中で中断すると、最悪の場合は歯を抜かなければならなくなる場合もありますので、どうか最後まで治療を受けて下さい。
2014年-5月
妊婦歯科検診を受けましょう
西宮市では妊娠すると、無料で妊婦の歯科検診が受けられます。これは大変良い制度だと思います。妊娠して西宮市から妊婦の歯科検診票が届いたら、ぜひ歯科医院で検診を受けて下さい。
 
なぜ妊婦検診が必要かと申しますと、妊娠中はエストロゲンと呼ばれる女性ホルモンが増加し、内分泌の変調などにより、歯肉が炎症を起こし、腫れやすくなり、歯磨きをすると出血したりします。また妊娠すると、お口の中の唾液が酸性になり粘っこくなります。さらに、つわりがひどいと、お口の中が普段以上に汚れてしまい、むし歯になる危険性が増大します。俗に、出産したら歯がガタガタになったと、昔から言われますが、実は妊娠中からその傾向になっているのです。
 
特に近年、母親が中程度から重度の歯周病にかかっていると、早産や低体重児を出産しやすくなると言われています。
 
西宮市に住民票がある妊婦の方なら、検診料金は無料です。妊婦検診受診に必要なものは、西宮市妊婦歯科検診受診券です。ただし検診した上で治療が必要な場合は、治療費はご本人負担(保険治療)となります。ちなみに妊娠中の歯科治療で最適な時期は、妊娠4ヶ月から7ヶ月の間です。この時期はいわゆる安定期で、流産の危険も少ない時期です。
 
将来生まれてくる赤ちゃんのためにも、また出産後も元気に子育てするお母さんご自身のためにも、ぜひ妊婦歯科検診を受けて下さい。お待ちしています。
2014年-4月
入院の前に歯科医院に行く
かかりつけのお医者さんから、あるいは大きな病院で詳しく検査した結果、入院して下さいと言われると、どんな病気であっても、ショックを受けてとても不安になります。ましてや手術となると、将来のことも考えて心が動揺します。とても歯のことなんか考えていられません。ところが、入院中や退院後も快適に過ごすために、入院前にぜひ一度、かかりつけの歯科医院に行くことをお勧めします。
 
なぜ入院前に歯科医院に行くことが必要かと申しますと、まず第一に、入院中に歯が痛くなったら大変です。入院中はもちろん、入院の原因になった病気を治療するのが最優先ですので、歯科口腔外科が同じ病院内にある場合を除いて、歯が痛くなってもすぐに歯科には診てもらえません。これは本当に困ります。
 
次に、入院前に歯科医院に行って、衛生士から歯石を取ってもらったり歯磨き指導を受けることにより、お口の中の細菌が肺に入って炎症を起こす誤嚥性肺炎などの手術後の合併症を予防できます。また放射線治療や化学療法による免疫低下で起こる口内炎や口腔乾燥症などもを軽減できます。
 
特に入院となると、環境もガラリと変わり、ご自宅でゆっくり時間をかけて歯磨きするのと同じようには、なかなかできません。その結果どうしても歯磨きがおろそかになり、普段以上に、口の中が汚れて歯垢がたまりやすくなり、むし歯や歯周病が進んでしまいます。入院中も楽しく食事をするために、また退院後も快適に過ごすために、ぜひ入院前に歯科医院に行って、治療並びに衛生士による専門的なお口のケアを受けて下さい。
 
入院前に行けば良かった、と後悔しないで、入院前に行って良かった、となれば本当に幸いです。
2014年-3月
カヌーとの出合い(3)
今年の年末年始の休暇を利用して、西表島にカヌーとトレッキングに行って来ました。沖縄から西に約450km、台湾から東に約200kmに位置する西表島は、島の面積の約9割がジャングルで覆われ、太古から変わらない自然が残されていて、東洋のガラパゴスとも称される島です。独特の生態系を維持しており、国の特別天然記念物「イリオモテヤマネコ」や同じく特別天然記念物の「カンムリワシ」などが生息しています。
 
また西表島は、日本では数少ない一年中カヌーの出来る島ですが、亜熱帯地方ですので、冬はモンスーン(季節風)と呼ばれる強い北風が吹きます。そのため石垣島からの船も、西表島に到着する港によっては、欠航がでるほどです。今年も例年通り風が強く、楽しみにしていた海でのカヌーは強風のため出来ませんでしたが、島の中の穏やかな川で、カヌーを楽しみ、美しい滝を幾つか眺めました。
 
今回、西表島に約100頭生息するといわれるイリオモテヤマネコは残念ながら見ることができませんでしたが、カンムリワシは、飛ぶ姿や珍しい鳴き声も含めて間近で見ることができました。いつの日か、また西表島を訪れて、南国の海をシーカヤックで思う存分楽しみたいと思います。
2014年-2月
カヌーとの出合い(2)
早速、カヌー(シーカヤック)一式を揃えて、西宮の海へ出航しました。10年以上も昔の鮮烈な思い出です。学生の頃よく行った一人旅と同じ感覚です。ひとりきりですので、沈(ちん)(転覆)した時が問題です。こればかりは誰も実地で教えてくれませんでした。当時カヌーを購入したアウトドアで有名なM社の店長から、セルフレスキュー(沈(ちん)した時に自力でカヌーに再乗艇する方法)を口頭で教えてもらいましたが、もちろん実際にはやったことなどありませんでした。不安に駆られながらも、学生時代の一人旅と同じように旅(海)に出ました。
 
西宮沖には、遠くに赤色の灯台が見えます。ヨットマンや釣り好きの人は、近くまで行ったことがあるかと存じます。すぐ近くに見えますが、沖合約5kmのところです。まず甲子園浜や芦屋浜などを周回して自信をつけてから、チャレンジしました。遠くから灯台を見ると随分小さく見えますが、間近で見ると高さが、ゆうに5m以上はあります。赤色の灯台に白字で小さく「海上保安庁」と記されています。甲山(かぶとやま)にもよく上ったことがありますが、赤い灯台まで行った時は、小さな山の頂上に立った時のような達成感がありました。そして何より海の水平線から眺める西宮の美しい景色に感動しました。
  
それから調子に乗って、六甲アイランドの白い灯台や、赤い灯台と白い灯台の中間のさらに沖に浮かんでいるブイまで行きました。そんなある日、海上保安庁の巡視艇に出合いました。
 
ある冬の寒くて波の高い日のことでした。沖まで出ると、大きな船が追いかけて来ました。最初は全く意味が分からず、マイクで「船長さん、危険ですので、すぐに引き返して下さい」と呼ばれているのが、一体誰のことなのか分かりませんでした。しばらく周囲を見渡して、それが自分自身のことだとようやく気がつきました。今にして思えば、当然のことです。周囲から見れば、危険極まりありません。万が一、冬の海で沈(転覆)すれば、低体温症になって命を落としかねません。海上保安庁の巡視艇の方々、ご迷惑とご心配をおかけしました。反省しています。
2014年-1月
カヌーとの出会い(1)
今回は歯の話ではありません。申し訳ありませんが、お許し願います。コラムを書き始めて早5年。そろそろ別のお話です。
カヌー(カヤック)との出合いは、10年以上前のことです。今でこそカヌーはアウトドアのアイテムとして、マスコミや雑誌にも登場するようになりましたが、当時はカヌーを1人で乗るのは、変わり者の代名詞でした。もともと九州で生まれ、滋賀県の中学・高校出身です。田舎というより自然が大好きでした。西宮に移り住んで約30年、開業して早27年経ちました。
 
西宮は昔も今も都会ですが、自然も沢山残っています。山の景色も絵になるほど美しいですが、海に沈む夕焼けの素晴らしさも格別です。毎朝、診療所まで海辺を通って、遠くに甲山(かぶとやま)を見ながら自転車通勤しています。雨の日も風の強い日も機嫌よくペダルをこいでいたある日、学生達がカヌーの練習をしている姿を見ました。それがカヌーとの初めての出会いです。
 
何よりも動力(エンジン)がないのが気に入りました。ペダルの代わりにパドルを漕ぐのですが、海の魅力を肌で感じて、なおかつスリルもありそうでした。早速調べてみると、芦屋マリンセンターで体験レッスンを実施しているということでしたので、すぐに申し込みました。
 
参加者は親子連れが多く、私を含めて初めてカヌーを乗る初心者ばかりでしたが、お父さんは余裕の笑顔で、子供たちは緊張した面持ちでした。ところがいざカヌーに乗ると、ひっくり返る(転覆)のは、大人ばかりで子供たちはゆうゆうと漕いでいました。あげくの果ては、カウボーイハットをかぶったインストラクターまでもが、不覚にもドボンと転覆(沈(ちん))しました。ひっくり返って転覆することをカヌー用語で「沈(ちん)」すると言います。
 
これはおもしろそうだと実感しました。その後数回、マリンセンターでプライベートレッスンを受けました。最初のうちはなかなか直進出来ませんでしたが、なんとか自力で進めるようになりました。「ひとりでカヌーをするのはとても危険ですよ。」とインストラクターにさんざん言われましたが、どこ吹く風です。風に吹かれて、波に揺られて、海を自由にさ迷う、これぞカヌーの醍醐味です。やるしかありません。そう心に決めました。もう10年も前のことです。
2013年-12月
世界で最も多い病気(2)
歯周病が世界で最も多い病気である原因のひとつに、かかりやすく、気がつきにくいことがあげられます。これは高血圧や糖尿病と似ています。ところが、血圧は今では家庭で簡単に測定することができます。また血糖値も、少しチクッとしますが少量の血液を採取して家庭で簡単に測定することができるようになりました。
 
しかし歯周病はどうでしょうか? ひと昔まえですが、リンゴを食べると血が出る人は歯槽(しそう)膿漏(のうろう)ですと言うコマーシャルがありましたが、血圧計や血糖値測定計のように、家庭で簡単に歯周病にかかっているかどうかを調べる方法は、まだ見つかっていません。このことも、歯周病が世界で最も多い病気になっている原因のひとつです。
 
日本人では20歳から増加して、30歳代では7割、40歳代では実に8割以上が歯周病にかかっています。成人全体の約80%がかかっている国民病ともいわれています。
 
だからこそ定期検診が大切なのです。どこも悪くないのに歯医者さんに行くのは嫌だ、面倒くさいと言わずに、歯周病とむし歯のチェックにだけでもお越しください。当院では歯科衛生士が、歯石や歯垢(しこう)を取る際に、歯周病のチェックにかかせない「歯周ポケット」の検査を必ず行います。
 
歯周病菌は酸素を嫌う細菌のため、歯と歯ぐきのすき間にある「歯周ポケット」に入り込んで増殖します。衛生士が「歯周ポケット」の深さを、一本ずつ何ミリ何ミリと測っているのを、聞いたことがあると存じます。わかりやすく言うと、歯周ポケットが浅い、つまり少ないミリ数(2~3ミリ)の方が良く、歯周ポケットが深い、つまり多いミリ数(4ミリ以上)の方が歯周病が進行している状態です。歯周ポケットが6ミリ以上になると、歯を支える骨が半分以上破壊され、歯はグラグラになります。
 
世界で最も多い病気である歯周病を進行させないためには、歯周ポケットにたまった歯垢(しこう)を毎日きちんと取り除き、歯科医院で定期的に歯石と歯垢を取ってもらうことが、とても重要なのです。
2013年-11月
世界で最も多い病気(1)
「世界で最も多い病気」とギネスブックに掲載されている病気をご存じですか? 答えは「歯周病」です。歯周病は進行すると、歯を支えている歯周組織が破壊され、歯ぐきが腫れたり歯がグラグラしたり、最終的に歯が抜け落ちたりすることもある病気です。歯周病には、炎症が歯ぐきだけの歯肉炎と、歯ぐきの炎症が進行して歯を支えている骨(歯槽骨)にも及んでいる歯周炎とがあります。歯周病は、むし歯と同様に細菌による感染症です。たとえば風邪やインフルエンザはウイルスによる感染症、肺炎は細菌による感染症です。
 
感染症ならどうしてワクチンを打って予防出来ないのでしょうか? 
歯周病やむし歯の予防接種は聞いたことがありません。もし歯周病やむし歯の予防接種があれば、歯医者さんに行かなくても済むとお考えになるのも当然です。むし歯に関しては、フッ素が予防に有効であることは実証されています。小さいころからフッ素塗布を受けていれば、むし歯予防の効果はあります。では歯周病にはそれがないのはなぜでしょうか?
 
歯周病の一番の原因は、歯と歯肉の境目にたまる歯垢(しこう)(プラーク)です。この歯垢(しこう)の中には300~400種の細菌が存在し、そのうち歯周病の原因となる病原性の細菌は30~40種類です。
つまり原因となる細菌の種類が多すぎて、特定のワクチンを使用して治すのが現実的に不可能なのです。しかもその複数の細菌が歯周病になると、1000倍にも増えてしまします。1グラムの歯垢(しこう)に約1000億個の歯周病菌が潜んでいます。これが歯周病のなかなか完治しない理由です。
 
私が学生だった30年以上前、細菌学の講義を受けていた時の話です。母校の医学部出身の高名な教授は、私たち学生の前でこう熱く話しました。「私の研究室では今、むし歯と歯周病の細菌を特定して、そのワクチンを作る研究をしています。君たちが卒業するころにはワクチンが完成の予定です。したがって君たちは卒業したらみんな就職先がなくなるよ。残念だね。」
 
眠い目をこらえて講義を受けていた私は、ハッと目が覚めたのを昨日のように思い出します。歯科の将来を予見して未来を見据えた素晴らしい講義だったと今になって痛感します。
2013年-10月
口腔粘膜病変について(4)
「黒色」の口腔粘膜病変には、様々なものがあります。まず代表的なのもが、メラニン色素沈着症です。メラニン色素の過剰産生により起こり、口腔内では特に、前歯部の歯肉(歯に近い部分の歯肉、歯と歯と間の歯肉)が黒く見えます。思春期の学童さんが、鏡を見て歯肉が黒くなっているのに気が付き心配して、母親と一緒に来院されるケースが良くあります。通常は積極的な治療は行いません。
 
次に外来性色素沈着症です。文字通り、外から体内に入った金属の溶出よって口腔粘膜に主に「黒色」の着色斑が生じます。歯にかぶせ物をしている周囲の歯肉が黒く見えるのが、この病変です。沈着は限局しており、患者様の希望がない限り、特に治療は行いません。
 
「黒色」の病変で良くみられるものに、血腫があります。外傷によるものが多く、「血豆ができた」と表現されるものです。特に頬粘膜(頬っぺたの内側の粘膜)や口唇を食べ物と一緒に咬んだ時に起こります。基本的には数日で自然に治癒します。
 
「黒色」の病変で厄介なものが、色素性母斑と悪性黒色腫です。色素性母斑は、皮膚に比べて口腔粘膜に発生することはごくまれですが、悪性化する可能性があります。半円形で多少隆起して痛みはありません。滅多にない病変です。
悪性黒色腫は、メラノーマと呼ばれ悪性化が高く、口腔粘膜にもごくまれにですが出来ます。痛みがなく黒褐色から黒青色で軽度隆起していますが、大きさも形もさまざまです。メラノーマが疑われた場合、すぐに経験豊富な口腔外科医をご紹介します。
 
このように口腔粘膜にも色々な病気があります。お口の中の病気は、むし歯や歯周病だけではありません。おかしいと思ったら、1人で悩まずに遠慮なく、ぜひ来院して下さい。お役に立てると存じます。
2013年-9月
口腔粘膜病変について(3)
「赤色」の口腔粘膜病変として、代表的なものは歯周病と歯肉炎です。歯肉に炎症が起きると充血して、炎症反応により赤く見えます。歯と歯の間、歯と歯肉の境目が赤くなれば、大抵の場合歯周病です。そして病状が進行すると、今度は腫れて来ます。「暗赤色」に腫れてくると、膿瘍と言って化膿して歯肉に膿がたまります。歯に近い際の部分が「暗赤色」に腫れると、歯周病が原因です。親知らずが腫れるのもこの部類です。
 
ところが歯とは少し離れた部分(歯の根にあたる部分)が「暗赤色」に腫れる場合があります。この場合は、むし歯が原因で歯の根が化膿して、膿が溜まり腫れて来ます。それぞれ治療方法が異なりますが、「暗赤色」に腫れてきたら、歯周病やむし歯以外にも色々な病気が考えられますので、すぐに受診して下さい。
 
まれですが、口唇(特に下唇)に米粒大ぐらいの大きさで小さく丸く「暗赤色」に腫れる時があります。これは唾液腺の排出障害によるもので、粘液のう胞と言います。また舌の裏側(口腔底)が大きく「暗赤色」に腫れる時があります。これも同じ理由で唾液腺の障害ですが、ガマ腫と言います。
 
もうひとつ「暗赤色」の病変に、血管腫があります。血管腫とは、血管組織の増殖を特徴とする良性の腫瘍です。口腔内では、舌、口唇、頬粘膜に出来ます。比較的丸く盛り上がっているのが特徴です。部位や大きさによって治療方法はさまざまです。
 
「赤色」の口腔粘膜病変では、ごくまれにですが、紅板症(こうばんしょう)と言って、悪性化の高い前がん病変があります。前回お話しした白板症(はくばんしょう)の「赤色」様のものです。60歳以上に多く、紅斑のほか接触痛を伴うことがあります。鑑別が困難で、ベテランの口腔外科医に相談する必要があります。同じくまれな疾患として、赤く水疱を伴う天疱瘡や、紅斑やびらんを伴う多形滲出性紅斑があります。このふたつは内科医に受診していただきます。
次回は「黒色」の口腔粘膜病変についてです。
2013年-8月
口腔粘膜病変について(2)
白い病変でも、少し厄介なのが白板症(はくばんしょう)と扁平苔癬(へんぺいたいせん)です。
いずれも頻度は低いものの、がんになる可能性があると言われる前がん病変です。まず白板症(はくばんしょう)ですが、舌、歯肉、頬粘膜(ほっぺたの内側の粘膜)に出来やすく、文字通り口腔粘膜に、白い板のように見える病変です。白色の肥厚して少し隆起した板状に見えるのが特徴です。痛みはほとんどありません。40歳以上の男性に多いのが特徴ですが、原因は不明です。
 
次に、扁平苔癬(へんぺいたいせん)ですが、これは逆に40歳以降の中年の女性に多く見られます。白板症に比べると、がん化する可能性はかなり低いのですが、注意は必要です。白板症(はくばんしょう)と同じような部位に出来ますが、特に頬粘膜(ほっぺたの内側の粘膜)が好発部位です。見た感じは、白班と紅班が網目状(レース様)に混在しているのが特徴です。通常痛みはありませんが、赤い色が強くなり、びらんを伴うと痛みが出て来ます。原因は不明ですが、免疫機構の関与(自己免疫説)、金属アレルギーなどが考えられています。
 
白板症(はくばんしょう)や扁平苔癬(へんぺいたいせん)かもしれないと思ったら、どうか1人悩まずご相談下さい。もし本当にそうでしたら、経験豊富な口腔外科の専門医をご紹介します。経験豊富な口腔外科医であれば、臨床的に悪性化しやすいか、しにくいかある程度判断できます。そして必要に応じて、生検して確定診断ができます。
 
もうひとつ、白い変化のする口腔病変として、口腔カンジダ症があります。口腔内に常在する真菌のカンジダ菌により引き起こされる感染症を、口腔カンジダ症と言います。通常、健康な人では病気を起こさない菌が、体調不良や体力低下によって、免疫力や感染防御機能低下に伴い発症します。また薬剤の長期服用による菌交代現象によっても起こります。
 
やはり舌や口唇、頬粘膜などに見られますが、表面は白いクリーム状で、白板症(はくばんしょう)や扁平苔癬(へんぺいたいせん)と違って、白いクリーム状の白斑が容易に拭い取れます。治療には、抗真菌薬を使用します。難治性再発性の場合は、HIV感染も疑います。
次回は「赤色」の口腔粘膜病変についてです。
2013年-7月
口腔粘膜病変について(1)
今回のコラムは口腔粘膜病変についてです。
昨今、歯科ではインプラントを始めとする審美歯科が大流行していますが、その高額な治療費ゆえにトラブルも多く、まるでエステか歯科かと思われるような様相です。院長の私はじめ当院のスタッフは、あくまでも歯科は医科の一部であるという信念を持って、日々診療しています。
 
歯科は「むし歯」や「歯周病」を治療するだけではありません。口の中にはそれ以外の様々な病変が出来ます。そのような口腔粘膜病変は、さまざまな原因により生じ、診断は必ずしも容易ではありません。病変によっては、がんを口内炎と診断したり、逆に口内炎をがんと診断することもあります。
 
今回は、わかりやすく色と形別に解説します。まず「白色」からです。白色で代表的なものが、アフタ(一般的に口内炎と呼ばれるもの)です。口唇、舌、歯肉、さまざまな部位に出来ます。大きさはそれほど大きくはなく、2mm~10mmぐらいの円形をしています。中心部が白色で、周囲が少し赤みがかっています。触ったら「痛い」のが特徴です。通常は軟膏を塗れば良くなります。心配は要りません。
 
ただし稀ですが、アフタがウイルス性の疾患の症状として口の中に多発して、水疱(すいほう)ができることがあります。ヘルペス、帯状疱疹、手足口病、ヘルパンギーナなどです。その場合、かかりつけの内科医にすぐに受診をおすすめします。もう一つ、再発性アフタが出来る病気に、ベーチェット病があります。この病気は原因不明の全身性炎症性疾患ですが、再発性アフタが初発症状になることがあります。通常のアフタより大きく、個数が多く、深い潰瘍を形成するのが特徴です。
 
次回は白い病変でも、少し厄介な白板症(はくばんしょう)と扁平(へんぺい)苔癬(たいせん)をご説明します。
2013年-6月
病気を持った患者様の歯科治療について(7)
がん患者様の多くの方が体験する悩みの一つが、口腔粘膜炎です。抗がん薬治療や放射線治療の影響で、がん治療中に口の中が腫れる、ただれるといった口腔粘膜炎が発症します。特に頬っぺたの内側や舌や唇などの部位に口内炎が多発して、食事も取りにくくなり、患者様のQOL(生活の質)を著しく下げてしまいます。
 
ご存じのように、抗がん剤はがん細胞を攻撃するだけでなく、正常な細胞にも作用し、デリケートな口腔粘膜に強く影響が出ます。また放射線治療の場合も、唾液腺に放射線が当たりダメージを受けると、唾液が出にくくなって、口腔乾燥や味覚障害が起こります。
 
このような口腔粘膜炎を軽減、あるいは予防するためには、口腔ケアによって口の中を清潔に保つことが、最も重要なことになります。手術や抗がん薬、放射線治療を行う前に、かかりつけの歯科医院で、簡単なむし歯の治療や、歯石を取って歯のクリーニングをしてもらうだけでも大変効果があります。その時に口腔ケアのプロである歯科衛生士が、入院中にご自身で行っていただく歯磨き、うがい、保湿などのセルフケアの方法をアドバイスします。
 
そうした口腔ケアによって、口腔粘膜炎の痛みやつらさが少しでも軽くなれば、がん治療中の食欲低下が抑えられ、がんと言う難攻不落の病気に打ち勝つとまでは行かずとも、高いQOL(生活の質)を維持しながら治療を行っていただけると思う所存です。どうかお気軽にご相談ください。
2013年-5月
病気を持った患者様の歯科治療について(6)
今回は、がん患者様の歯科治療についてです。
現在2人に1人が「がん」になると言われています。「がん」は日本人の死因の第1位であり、「がん」と闘病生活を送っている人は、140万人と言われています。私事ですが、毎月「がんサポート」という雑誌を購入して、待合室にも置いています。毎号読んでいますと、僭越ですが「生きる」ことについて深く考えさせられ、がん患者様の苦悩と治療に関する期待と疑問が、この雑誌から読み取れます。
 
ところが一般的な歯科医院では、がんに関する知識や歯科治療に関する情報が少ないのが実情です。がんに関するお薬もそうです。前々回「高齢者の患者様が飲んでいるお薬について」でもお話ししたように、がん患者様の増加に伴い、ビスフォスフォネート(BP)製剤の服用が増加しています。またBP製剤は、がん患者様の点滴(ゾメタ、アレディア、パミドロン)にも使用されます。さらに最近では、がん治療に良く使用される「分子標的薬」(商品名ランマーク、アバスチン、デノスマブ)も、歯科治療の際に顎骨壊死と類似の症状を引き起こすことが知られています。しかしこれらの分子標的薬やBP製剤は、乳がんや前立腺がん、肺がんなどの患者様で、転移病変の骨痛を抑え、病的骨折を予防する有効なお薬です。
 
したがって、がん患者様では、BP製剤を原則として休薬せずに、侵襲的歯科治療はできるかぎり避けるのが妥当です。
がんの治療中に、歯や歯肉が悪くなったら、歯科治療ができるかどうかご自身で悩まずに、どうか直接来院していただいてご相談ください。どうしても一般開業医で治療が無理な場合は、大学病院もしくは口腔外科のある大きな病院の信頼のおけるドクターに紹介状をお書きします。
 
もちろん転ばぬ先の杖ではありませんが、日頃から歯や歯肉の健康に気をつけて定期検診に来ていただくことが肝要です。「たかが歯、されど歯です」 入院前後に歯のクリーニング(歯石や歯こうを取って歯と歯肉のお掃除をすること)をするだけでも効果十分ですので、主治医の先生とご相談して、遠慮なく来院して下さい。
次回は、がん治療中の患者様の口腔病変についてお話します。
2013年-4月
病気を持った患者様の歯科治療について(5)
今回は肝臓病と歯科治療についてです。
まず肝臓の機能について簡単に述べますと、肝臓には主に3つの機能があります。栄養素の代謝、有害な物質の解毒、そして胆汁の合成・分泌です。肝臓は「沈黙の臓器」と言われるほど多少の障害では症状が現れず、自覚症状が現れた時は、かなり進行しています。それだけに定期的に検査を受けることが大切です。
日本人の肝臓病の約80%は、肝炎ウイルスが関与しています。ご存じのようにA型肝炎、B型肝炎、C型肝炎などです。
 
肝臓疾患の患者様の歯科治療についての注意事項ですが、まず院内感染を防止することが重要となります。そのためには患者様の中で、肝炎ウイルスのキャリアの方、または何らかの肝疾患にかかっている場合は、必ず初診時にお伝え願います。もちろん当院ではスタッフ全員で院内感染には細心の注意を払っていますが、患者様からの情報がとても重要です。肝炎だから治療してくれないのではなどと考えずに、正直におっしゃってください。出来る範囲内でベストな治療を行う所存です。
 
次に肝臓疾患の患者様は、肝障害が重度になると、血液凝固因子の減少などで、歯科処置後に血が止まりにくくなります。特に抜歯や切開排膿などの観血的処置をした場合、なかなか止血しません。また肝障害によって赤血球・白血球の破壊を進めるので、感染症を起こしやすくなります。さらにタンパク合成の機能低下でアルブミン量が少なくなるので、傷が治りにくくなる傾向があります。したがって歯科治療の際には、なるべくダメージの少ない治療方針と感染予防を心がけます。
 
また肝臓での薬物代謝・解毒機能が低下するので、薬が効きすぎたり、副作用が強く出たりすることがあります。ですから内科の主治医と相談して歯科治療に行うことが必要です。
2013年-3月
病気を持った患者様の歯科治療について(4)
今回は、高齢者の患者様が飲んでいるお薬とその病気について述べてみます。高齢者は複数の病気(高血圧と糖尿病など)を合併している可能性が高いために、若い人より多くの種類のお薬を飲んでいます。また若い人に比べて、お薬が体内に長時間停滞して、薬の効果を長引かせ、お薬の相互作用による副作用も出やすくなります。
 
まず「痛み止め」ですが、歯科治療で良く使用されるロキソニンやボルタレン(NSAIDs)をあまり長期間に何錠も飲んでいると、消化性潰瘍を発症することがあります。(1回から5回程度でしたら飲んでも心配要りません)。長期間何錠も服用する場合は、喘息患者やウイルス感染症の際にも使用でき、比較的安心なカロナール(アセトアミノフェン系)をお勧めします。
 
次に高齢者の患者様が飲まれているお薬の中で、注意する必要のあるお薬、ビスフォスフォネート(BP)製剤について述べます。お薬の名前は、ボナロン、フォサマック、アクトネル、ベネット、アレンドロン、ボノテオ、リカルボン、ゾメタ、パミドロンなどです。高齢者とは限りませんが、次の病気の患者様が飲まれていると思います。
 
・骨粗鬆症(こつそそうしょう) 
・膠原病 
・関節リウマチ 
・がん患者(特に乳がん、前立腺がん、肺がん)
 
このBP製剤を飲む理由は、
①大腿骨頭部骨折や寝たきりの予防、
②骨転移を発症したがん患者への疼痛コントロールや病的骨折の予防などです。ところがこのBP製剤は、歯科治療で抜歯などをした後に、ごくまれにですが、顎骨壊死(あごの骨が腐る)を起こす副作用があります。
 
そのためこのお薬が処方されると、歯科の受診の際に必ず申し出て下さいと書かれた紙をお薬と一緒に渡されます。しかし、このBP製剤はとても有効なお薬ですので、一般的にはメリットの方がはるかに大きく、患者様の都合で安易に中止するべきではありません。
 
飲んでいることを必ず、歯科治療の前に申し出ていただいて、主治医と相談してから、服用を中止するかどうか対処しますので、どうかご安心ください。
2013年-1月
病気を持った患者様の歯科治療について(3)
今回は、心臓の病気を持った患者様の歯科治療について述べてみます。
まず心筋梗塞からです。
心筋梗塞の手術を受けられた方は、その手術の術式(バルーン、ステント、バイパスなど)に関係なく、心筋梗塞発症後(手術後)、3カ月以内の歯科治療は原則として行えません。6ヶ月以内でも必要最小限の応急処置だけになります。そして患者様は、血栓予防に血をサラサラにするお薬(抗凝固剤・抗血小板剤)を飲むことになります。
 
血をサラサラにするお薬には以下のようなものがあります。
ワーファリン、パナルジン、バイアスピリン、プラビックス、プレタール、へパリン、そして最近新薬として認められたプラザキサ、リクシアナなどです。これらのお薬を飲むと、血が止まりにくくなります。このため歯科治療をする際に注意が必要となります。
 
それぞれ症状により使用する薬が違いますが、最近の傾向としては、抜歯や観血的処置(切開など出血する処置のこと)をする場合、お薬を中断することなく、飲み続けたまま処置をすることが望ましいとされています。ですから、歯医者に行くからこの薬を飲まずに行こうと勝手に判断しないで下さい。当院では主治医のドクターに必ず問い合わせて、主治医の判断を聞いてから処置するように努めています。
 
またこの血をサラサラにするお薬は、心筋梗塞の患者様だけではなく、脳梗塞、心房細動、不整脈、肺塞栓症、深部静脈塞栓症 腎不全(人工透析)、抗リン脂質抗体症候群などの病気の方も飲まれています。ぜひ覚えておいて、歯科医院を受診する時は申し出て下さい。
 
不整脈でペースメーカーを装着している患者様も必ず歯科治療前に申し出て下さい。歯肉を切開する場合に用いる電気メスは使用できません。また歯石を除去する超音波スケーラーも長時間使用しない方が良いでしょう。
 
心臓の手術を受けている患者様で注意することは、感染性心内膜炎を起こしやすいことです。特に人工弁移植を受けている方や先天性心疾患で小さい頃に心臓の手術された方は、歯科治療に際して感染に細心の注意を払い、治療内容によっては抗生剤(抗生物質)の予防投与(治療前にあらかじめ抗生剤を飲んでいただくこと)が必要です。
2012年-12月
病気を持った患者様の歯科治療について(2)
② 糖尿病
今回は糖尿病の患者様についてです。
糖尿病患者は急増し、糖尿病が疑わしい予備軍も含めると、1600万人以上いると言われています。糖尿病とは慢性的に持続する高血糖の状態で、末梢の血管の循環不全が起き、重症化すると、三大合併症(網膜症、腎障害、神経障害)の他、脳梗塞、心筋梗塞、動脈硬化などを引き起こす可能性があります。末梢の血管の歯肉にも影響が出ますので、歯周病になりやすくなります。
 
また高血圧と同様に初期は自覚症状がないのが、厄介です。血糖値がコントロール不良の状態で、抜歯などの観血的処置をした場合、傷口の治癒が遅れたり、感染して重症化することがあります。稀にですが、治療中にショックを起こし意識レベルが低下することがありますので、十分注意が必要です。
 
血糖値のコントロールの目安としては、HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)が、7%以下、空腹時の血糖値が150mg/dl以下です。逆に、HbA1cが8%以上、空腹時の血糖値が160mg/dl以上でしたら、歯科治療に関して制限が出て来ます。応急処置のみにさせていただく場合もあります。もちろん主治医に紹介状を書いて病状をお問い合わせしますが、どうしてもコントロール不良な方は、信頼のおける病院内の歯科口腔外科をご紹介いたします。またコントロール良好でもインシュリンを打たれている方は、合併症の有無を主治医に伺います。
 
最近マスコミ等で良く紹介されて、ご存知の方もおられると存じますが、歯周病は「糖尿病の第6の合併症」といわれています。糖尿病の患者様は、歯周病になりやすく、しかも悪化しやすい傾向にあり、歯周病の悪化で、さらに血糖値を高めるという悪循環に陥ります。
 
ですから糖尿病と診断された方は、定期的に歯科医院に来ていただいて、歯周病の予防のために、歯科衛生士による歯石・歯垢除去と歯磨き指導を受けることを、ぜひお勧めいたします。
次回は、心疾患についてです。
2012年-11月
病気を持った患者様の歯科治療について(1)
今回は病気を持った患者様の歯科治療について、述べてみたいと存じます。当院では初診時に必ず医科(他のお医者さん)でもらって飲んでいるお薬を確認しています。初診時にお忘れの時は、次回の予約の時に、お薬手帳かお薬の紙を持参してもらうようにしています。
 
歯医者さんだから関係ないと考えておられる方もありますが、とんでもない間違いです。病気の症状や飲んでいるお薬によっては、治療が出来ない場合があります。当院ではその時は必ず、主治医のドクターに紹介状を書いて問い合わせをしています。
 
飲んでいるお薬から説明するよりも、病名から説明する方が患者様にとってもわかりやすいかと思いますので、病名別に簡単ですが解説します。
① 高血圧 
高血圧は、患者さんが約3700万人いると言われる最も頻度の高い生活習慣病の代表的疾患です。脳卒中の最も重要な危険因子が高血圧です。高血圧の患者様の歯科治療では、まず治療前に必ず降圧剤を指示通り飲んで来てもらうことが重要です。できれば治療に来る前に血圧を測ってきて下さい。薬を飲み忘れた場合や、治療当日の血圧が上が160以上、下が100以上ある場合は、治療を中止もしくは延期します。
 
ただでさえ歯科医院に来て、診療台(チェアー)に座るだけで不安になり緊張して心臓がドキドキして、血圧が上昇します。高血圧の方ならなおさらです。当院ではできるだけリラックスしていただくように、スタッフ一同患者様に声をかけながら治療をしていきます。診療室内のBGMもオルゴールやピアノなどを中心に、くつろいでいただく工夫もしていますので、どうかご安心ください。さらに降圧剤と一緒に安定剤をもらっている方は、安定剤を飲んで来ていただくとより一層スムーズに治療が行えます。
 
また歯科に使用する麻酔(局所麻酔)に関しては、一般的にカートリッジ1本分の使用は循環器系(血圧)に重大な影響を及ぼさないと言われています。
次回は糖尿病についてお話します。
2012年-10月
お口の主治医になります
患者様には、たとえどんなに健康な方でも、主治医が1人おられることと存じます。医療関係の方は別にして、ほとんどの方はその主治医は内科医だと思います。私にも内科の主治医がいます。私よりも若いドクターですが、私の全身状態を定期的に血液検査等でチェックして、病気のことが良く分からない時には、十分な説明をして、深刻な状態と判断した時には、すぐに大きな病院へ紹介状を書いてくれます。信頼のおける主治医です。この主治医のおかげで、毎日精一杯診療ができると言っても過言ではありません。ところが、その信頼のおける主治医でも、さすがに口の中のことは分かりません。皆さんの主治医の先生方も恐らくそうでしょう。そこで患者様の大多数は、内科と歯科に最低でも二つの科を受診することになります。
 
私は開業以来25年間、お口の主治医になることをモットーにしてきました。歯や歯肉のことだけではなく、口の中全体をチェックするよう常に心がけて診療しています。内科の主治医と同様に、口の中の病気のことをできるだけ患者様に十分説明し、深刻な病気や専門的な技術をようする病気は、即刻経験豊富な専門医に紹介してきました。もちろん耳鼻咽喉科や外科、皮膚科と領域が重なるケースもありますが、できるだけ他科のドクターとも連携して治療に当たるようにしています。小児科のドクターともお互いに意見を交換しながら、治療したことも多々あります。
 
現在は三人に一人が、がんになると言われています。胃がんや大腸がん、乳がんに比べて頻度は少ないものの、口の中にがんが出来ないとも限りません。それを少しでも早く見つけるのも、お口の主治医の役割だと考えます。
 
小さいお子様のむし歯や歯肉炎の予防にも、三人の歯科衛生士とともに積極的に取り組んで、小児科のドクターと同様に小児歯科の主治医を務めるようにしています。歯並びやあごの発育に関して問題があれば、経験豊富な矯正専門医に即刻紹介状を書いて相談に行っていただきます。
 
今後も、お口の主治医になることをモットーに信念を持って、スタッフ一同診療いたしますので、どうかよろしくお願い申し上げます。
2012年-9月
歯科治療のレントゲン(2)
なぜ歯科治療にレントゲン撮影が必要なのでしょうか?
一言でいえば、直接見ることが出来ない歯の内部や形、骨の状態を調べることができるからです。このことは診断に非常に重要です。「歯の痛みについて」のコラムでも述べましたが、ひと口に「歯が痛い」と言っても、原因はさまざまです。医科の診断に血液検査が不可欠なように、歯科の診断でもレントゲン撮影は不可欠です。
 
 わかりやすく説明しますと、レントゲン撮影によって、目で見えない隠れたむし歯、歯周病の進行状態、親知らずの状態、歯ぐきにできた出来物(腫脹)の原因、外傷(けが)による歯の破折の程度、顎関節の状態、子供の永久歯の萌出状態と本数、そして一番大切な歯の痛みの原因などが調べられます。
 
 つまり歯のレントゲンを撮影しないと、正確な診断はつかない、すなわち的確な治療ができないと言うことです。しかしレントゲンを撮影される患者様の気持ちになると、あまり撮ってほしくないのが本音です。
 
 当院では、子供にはなるべくレントゲンを撮らないように心がけています。ただし抜歯やむし歯が大きく神経の治療が必要な時は例外です。また妊婦には原則としてレントゲン撮影は行いません。大人でも最初の診断に必要な場合と根の治療の確認に必要な場合以外は、必要最小限にするようにしています。
 
 それでも患者様ご自身がどうしてもレントゲン撮影を受けたくないと考えておられる場合は、遠慮なく受付または治療開始の前に必ずお伝え下さい。その節は、歯科医師歴30年開業歴25年の長年の経験に基づいて、レントゲン撮影を行わずに的確に治療する所存です。
2012年-8月
歯科治療のレントゲン(1)
今回のコラムは歯科治療のレントゲン撮影について述べてみたいと思います。昨年の東日本大震災後の福島第一原発の放射線漏洩事故で、患者様の放射線被ばくへの関心がとても高まっています。歯科医院の治療で、使用するレントゲン撮影に対して不安を感じている患者様も決して少なくありません。それでは、歯科治療におけるレントゲン撮影がどの程度健康に影響を及ぼすのでしょうか?
 
まず、日本の自然放射線量は、年間2.1mSv(ミリシーベルト)です。世界の平均値は、年間2.4mSvです。南米ブラジルのガラバリ市では、年間10.0mSvですが、住民の放射線による影響(がんの発生率など)は皆無と言われています。
 
さて、歯科治療のレントゲン撮影は、一体いくらくらいなのでしょうか? まず小さなレントゲン(デンタル)は一枚あたり、0.01mSvです。口の中全体が写る大きなレントゲン(パノラマ)は、0.04mSvです。つまり大きなレントゲンでも、日本の年間自然放射線量の50分の1以下、小さなレントゲンでは200分の1以下です。
 
ちなみに胸部レントゲン撮影が、0.05mSv。歯科用CTが、0.1mSv。胃のレントゲン撮影が、0.6mSv。頭部CT検査が、2.0mSvです。海外旅行にたとえますと、高所では宇宙線が増加しますので、東京―ニューヨーク航空機往復で、0.2mSv被ばくします。
 
海外旅行や他科のレントゲン撮影やCTに比べても、歯科治療のレントゲン撮影の方が被ばく量が断然少なく、安全なのが良くお分かり頂けると存じます。
発がんのリスクが高くなるのは、一度に100mSV以上被ばくすることと言われています。しかし、これで安心するのではなく、「必要最小限のレントゲン撮影をする」ことが肝要です。
次回は、なぜレントゲン撮影が、歯科治療に必要なのかをお知らせします。
2012年-7月
歯の痛みについて(4)
⑥歯や歯肉が原因ではない歯の痛み
頻度はまれですが、歯や歯肉が原因ではなくても、歯が痛むことがあります。具体的にお話ししましょう。
 
まず失敗例からお話しします。中年の女性の方でした。右上の奥歯が痛むということで来院されました。レントゲンを撮影しても異常がなく、しばらく様子を見ていましたが、痛みがだんだん増してきて、夜中にも痛むようになったため、歯の破折を疑って神経を取りました。普通はこれで痛みがなくなるはずですが、一向に症状は変わりません。まだ開業して間もないころでした。
 
窮した私は、大学時代にお世話になったA教授に紹介状を書きました。しばらくして返事が来ました。原因は家族のことで悩んでいたために起こった「心因性」の痛みでした。
 
もうひとつ失敗例です。30代の男性の方でした。右下の奥歯が痛くて仕事も出来ないと言って来られました。レントゲンではむし歯がありましたが、神経までは侵されていないようでしたので、二三日様子を見ることにしましたが、翌日に急に来院され、我慢が出来ないので、神経を取ってくれと懇願され、本意ではなく歯の神経を取りました。しかし翌日意外な事実が判明しました。右半身だけ湿疹が出来て、皮膚科を受診した結果「帯状疱疹」と診断されました。
 
次は自慢話になりますが、お聞きください。小さなお子様が2人いる若い女性の方でした。左上の奥歯が全体に痛むので診てほしいと来院されました。私の医院に来る前に、他の歯科と耳鼻科にも受診にておられました。やはりレントゲンを撮っても異常はありませんでしたが、その若い女性の訴える痛みに、何か引っかかるのもがありました。いわゆるピンときた症例です。すぐに大学時代にお世話になった口腔外科のB教授宛てに紹介状をしたためました。B教授は、私の紹介状を読んで一通り診察した後に、同じ大学病院内の脳神経外科に紹介しました。診断は「脳腫瘍」でした。幸い早期発見で、緊急手術され今では元気に過ごされています。
 
最後にもう一つお聞きください。今から18年前のことです。入れ歯が合わなくて痛むので診てほしいと来院されました。50代の男性です。上の入れ歯が痛むとのことでしたが、上は総入れ歯でした。普通は総入れ歯の場合、入れ歯が合わなくて歯肉に炎症を起こして痛みますので、入れ歯の調整をすればほとんどの場合治ります。ところがその男性の口の中を見ると、確かに入れ歯が擦れて炎症が起きていましたが、普通の炎症とは少し違う所見でした。「何かいつもと違う」と感じました。翌日もう一度来てもらって、炎症部位を確認してから即刻、前述の口腔外科のB教授に紹介しました。診断は「上顎洞がん」でした。この方も早期でしたので、すぐに手術されました。奥様から過分な感謝の言葉を頂きました。
 
そしてつい先日のことですが、その男性の方が奥様とご一緒に元気なお姿で来院されました。18年前のことが走馬灯のように思い出されました。お元気な姿を拝見出来て、曲がりなりにも歯科医を続けていて良かったと心から感じました。
 
このように「歯の痛み」は、非常に複雑です。なにか変だなと思ったら、放置せずに私ども専門家に診てもらうことを、ぜひお勧めします。
2012年-6月
歯の痛みについて(3)
⑤咬んだ時に痛い
咬んだ時に痛い時は、原因はさまざまです。慎重に原因を探る必要があります。まずむし歯です。見た目はほんの少し黒くなっている場合でも、内部で大きく進行しているむし歯や、歯と歯の間から進行しているむし歯の場合、咬んだ時に痛みます。
 
また詰め物や部分的に金属をかぶせている歯でも、油断しているとその隙間から再度むし歯が進行して、咬んだ時に痛みます。歯の神経を取っている歯でも、歯の根が化膿すると、咬んだ時に痛みが続きます。かぶせた銀歯や白いセラミックの歯が咬んだ時に痛む場合は、歯の根に原因がある場合があります。
 
まれに小学生くらいの年齢で、小臼歯(前歯と奥歯の間)の咬み合わせの中央の突起(中心結節)が破折して、むし歯ではないのに、咬めない位痛む時があります。大人の場合でも、固いものを咬んだ後に、歯が破折する場合があります。一見何もないようでも咬んだ時に痛む場合は、歯の破折を疑います。破折が大きくなると、冷たいものや甘いものがしみて来ますので、注意が必要です。
 
歯周病が進行すると、歯が少しずつ動揺してきますので、咬んだ時に痛みます。放置していると今度は、歯と歯肉の間の歯周ポケットから感染し化膿して、歯肉が腫れてきますので、咬めないぐらいに痛みます。咬むと少し痛いし、歯肉から膿が出てきたら歯周病が進行していると思って下さい。
 
咬み合わせが悪い場合でも、咬んだ時に痛みます。歯ぎしりや噛みしめにより、歯に過重な負担がかかりつづけると、歯を支えている歯根膜という組織が炎症を起こして、咬んだ時に痛みます。
 
このように咬んだ時に痛む場合は、原因が色々ありますので、放置せずに一度受診して、何が原因か正しく突き止めて治療する必要があります。
次回は、歯や歯肉が原因ではない、痛みについてです。
2012年-5月
歯の痛みについて(2)
②熱いものがしみる
これは冷たいものがしみる場合に比べれば、少し厄介です。むし歯の場合ですと、かなり進んだ状態と考えられます。神経(歯髄)まで侵されている場合に、熱いものがしみます。また一度治療している歯でも、熱いものがしみる場合があります。神経(歯髄)に近いむし歯を治療した場合や、すでに神経を取った歯でも神経が一部残っていた場合に、それが炎症を起こして熱いものがしみる時があります。歯の神経(歯髄)は一本の糸のようなものではなく、樹木のように複雑な枝に分かれている場合がよくあるために、残った神経が炎症を起こすことがあるのです。また歯周病でも進行して歯がぐらぐらするようになると、冷たいものだけではなく、熱いものもしみるようになります。いずれの場合も神経の治療が必要かどうか早目に一度受診されたほうが良いかと存じます。
③甘いものがしみる
これは甘いものとむし歯の関係が明らかなように、むし歯である可能性が高いと言えます。特に若い思春期の方にはそれが顕著に現れます。冷たいものも熱いものもしみないけれど、甘いものだけがしみるケースがよくあります。一見しただけでは、むし歯は見当たらなくても、レントゲン撮影すると深いむし歯が発見される場合が多いのも、特徴の一つです。甘いものがしみるようになったら、むし歯と考えていただいても良いでしょう。そして良く調べてもらうことをお勧めします。
④夜中に痛む
これは我慢ができません。むし歯が大きくて完全に神経まで侵されている場合や、歯周病が進行して歯肉が腫れて膿がたまっている場合です。いわゆる夜間痛といわれる痛みで、ズキンズキンと脈を打ったように痛みます。早急に治療する必要があります。この症状が出ると、一体どこが本当に痛いのか分からなくなります。自分で勝手に決め付けず、必ず全体が写るレントゲンを撮って診断してもらってから、治療することをお勧めします。親知らずの場合でも同じ症状がでます。また後述しますが、まれに歯や歯肉が原因ではない痛みの場合がありますので、注意が必要です。 
次回は咬んだ時に痛い場合です。
2012年-4月
歯の痛みについて(1)
今回は歯の痛みについて述べてみたいと思います。
患者様が歯科医院を訪れる理由の中で一番多いのが「歯が痛いから」だと存じます。「歯が痛い」と言ってもさまざまな痛みがあります。もっと広く言えば、「口の中が痛い」ので来院したと言うのが正解でしょう。
 
たとえば「入れ歯が合わなくて痛い」「歯肉が腫れて痛い」「咬み合わせると痛い」「冷たいものや熱いものを飲んだら痛い」「夜中にずきずき痛む」「顎が痛い」などです。
 
おかげさまで歯科医師になって30年、開業して25年経ちました。毎日毎日患者様を診療しますと、さまざまな痛みに遭遇します。この経験は「継続は力なり」の諺のように、歯科医師としての財産です。この経験をふまえて、専門家から診た視点ではなく、患者様から見た視点で「歯の痛み」について考えてみたいと思います。
 
まず痛みの本質について申し上げますと、痛みは生体の防御反応です。痛みとは身体に異常があることを伝える重要なサインです。つまり何らかの異常が出てきたので、痛むわけです。
 
比較的診断が簡単なのは、「むし歯が進行したから痛い」「歯周病が進行して歯肉が腫れたから痛い」「入れ歯が合わなくて痛い」等です。
しかしながら歯科医院を訪れるまでは、「歯の痛み」の本当の理由は分かりにくいものです。 
まず「痛みの種類」から探っていきましょう。
①冷たいものがしみる
むし歯か知覚過敏の可能性があります。
歯周病で歯ぐきが下がって来ても、冷たいものがしみます。
歯磨き粉の付け過ぎや力を入れ過ぎによる歯磨きで、エナメル質が摩耗することでも、冷たいものがしみます。
歯ぎしりや喰いしばりなどで過度に歯に力がかかっても、エナメル質が破壊して冷たいものがしみます。
外傷(けが)で歯や口を強打したり、固い物を不用意に咬んでしまった時に、歯が破折する時があります。一見なんともないように見えても、エナメル質や象牙質に亀裂が入り、冷たい物が強烈にしみることがあります。
 
このように冷たいものがしみる原因は多種多様です。
おかしいなと思ったら早目に受診をおすすめします。 
次回は熱いものがしみる編です。
2012年-2月
チーム医療について(4)
チーム医療について、今回は歯科衛生士についてです。
歯科衛生士について簡単に説明しますと、医科での看護師の役目と言えます。もちろん国家資格ですので、国家試験に合格しなければなりません。
 
医科でのチーム医療における看護師の役割は、ある意味でドクター以上に重要です。そのことは患者様が医院や病院に行けばお分かりになることと存じます。歯科でも同じことが言えます。チーム医療を目指すにあたって、歯科衛生士は絶対になくてはならない存在です。
 
歯科衛生士の役割は、歯磨き指導やフッ素塗布、歯石除去など、むし歯や歯周病の予防だけにとどまりません。患者様それぞれのお口の状態に合わせた専門的な助言と指導が出来ます。 つまり歯科衛生士とは、患者様のお口の状態(歯と歯肉)をより良くするための国家資格を持った健康アドバイザーです。
 
もちろんそのためには、専門的な技術と経験が必要です。当院では手前味噌ですが、技術経験とも申し分ない優秀な歯科衛生士が、現在3名常勤しています。お口の中の色々な悩みや疑問をぜひ相談して下さい。聞いて良かったと思えるアドバイスが出来ると存じます。
 
最初に申しましたように、当院は担当医制ではありませんので、それぞれの歯科衛生士から個々に、良い助言が得られることが可能です。これもチーム医療のメリットです。これからもスタッフ一丸となって、来院される患者様のお口の中をより良くするよう頑張ります。
2011年-12月
チーム医療について(3)
チーム医療について、今回は女性歯科医師についてです。
当院は現在4名の女性歯科医師が勤務しています。最初に述べましたように当院のスタッフは、女性歯科医師だけが常勤ではありません。
 
少し話が脱線します。私が学生だった30年以上前は、歯学部に限らず医学部もそうでしたが、女性の学生数は全体のわずか10%程度でした。それが現在では歯学部も医学部も50%近く、つまり約半数は女性です。優秀な女性が増えたのではなくて、もともと優秀だった女性が、医学や歯学の分野に進出してきたと言ったほうが真実です。
 
ところが、開業医を見渡せば、医科歯科に限らず、圧倒的に男性が多いのです。このことはある意味で矛盾しています。つまり開業していない優秀な女性医師や女性歯科医師が大勢いるという事実です。この優秀な人材をチーム医療に加えない手はありません。少なくとも私はそう考えます。チーム医療に優秀な女性歯科医師を加えることが、使命だと思います。
 
もちろん、女性歯科医師に治療してもらうことに、違和感や不安感を抱く患者様もいらっしゃると存じます。そんな時は、どうか遠慮なく申しつけください。
直接言いにくい方は、受付で私をご指名ください。喜んで治療させていただきます。
2011年-11月
チーム医療について(2)
チーム医療の最大のメリットは、医療事故の予防です。医科に限らず歯科でも医療事故は頻度こそ少ないものの、十分起こりえます。
 
当院の診療室は、個室ではなくオープンスペースです。オープンスペースの利点は、アクシデントが起こっても、すぐに他のスタッフが駆け付け対応できることです。特に小さなお子様や高齢者の治療には、チーム医療がかかせません。この医療事故の予防こそが、チーム医療の最大のメリットと言えます。
 
なぜ医科と違って歯科ではチーム医療が推奨されないのか、その原因の一つに自費治療があります。根本的に医科と違って、歯科では保険治療と自費治療と二本立てで、治療および経営が成り立っています。自費治療を選択、推奨するには、必然的に金銭問題が発生します。そこで個室治療、担当医制となるわけです。たとえば自費治療は院長が担当、保険治療は勤務医が担当、自費治療患者様は特別扱いで専任の衛生士が担当と差別化をする傾向にあります。このことは決して悪いことではありませんが、歯科も医療の一つである以上、病気(歯科疾患)を抱えた患者様には公平かつ平等な対応が必要と私は考えています。
 
先ほど申しましたように、当院の診療室は個室ではなくオープンスペースです。もちろん診療台ごとにパティーション(仕切り)があり、他の患者様の治療が見えることはありません。しかし時には他の患者様とスタッフの会話が聞こえてくるかもしれません。ただし、それに答えるスタッフの対応は、どんな患者様にも同じです。自費の患者様に特別扱いしたり、自費治療を誘導したりすることは決してありません。基本的に保険で治療をするからです。つまりオープンですから嘘がないというメリットがあります。
 
これは治療するドクターだけに限らず、歯石除去やフッ素塗布、歯磨き指導をする衛生士にも当てはまります。当院には手前味噌ですが、有能で経験豊富な歯科衛生士が、3名常勤していますが、定期検診で歯石除去をする場合でも担当医制にはしていません。1人が診るよりも3人で診る方が、患者様にとって確実にメリットがあります。1人では気がつかなかったむし歯が、他の2人で見つかるかもしれません。これもチーム医療の重要なメリットの一つです。
2011年-10月
チーム医療について(1)
今回は、チーム医療について当院の診療方針をご説明します。
おかげさまで開院25周年を迎えることが出来ました。これもひとえに来院していただきました患者様のおかげと改めて感謝申し上げる次第です。もうひとつは、スタッフ紹介のページにも述べましたが、手前味噌ですが、優秀なスタッフに恵まれたおかげでここまで続けてこれたと確信しています。
 
さて今回述べるチーム医療ですが、ご存じのように医科では随分以前からこの言葉が実践されています。すなわち医師、看護師、薬剤師、理学療法士、介護士、セラピストなど、1人の患者様を医療チームで診察することにより、ベストな治療を行うという意味です。決して医師だけの判断や治療行為だけではなく、医療チームとして患者様の病気を治癒することが、その患者様に取って最良の治療へと結びつくという考えです。

ところが不思議なことに歯科だけが、個室治療や担当医制を強調されています。医科のチーム医療とは逆の発想で、閉鎖的な治療が推奨されています。
私は歯科も医科と同じだと考えます。1人の患者様をスタッフ全員がチームで診療する。すなわち閉鎖的な個室治療や担当医制ではなく、歯科医師、歯科衛生士、そして患者様の様々な相談に乗る受付など、1人の患者様を歯科医療チームとして、スタッフ全員が診療にあたることにより、お口の中全体を良くしていくことが重要だと考えます。
 
当院は現在、院長である私を含め、女性歯科医師4名、歯科衛生士3名、受付助手2名の10名で診療にあたっています。そのうち女性歯科医師以外は、全員常勤です。もちろん交替で休みを取りますので、毎日全員が揃うわけではありませんが、俗に言うパートやアルバイトスタッフはいません。それぞれ責任を持って仕事に就いています。このことは来院していただく患者様に取って、大事なメリットと存じます。
次回はチーム医療がもたらす具体的なメリットをご紹介します。
2011年-9月
入れ歯(義歯)(3)
今回は入れ歯のお手入れ方法について説明します。
入れ歯の洗浄について
入れ歯を洗うことはとても重要です。
お口の中に多数いる細菌が入れ歯にも付着して、口臭の原因になります。できれば毎食後、最低でも一日一回寝る前に、必ず入れ歯をよく洗って下さい。入れ歯専用の歯ブラシもありますが、普通の歯ブラシでも構いません。歯磨き粉は使用しないで、水洗いでOKです。熱いお湯につけるのはやめてください。熱湯で消毒すると入れ歯の変形の原因になります。入れ歯洗浄剤もぜひ使ってください。
入れ歯の保管について
入れ歯は原則的に、寝る前には外してお休みください。
例えますと、寝る前に靴を履いて寝ないのと同じです。靴を履いたままですと、足に大なり小なり負担がかかります。入れ歯もはめたまま寝ますと、歯ぐきや口腔粘膜、残っている歯にストレスがかかり続けます。寝ている間は、そのストレスを取ってあげてください。そして入れ歯専用のケースに水を入れて一晩付けておいてください。その際に入れ歯洗浄剤を使ってください。
 
ただし、部分入れ歯の方で、残っている歯がグラグラの方、また歯ぎしりや睡眠時無呼吸症候群と診断された方は、入れ歯をはめたまま寝たほうが良い場合があります。入れ歯を外した方が良いか、はめたまま寝た方が分からない方は遠慮なく相談して下さい。
入れ歯の定期検診
せっかく慣れてきた入れ歯も、年月が経つにつれて徐々に合わなくなります。歯ぐきがやせてきたり、部分入れ歯のバネがゆるんだりするためです。市販の入れ歯安定剤を使用しても結構ですが、出来るだけ遠慮なく調整に来て下さい。
 
長い人生、入れ歯は大切なパートナーです。異常がなくても、半年に一度は点検のためにお越しください。それが入れ歯を長持ちさせる秘訣です。調整してもどうしてもダメな場合は、もう一度作り直しましょう。
ベストを尽くす所存です。
2011年-8月
入れ歯(義歯)(2)
新しい入れ歯を使い始めた最初の一ヶ月は、入れ歯に慣れるための大切な期間です。特に初めて入れ歯を入れた方は、完全に慣れるまで、早い人でも最低一ヶ月はかかります。
それでは入れ歯の使い方を順番にご説明します。
最初は、固いものや大きなものを無理に食べずに、やわらかいものや小さなものを中心に食べてください。
例えますと、新しい靴を履いた時に、いきなり全力疾走したり、長時間歩いたりすると、どんなにピッタリした靴でも足が痛くなります。入れ歯も靴も生活になくてはならないものですが、必ず慣れてくるまで無理をしないことが肝心です。このことをぜひ守って下さい。
入れ歯は想像以上に強い力で咬むため、最初は歯ぐきに当たって傷つき痛いところが出てきます。その時は遠慮せずに来院して下さい。痛いのを我慢したり、痛いからと言って入れ歯を外しておくと、ますます入れ歯が合わなくなります。入れ歯は入れた後が、本当の治療になります。
皆さんよく誤解されているのは、明日は待ちに待った入れ歯が出来上がるから、明日からは何でも咬めるようになるので、うれしいと勘違いされます。どんなに上手に入れ歯の型を取っても、どんなに上手な技工所(入れ歯を実際に作るところ)に頼んでも、実際の口の動きを100%再現するのは不可能です。ですから入れ歯を入れてからの調整がとても大切です。このことを良くご理解ください。
ご自分で入れ歯の調整は絶対にしないでください。
よく部分入れ歯のバネ(クラスプ)をご自分で調整するかたがおられますが、入れ歯のバネは大変デリケートに作っています。曲げ過ぎると途端に入れ歯が入らなくなくなったり、逆にゆるくなったりします。この点も注意して下さい。
次回は入れ歯のお手入れについてお知らせします。
2011年-7月
入れ歯(義歯)(1)
今回のコラムは入れ歯(義歯)についてです。
入れ歯と聞くと、皆さんマイナスのイメージを持っておられます。入れ歯は嫌だ、年寄りくさい、取り外しが面倒くさい、などです。確かにその通りです。
 
最近は、インプラント(人工歯根)がテレビや新聞などマスコミで騒がれています。私どもの業界内でも、講習会の広告のほとんどがインプラントです。患者様からも毎日のようにインプラントの質問を受けます。
 
それでは果たしてインプラントが、毎日の歯科治療のどのぐらいを占めると思いますか?
チタン製のインプラントが最初に臨床及び保険に導入されたスウェーデンですら、歯科治療のうちインプラント処置の恩恵を受ける患者様の割合は、4%に過ぎません。もちろん残念ですが日本ではインプラントは保険が効きませんので、歯科治療に占める割合は、もっと低く4%以下です。
 
つまり大多数の患者様は、抜けた歯の部分を固定式のブリッジにするか、入れ歯なのです。だから入れ歯を恥ずかしがる必要は全くありません。堂々と入れ歯を入れてください。
入れ歯にも色々な種類があります。当院では基本的に保険治療を行いますので、まず保険の入れ歯について、メリットを挙げてみます。
保険が効く。
これは費用の面で最大のメリットです。
原則的に6ケ月たつと、作り直すことが出来る。
一度作って合わなくても、6か月辛抱すればもう一度トライできる。二回目こそ慣れるかもしれません。
修理が比較的簡単にできる。
歯ぐきがやせて、入れ歯が合わなくなったり、他の歯が抜けてしまっても、今使っている入れ歯を使って修理が出来ます。
全身状態の悪い方や、身体のご不自由な方、またどうしても抜歯できない理由のある方でも、入れ歯は作ることが出来ます。
どうですか皆さん、入れ歯も捨てたものではないでしょう。
次回は、入れ歯の使い方を説明します。
2011年-6月
歯の磨き方~心をこめて~(6)
お身体のご不自由な方の歯のお掃除の仕方について、少し説明します。
実は私の父が、6年前にくも膜下出血で倒れ、長い入院生活の後、半身不随になりました。歩くこともできず、もちろん歯を磨くこともままならない生活となりました。元気な頃、兄(歯科医)や私が作った部分入れ歯をはめて、何でも不自由なく食べていましたが、退院後はその入れ歯も全く合わなくなり、手が不自由なため入れ歯の取り外しも困難になりました。
 
もちろん退院後に何度か父に入れ歯を作りましたが、取り外しがどうしてもできず、窮余の策としてバネ(クラスプ)のない入れ歯も作りましたが、結局していません。歯も磨かなくなりました。リハビリ施設で、医療関係者から父に「入れ歯を作ってもらってね」と言われますが、まさか2人の息子が歯科医師であるとは思っても見ない、とんだ笑い話です。
 
結論から先に申し上げますと、無理なことを強要せず、できることだけをしてあげるのが、肝要です。入れ歯をどうしても入れなければ噛めない、むし歯を完全に治療してあげなければダメだ、歯を毎日しっかり磨いてあげなければいけない、などとは考えずにできることだけ、本人が望んでいることだけをしてあげることが、大切です。
 
父は時折、歯が痛いと言って、車いすを押してもらって、私の診療所にひょっこり現れます。そして治療途中のむし歯治療と併せて、衛生士に歯のクリーニングをしてもらって帰ります。クリーニングが終わった後の父の満足そうな、歯抜けの笑顔を見ていると、医療の本質を垣間見る気がします。
2011年-5月
歯の磨き方~心をこめて~(5)
「どんな歯ブラシを選べば良いですか?」とよく質問を受けます。まず歯ブラシの長さです。歯をよく観察すると、歯は平面型ではなく球面型です。そして食物を咀嚼しやすいように前歯や犬歯、奥歯とそれぞれが複雑な形をしています。さらに歯並びはまっすぐではなく湾曲しているために、驚くほど磨きにくい構造になっています。しかもむし歯や歯周病の原因となる歯垢(プラーク)がたまりやすいのは、歯と歯の隙間、歯と歯肉の境目、奥歯の深い溝のところなど、一番歯ブラシの届きにくい場所です。
 
そんな磨きにくいところを掃除する、つまり磨くわけですから、必然的に歯ブラシはコンパクトな小さめのものになります。ブラシの部分の長さは、奥歯2本分ぐらいの長さ、約2cmが理想です。ブラシ部分が長すぎると、届きにくい場所が出てきます。このことは、電動歯ブラシ(音波歯ブラシ)の替えブラシにも同じことが言えます。最近、丸い形をした毛先が回転する電動歯ブラシをよくみかけます。私も使用してみましたが、毛先自体が固く、丸い形をしているために、歯と歯肉の隙間や境目が磨きにくく良いとは言えません。
 
歯ブラシ、電動歯ブラシ(音波歯ブラシ)問わず、毛先はできるだけ、やわらかめがおすすめです。特に男性は硬い歯ブラシを好む傾向がありますが、これは誤りです。硬い歯ブラシでゴシゴシ磨くと、歯肉を傷つけるばかりではなく、エナメル質が摩耗して、知覚過敏や歯周病の原因となります。くりかえし申しますが、歯を磨くのではなくて、歯の掃除をするのです。そのためには、コンパクトでやわらかめの歯ブラシを使用してください。
 
同じ理由ですが、磨く力もほどほどにしてください。ほとんどの人が、必要以上に強い力で磨いています。できるだけ軽く磨く、そのためには、鉛筆もち(ペングリップ)で歯ブラシを持って磨いてください。そうすれば手首が支点となりますので必要以上に力が入りません。手のひらで握る磨き方(ワームグリップ)では、肘が支点となるため力が入り過ぎます。最近は電動歯ブラシでも、女性に人気のポケットタイプで、ペングリップで磨けるのが出ています。
 
次回は、お体のご不自由な方の歯のお掃除の方法について、述べて見たいと思います。
2011年-4月
歯の磨き方~心をこめて~(4)
第四章は、どんな方法で歯の掃除をするのかです。
まず歯ブラシです。まさしく「ほうき」です。そして電動歯ブラシです。これは「掃除機」です。最近は音波歯ブラシと言って、とても高性能なものが出ています。これを使用しない手はありません。以前「電動歯ブラシ使用の是非について」コラム(2008年11月)を書きましたので、詳しくはそのコラムを参照していただければ幸いです。高性能な音波歯ブラシは、歯垢が効率よく取れます。ただし使い方にコツがあります。当院では、経験豊富な歯科衛生士が3名常勤しており、効果的な音波歯ブラシの使用方法を伝授します。ぜひお尋ねください。
 
しかしながら歯ブラシだけでは、すみずみまで歯の掃除はできません。どうしても汚れが残ってしまします。そこで、登場するのが「フロス」「歯間ブラシ」「ワンタフト」です。この3つのアイテムは、歯をすみずみまで掃除するのに、欠かせないアイテムです。少なくとも一つだけはぜひ毎日使用してください。アメリカでは 「Floss or Die?」という有名な言葉があります。フロスを毎日しなければ、寿命が縮まりますよということです。また歯の先進国といわれるスウェーデンでは、ワンタフトを使って短時間で効率よく歯垢が取れる効果的な歯磨き方法が推奨されています。
 
私の臨床経験からは、日本人には「歯間ブラシ」が向いていると思います。特に男性の方は、「つまようじ」を使用する方が多いので、「つまようじ」感覚で「歯間ブラシ」を使ってください。この両者の違いは、歯垢が取れるかどうかという点です。「つまようじ」では食べカスは取れても、肝心の歯垢は取れません。歯垢を取るためには「歯間ブラシ」です。
 
ただし、歯間ブラシには、サイズがあります。歯と歯の隙間によって適切なサイズの大きさの歯間ブラシを使用しないと効果がありません。この点についても当院の歯科衛生士に、ぜひご相談ください。ジャストサイズの歯間ブラシを教えてくれます。
 
「フロス」は、歯と歯の隙間が小さい方、つまり歯周病ではない健康な歯肉の方や、子供さんから若い方にお勧めです。また食べカスがはさまりやすいところにも効果的です。
 
「フロス」と言えば、糸を指に巻いてする方法が一般的ですが、慣れないと難しく面倒なものです。当院では、コンパクトな大きさでU字形をした、最初からフロスの着いた器具を使う方法を推奨しています。この方法なら、フロス初心者でも簡単に使用が出来ます。また使用するフロスもテクミクロンという材質を使用していますので、簡単に切れにくく使い捨てではありませんので、約一週間ぐらいは使用できます。また奥歯にもスムーズにフロスが入りますので、とても使用後が快適です。ただし歯科医院専用ですので、一般のドラッグストアには置いていません。このフロスについても、ぜひ当院の歯科衛生士にお尋ねください。
 
「ワンタフト」とは、普通の歯ブラシと歯間ブラシの中間のサイズの小さな歯ブラシのことです。これも歯と歯の隙間や歯と歯肉の間を磨くのに適したアイテムです。歯間ブラシのように、細い金属のワイヤーが入っていませんので、歯や歯肉を傷つけることなく、磨けるのが特徴です。スウェーデン型プラークコントロールと言われて、最初に磨きにくいところを、ワンタフトブラシで磨いて、その後普通の歯ブラシで磨くという方法がお勧めです。また親知らずやブリッジが入っているところなどにも、とても有効です。このワンタフトブラシの使い方についても、ぜひ直接お尋ねください。
 
次回は、歯ブラシはどんなものを選べば良いのか、どれくらいの力で磨けば良いのかをお伝えします。
2011年-3月
歯の磨き方~心をこめて~(3)
第三章は、どこで歯の掃除をするのかです。時間は寝る前もしくは入浴中だと言いました。入浴中の場合はもちろんお風呂の中です。それでは寝る前の歯の掃除は、洗面所でするのかと言うとそうではありません。残念ながらどこのご家庭でも洗面所は、夏は暑いし冬は寒いのが実情です。しかも立ったまま磨くことになります。これが一番良くありません。
 
歯の掃除をていねいにしようと思えば、やはり座って磨くのが一番です。しかも快適なリビングか寝室が良いでしょう。もちろん歯磨き粉は付けません。歯磨き粉をたくさん付けると、すぐにうがいがしたくなりますので、洗面所で磨かなければなりません。それではていねいな歯の掃除はできません。すわってリラックスしてゆっくり時間をかけて歯の掃除をする。場合によっては、本を読みながらでも、テレビを見ながらでも、ネットやメールしながらでもOKです。
 
私の場合は、就寝前フットマッサージ機をしながら、音波歯ブラシで歯の掃除をしています。フットマッサージ機のタイマーを20分にセットしていますので、最低でも20分はします。不思議なことに、どんなに多忙な方でも(主婦や子供さんも含めて)、朝より夜のほうが、時間が緩やかに流れているのではないでしょうか。朝の忙しい時間に毎日20分も必ず磨いてくださいという方が、無理なお願いです。朝は時間の許す限りで結構です。ササッと磨くだけでもOK。
ただし寝る前は必ず時間をかけて歯の掃除をしてください。できれば20分を目標に磨いてください。
 
そして歯の掃除が終わったら、洗面所に戻って口をゆすいでください。これでおやすみです。
次回は、歯の掃除をする道具についてお話します。どんな道具を使えば、最も効率良く歯の掃除ができるかをお知らせします。
2011年-2月
歯の磨き方~心をこめて~(2)
第二章は、それでは一体、いつ歯の掃除をすれば一番効果的なのかをお知らせします。第一章で、入浴時間の長い女性の方は、お風呂に入って湯船につかりながら歯を磨くのが効果的だと伝えました。ただし忙しいお母さんには不向きです。男性や子供にも向いているとは言えません。
 
ここで歯の掃除をする際に、重要な要素をひとつお知らせします。それは唾液です。唾液にはさまざまな作用があり、その中で重要な作用に抗菌作用(悪い細菌を退治する)があります。ご存じのように、むし歯も歯周病も細菌による感染症です。その細菌の住みかが、むし歯や歯周病の原因となる歯垢(プラーク)です。どんなに素晴らしい歯磨き粉も唾液に優るものはありません。その一番の味方である唾液の分泌量が、最も少なくなるのが、寝ている間です。
 
つまり、むし歯や歯周病の原因である細菌が最も活動しやすくなるのが、就寝中です。わかりやすく言えば、寝ている間にむし歯や歯周病が進行するのです。ここでもうお分かりかと存じますが、寝る前に悪い細菌をシャットアウトするのが、最も効果的です。
 
寝る前に歯の掃除をしてください。しかもできるだけていねいに掃除をしてください。そうすれば、むし歯も歯周病も進行せず、予防できます。特に、ご家族で生活されている方は、ぜひ皆さんで「寝る前の歯磨き」を習慣にしてください。
 
あえて理想を言わせてもらうなら、歯科医院に通うのは、数か月ごとの定期健診だけ、その時に、親切で優しい歯科衛生士に、むし歯のチェックと歯石や歯垢を取ってもらって、歯磨き指導を受けるだけ、そんな患者様にぜひあなたもなってください。
 
次回は、歯の掃除をするのは、一体どこですれば良いのか。洗面所ですか?いいえ違います。また、どれくらいの時間歯の掃除をするのが良いのかをお知らせします。
2011年-1月
歯の磨き方~心をこめて~(1)
今回のコラムは、歯の磨き方について、シンプルに心をこめて、僭越ですが歯科医師としての約30年のキャリアを凝縮したお話を述べさせていただきます。
 
まず第1章として、誰が為に歯を磨くのか、何故に歯を磨くのかをお話します。一言、習慣と言えば、それまでですが、実はそうではありません。みなさんなぜ毎日お風呂に入るのでしょうか?
一日の疲れを取るため、体のきれいにするため、さっぱりするためなど多々あるでしょうが、一番の理由は体の汚れを取るためではないでしょうか。歯を磨くのも同じ理由だと言えます。毎日食事をしたり、飲み物を飲んだり、人としゃべることにより、必然的に口の中は汚れてきます。お部屋の掃除をしたり、お風呂に入ったりするのと同じように、歯も磨く必要があるのです。
 
ここで重要なことは、歯を磨くのではなく、歯の掃除をするという感覚です。お風呂に入ってゴシゴシ体を磨くより、ゆっくり時間をかけて隅から隅まで、ていねいに体を洗うほうがきれいになります。お掃除でも同じでしょう。ゴミやホコリがたまりやすい場所を、時間をかけてていねいに掃除すればするほど、きれいになります。ゴミやホコリがたまりやすいのは、隙間や隅っこのはずです。口の中も同様に、歯と歯の間や、歯と歯肉の間の隙間に汚れが最もたまりやすく、そこを重点的に時間をかけて掃除してください。そうするとお口の中がきれいになります。磨きやすい前歯の表面や奥歯の噛み合わせの面ばかり磨いていると、どんどん汚れがたまっていきます。お風呂に入らず体が臭い人、掃除をしなくて部屋が散らかり放題の人、歯もろくに磨かず口の臭い人、誰でもそんな人にはなりたくありません。誰がために歯を磨くのか、自分自身と愛する人のために磨くのです。
 
むし歯や歯周病の予防に歯をしっかり磨けといくらわめいても、なかなかできるものではありません。それがみんなできれば、私たちは失業です。少し観点を変えて、お風呂に入ったり、掃除をするのと同じ感覚で、歯の掃除をする。これがポイントです。そういう意味で、お風呂に入って歯を磨くのは、良い方法です。特に女性は入浴の時間が長いので、湯船につかりながら、歯もていねいに掃除してください。男性は概して入浴の時間が短めですので別の方法をお勧めします。
 
毎日時間をかけて、ていねいに歯の掃除をしない人、そんな人がむし歯や歯周病になるのです。
2010年-12月
知覚過敏について(2)
知覚過敏の対処方法と治療方法ですが、まずその原因を診断することが重要です。最も多い“くさび状欠損”による知覚過敏ですが、よく観察すると歯垢がたまって、すでにむし歯になっている場合があります。その時は神経を保護する薬を塗って、レジンをいう歯と同じ色の合成樹脂を詰めます。またむし歯になっていなくても、“くさび状欠損”が大きくなって、かなりしみる場合でも同様な処置を行うことにより、象牙細管を封鎖し刺激を遮断します。これでほとんどの方は、いままでしみていたのが嘘のように、ピタッと良くなります。歯と同じ色ですので、見た目もわからず、違和感もありません。
 
また軽度な場合は、セルフケアで知覚過敏を予防できます。当院では、知覚過敏用の歯磨き粉のサンプルを無料でご用意しています。
 
歯周病が原因で起こる知覚過敏の場合は、歯周病の治療を優先します。治療の過程で一時的に知覚過敏が増すことがありますが、少しずつに良くなります。
 
注意していただきたいのは、知覚過敏を自己判断で放置しないことです。一見知覚過敏に見えても、実は神経まで侵されているむし歯であったり、重症の歯周病であったりすることがよくあります。かかりつけの歯科医に相談することが肝要です。
 
そして知覚過敏で一番重要なことは、適切な歯磨き方法を学ぶことです。手前味噌ですが、当院には経験豊富な歯科衛生士が3名常勤しています。知覚過敏にならない適切なブラッシング方法を伝授いたします。ぜひご相談ください。
余談ですが、最近の新聞報道で、歯に直接はって知覚過敏の治療に役立てる「ばんそうこう」を開発したと載っていました。知覚過敏で悩む方のためにも、一日も早く実用化して、厚労省の認可を得て保険適用を望む所存です。
2010年-11月
知覚過敏について(1)
“歯がしみる”症状で、歯科医院に行き「知覚過敏」と言われたことがある方も多いと存じます。そもそも知覚過敏とは、むし歯でもないのに、冷たい物を口にした時、歯がしみたり、歯ブラシが歯に触れた時に、歯がしみたり、冷たい風が歯に当たった時に、瞬間的に歯がしみるなどの症状で、日本人の4人に1人が経験したことがあると言われる症状です。
 
原因は、もともと歯の一番外側をカバーしているエナメル質がなくなり、その内側にある象牙質と呼ばれる組織が露出すると、露出した象牙質にある“象牙細管”というパイプを通じて、歯髄(歯の神経)に直接刺激が行くため、瞬間的な痛みが生じるのです。これが知覚過敏の原因です。
 
なぜ、象牙質が露出して知覚過敏が起こるのか、これには様々な理由があります。最も多いのが“くさび状欠損”です。歯磨き粉の付け過ぎや間違った歯磨き方法を、長期間していると、エナメル質が削れてしまい象牙質が露出してしまいます。また、歯ぎしりや喰いしばりなどで強い力が歯に長時間加わると、歯に亀裂が生じて、エナメル質が欠けて同じく象牙質が露出します。瞬間的に噛む力の強いスポーツ選手にも時折見られます。かみ合わせが悪く、偏った歯に力が加わった時にも生じます。
 
次に多いのが、歯周病による歯肉の退縮です。歯周病で歯ぐきが下がってきますと、歯の根の部分が見えてきます。歯根と言われる歯の根の部分には、エナメル質がありません。それでしみてくるのです。
 
その他では、酸蝕症といわれるもので、酸性の強いものをよく口にされる方、たとえば炭酸飲料水や、お酢などを毎日沢山飲まれると、歯の表面のエナメル質がとけてしまい象牙質が露出して、しみるようになります。
 
そんな症状にお悩みの方に、知覚過敏がピタッと治まる治療方法があります。次回は、知覚過敏の対処方法および治療方法を具体的にお知らせします。
2010年-10月
こどものむし歯を予防しよう(vol.4)
まとめますと、こどものむし歯を予防するためには、
1. 寝る前の仕上げ磨きを欠かさない。
(できれば小学校卒業まで仕上げ磨きをしてください)
2. かかりつけの歯科医院に定期的に通う。
(定期的に歯みがき指導やフッ素塗布・シーラントをしてもらってください)
3. 毎日の食生活に気をつけてあげること。
(甘い物の制限はほどほどに。良く噛む習慣をつけてあげてください)
昨今、フッ素入りの歯磨き粉、キシリトールなどむし歯予防関連商品が話題ですが、確かに効果はあります。しかし過信は禁物です。基本は歯みがきによる歯垢(プラーク)除去です。また甘い物の制限以上に大切なことは、よく噛む習慣をつけてあげることです。ジャンクフードもほどほどにしてください。
 
お母さん、「早く食べなさい!」と言っていませんか? この言葉はNGです。
「ゆっくり、よく噛んで食べなさい!」 この言葉を繰り返し言ってあげてください。良く噛んで食べて、その結果、塾に遅れたり、野球やサッカーの練習時間に間に合わなくても、泰然自若としてください。それでこそ、こどもは男女問わず大物に育ちます。
 
成長期におけるこどものむし歯予防は、学習能力、身体能力両面で、とても重要です。基本的な身体作りに不可欠であると同時に、人生の出発点における重要課題であるといっても過言ではありません。
 
お父さん、お母さん、そしてお祖父ちゃん、お祖母ちゃんもこのことを良く認識してください。たとえ一人きりでこどもを育てなくてはならなくても、心配無用です。私たち専門家がついています。遠慮なくお越しください。
2010年-9月
こどものむし歯を予防しよう(vol.3)
「仕上げ磨きは、何歳まで必要ですか?」とよく質問を受けます。
最近の小学生は、とても忙しいのが実情です。勉強のための塾通い、スポーツのためのクラブ通いなど、学校から帰ると遊んでばかりだった私の頃と比べると、まるで両親を個人タクシーの運転手がわりにして、忙しい毎日です。
 
しかし院長紹介のページにも記載しましたが、塾の勉強と同じくらいに、毎日の歯磨きは重要です。男の子女の子に関係なく、できれば小学校卒業まで、寝る前の仕上げ磨きをしてあげてください。
 
そして、どんなに忙しくても、定期的にかかりつけの歯科医院に通ってください。前回も申しましたように、専門家に定期的に見せる、これがむし歯予防の極意です。
 
その際に、不幸にもむし歯が出来ているので治療しましょう、と言われてもがっかりしないでください。
 
「むし歯ができるのは、お母さんに責任があるんですよ」
「こどもがむし歯になるのは、お母さんがしっかり仕上げ磨きをしないせいですよ」  
私はもちろん、当院のスタッフは全員、こういう言葉は決して言いません。
なぜなら、こどもを産んで育児をするということは、想像以上に過酷な毎日であることを、スタッフ全員が認識しているからです。お一人でも大変ですが、2人目3人目のお子さんとなると、想像を絶する毎日です。
 
「歯磨きだけ頑張るわけにはいかないですよね」とお母さんには優しく投げかけています。手前味噌ですが、当院では経験豊富な歯科衛生士が3名常勤し、それぞれの子どもさんに合った歯磨き指導とむし歯予防法を伝授します。また女性歯科医師も勤務していますので、優しく治療できます。フッ素塗布、シーラントも積極的に行っています。
 
必要以上に甘いものを制限したり、他の子どもさんと極端に違う生活習慣は取らずに、もっと自由に育ててあげてください。むし歯の一本や二本出来たからと言って、悲観せずにプラス思考で子育てする、これもむし歯予防の秘訣です。
 
言うまでもなく、こどもさんの将来は、大人になってからが重要です。歯磨きも、むし歯も、食生活も、大人になった時に、つまり永久歯にすべて生え換わってからが、肝心です。そのためのこどものむし歯予防と考えてください。
2010年-8月
こどものむし歯を予防しよう(vol.2)
こどもの歯は、生後6カ月に下の前歯が生え始め、おおむね3歳頃までに計20本生え揃います。
まず乳歯のむし歯は、永久歯の歯並びに影響するということを認識してください。次に乳歯のむし歯の特徴は、エナメル質が永久歯に比べて薄く、むし歯の進行が早い、歯と歯の間から大きく広がり、すぐに痛みを感じにくい、などが挙げられます。
 
また乳歯のむし歯の原因として、寝る前の飲食物の摂取が大きな要因の一つです。わかりやすく言えば、寝ている間にむし歯になるのです。
つまり乳歯のむし歯を防ぐには、寝る前の仕上げ磨きが最も重要な予防法と言えます。
 
確かに、食べたらすぐ磨く、おやつは決まった時間に与える、同じスプーンを使用しないことなども、むし歯予防の有効な方法に違いありませんが、それではかわいいお孫さんを預かったお祖母ちゃんやお祖父ちゃんが、たまったものではありません。私は自身の経験から、子育てはもっと自由にやればいいと考えています。
 
ただし寝る前の歯磨きだけは、絶対に欠かさない。これだけは守ってください。しかも歯磨き粉はつけないでください。小さい頃の習慣というのはとても重要です。小さいころから寝る前に歯を磨く習慣をつけてあげれば、それこそ孫子の代まで続きます。かわいいお孫さんをお膝の上に乗せて、むかしばなしを聞かせながら歯を磨いてあげてください。きっとお孫さんが大人になったときに、良い思い出になることでしょう。
 
そしてお母さんとお父さんは、寝る前の仕上げ磨きはもちろん、仕上げ磨きをするときに、こどものお口の中をよく観察してください。このことはお祖母ちゃんやお祖父ちゃんにはできない、こどものむし歯予防に大変重要なことです。
 
ですから仕上げ磨きは、必ず明るい部屋でしてください。お口の中がよく見えるように、できるだけ歯の状態、歯肉の状態を観察しながら磨いてあげてください。歯磨き粉をつけるとそれができません。そして少しでも変だなと思ったら、迷わず歯科医院へ連れて行ってあげてください。つまり専門家にみせるということです。これこそこどものむし歯予防の極意です。
いわゆる早期発見、早期治療です。
2010年-7月
こどものむし歯を予防しよう(vol.1)
今月から、こどものむし歯を予防しようというテーマで、シリーズでお伝えします。お母さんとお父さんだけではなく、かわいいお孫さんがいるお祖母ちゃんとお祖父ちゃんもぜひ読んでください。
 
まずこどものむし歯を予防するには、妊娠中から予防がスタートします。生まれたばかりの赤ちゃんのお口の中には、むし歯の原因菌であるミュータンス菌が存在しません。ほとんどの場合、お母さんから感染します。つまりお母さんのお口の中が大事なのです。
 
ご存じのように、妊娠中は女性ホルモン(エストロゲン)の影響で、お口の中の細菌が繁殖しやすくなります。さらに、つわりがひどいと口腔内の清掃状態が悪くなります。出産したら歯がガタガタになったとよく耳にしますが、実は妊娠中から悪くなっているのです。ですから妊娠中は、いつも以上に歯ブラシを念入りにしてください。
 
お母さんに質問します。赤ちゃんの歯はいつごろからでき始めるかご存知ですか?
実は妊娠中にでき始めるのです。乳歯は妊娠7週からでき始めます。永久歯も妊娠4ケ月からでき始めるのです。その時期にお母さんの体に強いストレスが加わると、乳歯はもちろん永久歯にも悪影響がでます。歯の変色やエナメル質の形成不全もそのひとつです。むし歯になりやすい歯ができてしまうのです。
飲酒、タバコはむろん、できるだけストレスのかからない規則正しい生活を心がけてください。そのためにはお父さんの協力がかかせません。
 
当院では、経験豊富な3名の歯科衛生士が常勤し、口腔衛生指導を行っています。また女性歯科医師も勤務しています。妊娠中でも、4カ月から7カ月までの安定期なら、歯石除去や通常のむし歯治療ができます。ぜひ生まれてくる赤ちゃんのために来院してください。お待ちしています。
次回は、出産後のむし歯予防のお話です。
2010年-6月
歯磨き粉について(3)
前回は歯磨き粉の極端な使用例をお知らせしましたが、結論は最初に申しました通り、どんな歯磨き粉も歯磨きの際の補助的なのもだという考えで使用していただきたいということです。
 
 具体的に説明します。まず歯磨き粉を付け過ぎるとすぐに口の中が泡だらけになるか、液状の歯磨き粉ですと唾液が多量に出てしまい、すぐに口をゆすぎたくなります。これが歯磨き粉使用の最大のデメリットです。
 
 虫歯や歯周病の原因である歯垢(プラーク)を歯ブラシで取り除くには、相応の時間が必要です。すぐに口をゆすいだのでは、歯垢は完全には取り除けません。磨いたのと磨けたのでは、大きな差があるのです。
 
 当院では、経験豊富な歯科衛生士が3名常勤し、患者様に最適な歯磨き指導と歯磨き粉の使用方法をご指導しています。まずは、定期健診を受けてご自分に合った歯磨き方法をマスターしてください。
2010年-5月
歯磨き粉について(2)
それでは具体的な歯磨き粉の使用方法をお知らせします。まず極端な事例からお話しします。僭越ですが私の場合です。
 
 私は残念ながら歯磨き粉は使用しません。朝は手磨き、昼はデンタルフロス、夜は音波歯ブラシを使用しています。一度も歯磨き粉は使用しません。ただし、どうしても歯にステインという外来性の色素が沈着し、歯の表面に着色します。いわゆる茶渋というものです。
 
私はタバコも一切吸いませんし、コーヒーも飲みません。アルコールも滅多に口にしません。ですから普通の方に比べればステインは付きにくいほうなのですが、それでも少量ながらステインが歯に付いてしまいます。職業柄、歯の着色は、たとえむし歯でなくても致命傷になりかねませんので、そのステインを取るために、週に一回だけ歯磨き粉を使用します。ご存じのように歯磨き粉には、多かれ少なかれ研磨剤が含まれています。
 
その研磨剤の成分によって、簡単にステインは取れます。以前は月に一度だけ歯磨き粉を使用していましたが、最近は健康のためお茶をよく飲むようになり、週に一回使用しています。これで必要十分です。
2010年-4月
歯磨き粉について(1)
歯磨き粉について、患者様から良くご質問を受けます。毎日使用するものですから、いったいどんな歯磨き粉が良いのかお悩みになるのも当然です。大手のドラッグストアでは、たくさんの歯磨き粉が所狭しと並んでいます。
最近は、液状の歯磨き粉、フッ素入りの歯磨き粉、知覚過敏に効く歯磨き粉、歯周病予防の歯磨き粉、歯を白くする歯磨き粉、など様々な種類の歯磨き粉が市販されています。
 
結論から述べますと、歯磨き粉はあくまでも歯磨きの際の補助的なものですので、歯磨き粉に頼らない歯磨き方法の習得が大事だということです。
なぜなら、どんな素晴らしい歯磨き粉で磨いても、きちんと歯ブラシが当たっていなければ、汚れ(歯垢)は落とせないからです。またフッ素入りや歯周病などの薬用成分配合の歯磨き粉も、毎日使用し少量ながらも飲み込むことを前提としているため、成分の濃度が低く過信は禁物です。
 
それでは一体どうやって使用すれば、有効に歯磨き粉を使用できるのか、次回具体的にお知らせします。
2010年-3月
睡眠時無呼吸症候群の治療(4)
スリープスプリントを実際に装着して感じることは、顎が固定されることによる違和感です。鼻が完全に詰まっていると特に呼吸がしにくいと思われます。また起床時は顎がだるく、顎の周辺の筋肉痛を感じます。しかしこれは徐々に慣れてきます。また歯に矯正的な外力が働いて、歯根膜炎を起こすこともあります。
 
問題の費用ですが、「睡眠時無呼吸症候群である」という診断書があれば、保険が適用できますので、3割負担で約15000円ぐらいです。診断書がない場合は、自費治療になりますので、約40000円から約60000円かかります。
 
最後に、睡眠時無呼吸症候群の原因は、口呼吸、鼻中隔湾曲症、扁桃腺肥大、開口、肥満、加齢等多種多様ですので、治療すれば100%効果が出るとは限りません。特に歯科で行うスリープスプリント療法は、軽度から中等度の睡眠時無呼吸症候群の患者様により効果的と言われています。しかしながら、「大きないびき」に悩まされている方には、ぜひともトライしてみる治療方法だと思います。ご遠慮なくご相談ください。
2010年-2月
睡眠時無呼吸症候群の治療(3)
今回、母校の臨床研修会に参加して痛切に感じたことは、歯科で出来る睡眠時無呼吸症候群の効果的な治療方法であるスリープスプリントの作製方法は、それ相応の解剖学的知識と作製技術が必要であるということです。文字通り「百聞は一見にしかず」です。
 
実際に自分自身のスリープスプリントを作製し、いかに効果的に下顎を前方位にして気道を確保するか、また医科と連携してスムーズに診療を行うための知識とテクニック等を学びました。改めて母校の同窓会に感謝申し上げる次第です。
 
さて、具体的に患者様の治療内容を申し上げますと、初回はまず睡眠時無呼吸症候群であるかどうかの診断が必要になりますので、耳鼻科または内科に紹介状をお書きします。二回目に、上顎と下顎の歯型を取ります。三回目に、上下額のマウスピースをお口の中に入れて、下顎を少し前に出した状態で上下のマウスピースを固定します。これでスリープスプリントが完成です。もちろん装着は就寝中だけですが、最低でも2,3回調整が必要です。次回は装着の注意点と費用をお知らせします。
2010年-1月
睡眠時無呼吸症候群の治療(2)
まず治療方法を具体的に説明する前に、ご自身が睡眠時無呼吸症候群であることを認識してもらわなければなりません。ご家族の方から、就寝中「大きないびき」をかく等、具体的な症状が聞かされると要注意です。この病気は前回も申しました通り一般的な病気ですので、恥ずかしがる必要は全くありません。最も有名な患者様は、鳩山由紀夫首相です。
 
残念ながら歯科では治療はできますが、正確な診断は耳鼻咽喉科または内科でしていただきます。治療方法は主に2通りです。一つは耳鼻科または内科で行うCPAP療法といわれるもので、就寝中に鼻にマスクのようなものを装着し、空気を継続的に送り込み呼吸をしやすくする方法です。治療効果が高い反面、装置が大きく装着が煩わしい、携帯性が悪いといった欠点もあります。
 
それでは歯科でできる効果的な方法とは、特殊なマウスピース(スリープスプリント)を就寝中装着することで、下顎を前方に移動させ呼吸路を確保するという方法です。携帯性が良く、耳鼻科または内科の「睡眠時無呼吸症候群」であるという診断書があれば、保険が適用できます。
具体的な作成方法と装着の注意点は、次回お知らせします。
2009年-12月
睡眠時無呼吸症候群の治療(1)
日本で睡眠時無呼吸症候群の患者は、120万人以上と言われています。さらに習慣性いびき患者は、1600万人以上と言われています。平成21年10月22日の朝日新聞の記事によりますと、男性サラリーマンの5人に1人が治療が必要な睡眠時無呼吸症候群だったことが、京都大学の陳和夫教授の調査でわかりました。
 
ご存じのように睡眠時無呼吸症候群とは、眠っている間に、のどの奥が詰まり呼吸が断続的に止まり、繰り返し「大きないびき」をかく病気で、昼間に眠気に襲われ交通事故を起こしたり、高血圧や糖尿病など様々な生活習慣病を引き起こします。特に欧米人に比べて日本人は、顎顔面形態の人種的特徴のため、肥満でなくても睡眠時無呼吸が発生しやすいことが知られています。
 
今回、当院に来院されている患者様のかねてからの要望もあり、母校の大阪大学歯学部同窓会臨床研修会「睡眠時無呼吸症候群治療のノウハウ」に参加してきましたので、歯科で出来る最も効果的な治療方法を、次回ご報告いたします。
2009年-11月
口の中の「がん」について(その3)
 前回の続きです。それでは、実際にどんな症状が現れたら要注意なのか簡単にご説明します。まず全体に言えることは、初期のがんは、痛みを伴わないことが多いということです。わかりやすく言えば、痛みがないのに変な感じ(違和感がある)がつづくと注意が必要です。
 
 まず(1)口の中に、「しこり」や「はれ」がある。舌や頬っぺたにできた「しこり」や「はれ」は要注意です。次に(2)口の中の粘膜が赤くなったり、白くなっている部分がある。粘膜が赤くなる病変の中に「紅板症」、同じく白くなっている病変の中に「白板症」があり、ともに前がん病変(がんになりやすい状態)です。(3)口内炎が2週間たっても治らない。口内炎に良く似た歯肉がんが疑われます。(4)入れ歯が痛みや腫れで合わなくなったり、違和感がある。(5)口の中から原因不明の出血がある。
 
 口の中はご自分で鏡で見ることができます。定期的に鏡でチェックする習慣をつけて、おかしいと思ったら遠慮なくお越し下さい。まず一度拝見させてください。そして異常がなければそれで終わりです。万が一、がんの可能性が少しでも疑われましたら、経験豊富な口腔外科の専門医を即刻ご紹介します。悩まずぜひ受診して下さい。
2009年-10月
口の中の「がん」について(その2)
 口腔がんの最大のリスクは、タバコとお酒です。ヘビースモーカーとアルコール大量摂取者では、全然タバコを吸わず、全くお酒を飲まない人に比べて、口腔がんになる確率は、約50倍と言われています。
 
 次にリスクがあるのは、むし歯、合わない入れ歯、歯周病です。むし歯で欠けた歯を放置していたり、入れ歯やさし歯が合わずに、舌や歯肉を傷つけたりしていると、口腔がんが発生しやすくなります。また口腔がんが発生した人の多くは、歯石や磨き残しが多く歯周病になっています。
 
 つまり予防方法としては、(1)タバコ、お酒を控える、(2)むし歯や歯周病の早期治療、入れ歯の適切な調整、(3)かかりつけ歯科医を持ち定期的に診察を受けること、です。
 
 昨今、私どもの業界ではインプラント、歯列矯正、ホワイトニング、審美歯科などが大流行していますが、「口腔がん」の早期発見と予防こそ、歯科医師の責務ではないでしょうか。少なくとも歯科「医師」と名乗る以上は、それが最も原点だと私は考えています。次回は実際にどんな症状が現れたら要注意なのかをご説明します。
2009年-9月
口の中の「がん」について(その1)
 現在、日本では2人に1人が「がん」にかかり、3人に1人が「がん」で亡くなると言われています。口の中も例外ではありません。世界レベルでみると、口腔がん(口の中にできた「がん」)は、がん全体の約5%を占め、治療法の近年の進歩にもかかわらず、5年生存率は50%にとどまっています。
 
 少しわかりやすく言いますと、舌がんや歯肉がんなどの口腔がんは、しゃべる、飲み込む、咀嚼する(かむ)など、食事や発音になくてはならない場所にできるがんです。それだけに手術による機能の損傷が大きく、外見的にも傷が目立ちますので、患者様に大変辛いがんといえます。
 
 私事ですが、毎月「がんサポート」を購読しています。近親者が「がん」と闘病中で、少しでも役に立てればと毎月必ず読んでいます。
 
8月号には、口腔がんの治療方法について書かれています。その中で、口腔がんは「目に見える部位なのに、進行がんが少なくない」。その理由は、口の中にがんができることを知らなかったり、舌がんは口内炎、歯肉がんは歯周炎(歯槽膿漏)と間違えて放置する人も多いからだという記述がありました。私も同感です。次回は口腔がんの予防や早期発見についてお知らせします。
2009年-8月
むし歯になりにくい丈夫な歯を目指す(2)
前回も申し上げました通り、唾液にはエナメル質の成分となるリンやカルシウムが多量に含まれており、歯の表面のエナメル質が溶けだす作用(脱灰)を防ぐ働きがあります。それでは唾液以外に歯を強くするものはあるのかと言われると、それがフッ素です。
 
フッ素は、むし歯菌(ミュータンス菌)が作り出す酸の量を弱め、再石灰化を促進します。つまり歯のまわりに微量のフッ素が存在すると、歯の質を強くして、むし歯になりにくい丈夫な歯ができるというわけです。
 
歯科医院で受けるフッ素塗布法は、歯の表面に直接高濃度のフッ化物を塗布することにより、より効果的に歯の質を強化します。軽度のむし歯なら、元気な歯に戻ります。約3ヵ月間隔で定期的に塗布するのが良いでしょう。
 
特にお子様の場合、生えてきたばかりの歯は、歯質が弱く抵抗力がないため、むし歯になりやすいので、フッ素を塗ったり、シーラント(前々回のコラム参照)などで、むし歯にならないようフォローしてあげてください。歯磨きや食事も大切ですが、このような努力は、将来健康な歯を保つことにつながります。
 
しかし、フッ素を塗ったからといって、むし歯を完全に予防できるものではありません。また、フッ素の使用は、年齢やお口の状態によって、個人差があります。さらに最近では、フッ素入りの歯磨き剤が市販されていますが、歯科医院で塗布するフッ素と比べると、濃度は低いので効果を過信しすぎるのは良くありません。
 
「むし歯になりにくい丈夫な歯を目指す」ためには、ぜひ「定期健診」と「フッ素塗布」を受けて下さい。
2009年-7月
むし歯になりにくい丈夫な歯を目指す(1)
 私たちが一般的に「むし歯」と呼ぶのは、歯に穴があいて黒っぽく着色している状態を指します。しかし、実際には、口の中では目に見えないレベルで歯が溶けてむし歯ができ、それを修復するという作業が毎日繰り返し行われています。これが歯の「脱灰(だっかい)」と「再石灰化」です。 
 
 食事をしたり甘いものを飲んだりすると、むし歯の原因菌が糖を取り込み、分解して酸を生成します。この酸が歯の表面のエナメル質を溶かして(これを脱灰と言います)、むし歯になるのです。
 
 そしてこの「脱灰」を食い止めて、元通りに修復する(これを再石灰化と言います)役割を果たすのが、唾液です。
 
 しかし歯が酸にさらされている時間が長いと、歯の再石灰化が脱灰に追いつかなくなり、むし歯が進行してしまうのです。つまり間食の回数が多い人、甘いものが好きな人、さらにビールやワインなどのアルコール類も酸性ですので、お酒の好きな方も、むし歯のリスクが高まります。
 
 それでは食生活の改善以外に、むし歯になりにくい丈夫な歯を目指すには、なにが重要かと言えば、先ほど申し上げました「唾液」がキーポイントになります。唾液をより多く出すためには、よく噛むことです。「よく噛むこと」の効用は、むし歯の予防につながるだけではなく、脳の活性化、肥満の防止、糖尿病の予防など健康の増進につながります。また唾液には、むし歯の予防のほか、消化・吸収の助長、口腔粘膜の修復、抗菌作用、食物中の発がん物質の発がん性を予防するなどさまざまな効用があります。
 
 特に小さいお子さんのいるご家庭では、決して食事中に「早く食べなさい」とは言わないようにしてください。早く食べれば食べるほど、噛む回数も少なくなり、唾液の分泌量も少なくなり、むし歯になりにくい丈夫な歯をつくることができなくなります。「ゆっくりよく噛んで食べなさい」と言ってあげてください。
次回は歯を強くする「フッ素」についてご説明します。
2009年-6月
シーラントのおすすめ
今年も学校検診の時期が来ました。もうすでに検診の紙をいただいている学童の方もいらっしゃることと存じます。むし歯に限らずお口の中の病気は、基本的に早期発見早期治療が大切ですので、たとえ自覚症状がなくても検診の紙をもらってきたら、かかりつけ医に受診することが肝要です。
 
 さて「シーラント」という言葉を聞いたことがありますか?正式名は「フィッシャーシーラント」といいます。生えてから2~3年の永久歯を対象に行う予防処置のことです。特に6歳頃に生えてくる奥歯(第一大臼歯、通称6歳臼歯)の溝を合成樹脂(レジン)で埋めて、細菌や食べかすをつききにくくするむし歯予防法です。もちろんシーラントを施しても100%のむし歯予防が期待できるものではありませんが、むし歯になりやすい6歳臼歯にはとても効果的です。また歯を削らなくてできるということが一番のメリットです。
 
 手前味噌ですが、大阪大学歯学部付属病院小児歯科の大嶋隆教授は、ある雑誌のインタビューでこう述べています。「第一大臼歯は、乳歯の奥に生えるので、本人も親も気づきにくく、歯磨きもしにくい歯。歯垢がたまりやすいので、生え始めの第一大臼歯にフッ素塗布とフィッシャーシーラントをすることは、むし歯予防の基本といわれています」
 
 当院では経験豊富な歯科衛生士3名と女性歯科医師が常勤し、大切な6歳臼歯に積極的にシーラントを行っています。ぜひお子さんの将来のむし歯予防ためにシーラントをしてあげてください。もちろんシーラントは健康保険が適用できます。
2009年-5月
口臭について(その3)
前回のつづきです。口の中の病気が原因で起こる口臭の二つ目は、歯周病です。これが最も多いタイプの口臭です。口腔清掃が不十分で細菌の塊である歯垢(プラーク)が歯周ポケットや歯に付着し、これが口臭の元となるインドールなどの臭い物質を産生します。つまり歯周病の治療と予防をすることが、口臭を防ぐ最良の方法です。毎日のブラッシングはもちろん、歯科医院で定期的に歯石や歯垢を除去し、歯磨き指導を受けることにより、口臭も防げるというわけです。
 
 口腔口臭の三つ目の原因としては、舌苔(ぜったい)があげられます。舌苔は、舌にたまった汚れです。歯垢が歯の表面に付着した細菌の塊に対し、舌苔は舌に付着した細菌の塊です。そういう意味では「舌苔」と呼ぶよりは「舌垢」と言えるでしょう。前々回にもご説明しましたが、むし歯や歯周病のない健康な人で口臭がするのは、舌苔が原因の場合が少なくありません。皆さん一度手鏡で舌を見てみてください。舌の表面が真っ白になっていませんか?
 
 この舌苔も、歯垢を歯ブラシで取るのと同様、舌専用の舌ブラシで取ります。ただし歯垢をと違って、舌苔は完全に除去する必要はありません。手前味噌ですが、当院では経験豊富な衛生士3名が、タングクリーナーといって舌専用の舌ブラシで舌苔の効果的な除去方法を指導いたします。
 このように、口の中の病気が原因で起こる口臭は、細菌が原因の臭い物質ですので、歯ブラシや舌ブラシ、必要に応じてデンタルフロスや歯間ブラシなどを使って適切な口腔清掃をすることによって予防できます。口臭のことで悩まれている方は、ぜひ一度ご相談ください。
 
 そんな暇はないという方にも、口臭の原因となる口臭のガスの発生を塩化水素の効果で抑制するといわれるEBM(医学的裏付け)のある口臭スプレーも受付に置いています。
2009年-4月
口臭について(その2)
前回のつづきです。病的口臭には、口の中の病気が原因の口腔内口臭と、口の中以外の全身的な病気が原因の口臭があります。
 
 最初に全身的な病気が原因の口臭についてご説明します。よく知られているのは,鼻や喉などの耳鼻咽喉科の病気が原因で起こる口臭です。鼻炎などで鼻が詰まると口で息をする口呼吸になります。すると必然的に口の中が乾燥し、唾液の自浄作用が弱まり細菌が繁殖しやすくなり、口臭の原因となります。また意外と多いのが扁桃腺(アデノイド)肥大の方です。よくお母様と一緒に口臭を気にして来院されますが、お子様の口臭の原因の大部分が、扁桃腺肥大かもしくはのちほど詳しくご説明する舌苔(ぜったい)と呼ばれるものです。
 
 さらに口臭を起こす全身的な病気として挙げられるのは、消化器系の病気、糖尿病、肝疾患などです。特に糖尿病の方では口臭が顕著に認められます。
Ⅰ型の糖尿病の方は、ケトン臭と呼ばれて甘酸っぱい口臭が認められます。Ⅱ型の糖尿病の方も、末梢血管の循環不全が起こりやすく、重度の歯周病から口臭を引き起こしやすくなります。いずれの疾患も、かかりつけの主治医にご相談して全身的な病気をコントロールし治療することが肝要です。

 次に口の中の病気が原因で起こる口腔口臭についてご説明します。口腔口臭には3つのタイプがあります。1つはむし歯です。むし歯の進行によって歯に穴が空き、その穴に食べカスが詰まったままになったものや、歯の神経が腐敗しそれが口臭の原因となります。老若男女問わず、早急に治療が必要です。
あとの2つの口腔口臭については次回にご説明します。
2009年-3月
口臭について(その1)
 「口の臭い」いわゆる口臭のことを気にされている方は、少なくありません。当院に来院される患者様の中にも、口臭について良く質問を受けます。一口に「口臭」といっても様々なタイプに分類できます。それぞれ簡単ですがご説明します。
 
 まず生理的口臭といって、年齢的に内分泌の変調などにより、口臭が認められる場合です。いわゆる「加齢臭」もそのひとつです。また食物や嗜好品、たとえばニンニクを食べた後、タバコを吸った後にも、その臭いが口臭となります。さらに生理的口臭として、起床時、空腹時、月経時などの口臭などがあります。
 
 生理的口臭の原因の多くは、唾液と内分泌の変調によるものです。起床時に生理的口臭がするのは、睡眠中は唾液の量が減少し、口の中の細菌が増殖するからです。また加齢臭は、年齢とともに唾液の分泌量が減少し、内分泌にも変化が生じ口臭が発生しやすくなるためです。月経時はホルモンのバランスが崩れ内分泌の変調をきたすため口臭が発生すると考えられています。
 
 次に、精神的口臭といって、ストレスからくる緊張などにより唾液の出る量が抑制されるために起こる場合があります。これは意外と多いタイプの口臭で、受験生に多くみられるタイプの口臭です。
 他に心因的口臭という、本人だけが口臭を意識しているのに実際には口臭はせず、周囲は客観的に口臭を確認できない場合もあります。これは自臭症と呼ばれます。
 
 最後に、皆様が最も気にされている病的口臭といわれるものがあります。これについては次回にその原因と治療方法についてご説明します。
 
いずれのタイプに当てはまるか、ご自身で判断せずに、どうぞ口の中の専門家である歯科医師や衛生士にご相談ください。当院では私のほかに経験豊富な3名の衛生士が常勤しており、口臭に関しても的確なアドバイスができるものと存じます。
2009年-2月
歯の外傷(歯のけが、口のけが)その3
 前回は外傷歯の治療方法をご説明しましたが、今回は予防方法をご説明します。歯の外傷は、むし歯や歯周病と違い、突然起こりますので、100%予防するのは不可能です。それではどうするかと申しますと、一番有効な手段は、マウスピース(マウスガード)を口の中に装着していただくことです。
 
 元来、外傷歯の治療と予防は、アメリカで積極的に行われていました。ご存知のように、アメリカンフットボール、アイスホッケーそしてボクシングなどのスポーツはいち早く、マウスピースが義務付けられました。
 
 日本でも近年、コンタクトスポーツが盛んになり、アメフト、ボクシングの他、ラグビーや空手もマウスガードが義務化されました。このマウスガードには、口の中の外傷予防だけではなく、頭部(脳)への衝撃を緩和するという重要な役目があります。
 
 当院では、これまでに100症例以上のマウスガードを作成しました。アメフト、ラグビー、ボクシングのほかに、バスケット、空手、野球、ラクロスの選手たちに使用していただいています。作成方法はシンプルで、まず歯型を取って、次回に装着します。つまり合計通院回数は2回です。ただし健康保険適用外の自費治療になりますので、作成費用を5000円いただいています。色は、オレンジ、ブラック、ブルー、イエロー、グリーン、ホワイト、クリアー(半透明)と7種類の中から選べます。
 
 余談ですが、昨年、中年を過ぎた男性の患者様からご相談を受けました。その方は、野球が趣味で毎週、みんなでチームを組んで草野球を楽しんでおられるとのことでした。若いころに比べて体力だけでなく視力も少し衰えてきて、心配だから、野球をするときだけマウスピースをはめたいが、いかがなものかとのことでした。
 
 私は万が一、ボールやバットが歯に当たった時のことを考えると、マウスガードをはめるべきですとお答えしました。マウスガードを装着することによって、少しでも安全にかつ長く、趣味がつづけられますとアドバイスいたしました。マウスガード装着の当日、少し恥ずかしがられていましたが、とても満足そうでした。ちなみに、色はクリアー(半透明)を選ばれました。そのかたが、毎週マウスガードをして、少年の時と同じように白球を一生懸命追いかけて、野球を楽しむ姿が目に浮かんで、安全を切に願う限りです。
2009年-1月
歯の外傷(歯のけが、口のけが)その2
 前回のコラムのつづきです。今回は外傷歯の治療方法を簡単にご説明します。まず唇と歯ぐきの外傷については前回お知らせしたとおりで、多くの場合将来的な問題を起こすことなく治る場合が多いため、様子を見ます。ただし顔面や唇の裂傷が大きい場合は、外科で処置(縫合)されることをおすすめします。私ども歯科医でも簡単な唇の縫合はできますが、やはり経験豊富な外科のドクターの縫合技術には到底およびません。もちろん病院歯科の口腔外科の歯科医師でも上手に縫合してくれます。
 
 さて歯の外傷には、大きく分けて破折(歯が折れること)と脱臼(歯が抜けること)があります。まず破折についてですが、破折片があれば、レジンという合成樹脂系の材料で、折れた部分を元の歯にくっつけます。破切片がない場合でも、小さければ歯と同じ色をしたレジンで修復できます。ただし破折片が大きく歯髄(歯の神経)が出てしまっている場合は、歯髄(歯の神経)を治療し、人工の歯をかぶせることになります。人工の歯は、前歯でしたら保険の効く白いかぶせもの(硬質レジン前装冠)から、保険の効かない自費のセラミック冠まで様々です。ただ基本的には、歯の神経(歯髄)はなるべく取らないようにします。長い間、外傷歯の治療に携わっていますと、歯の神経(歯髄)を取るべきか残すべきか、微妙なケースに遭遇します。破折片が大きく、神経(歯髄)が少し露出している場合でも、神経の保護剤を塗布し神経を取らずに、レジンで修復し様子を見ることにしています。トライしてみる価値は十分にあると思うからです。
 
 次に、脱臼(歯が抜けること)についてですが、これは完全に抜け落ちてしまう完全脱臼とグラグラしているが抜けていない不完全脱臼があります。
どちらも早急に固定する必要があります。特に完全脱臼の場合は、前回お話したとおり、一刻を争います。もし歯根膜(前回のコラム参照)が生きていれば、歯を元の場所に戻して(これを再殖といいます)固定すれば、歯は再び機能を回復します。固定の方法は色々ありますが、私は加強線というステンレス製の細い金属を使って、レジンで接着させる方法を取っています。多少の出血があっても確実にかつ迅速にでき、しかも固定装置が目立ちにくいからです。原理は腕や足の骨折と同じで、ギブスを入れて動かないようにする要領です。固定期間は症状にもよりますが、約一カ月です。一カ月たって無事引っつけば、固定装置(加強線とレジン)を取り外します。
 
 次回は外傷歯の予防方法についてお知らせします。
2008年-12月
歯の外傷(歯のけが、口のけが)その1
 自転車で転倒し歯が折れた、スポーツしている最中に顔を強打し歯が抜けた、公園で遊んでいるときにぶつかって口の中が血だらけになった、階段でつまずいて顎を打って歯がぐらぐらになった、そんなとき、皆さんはどうされますか?
 
歯の外傷は、むし歯や歯周病と違い、突然起こります。それゆえに知っておきたい知識と冷静な対処が必要です。特に育ち盛りのお子さんや部活でスポーツをされている子供さんをお持ちのご両親は必ず知っておいてください。
 
まず歯の外傷と同時に、歯を保護している唇や歯ぐきが真っ先に外傷を受けることが多くあります。唇や歯ぐきの外傷は多量の出血をともない、本人や周囲の人を心配させます。しかし、多くの場合将来的な問題を起こすことなく治る場合が多いので、冷静な対応が必要になります。
 
出血に惑わされず、歯が折れていないかどうか、抜けていないかどうか、歯がぐらぐらしていないかどうかを把握することが大切です。もしそうであれば、折れたり抜けたりした歯を探し、それを持ってできるだけ早く歯科医院に行くことが必要です。
 
その時に重要なのは、抜けた歯を牛乳の中に入れて来てください。抜けたか折れたか判らない場合でもその歯を牛乳に入れてきてください。牛乳がなければスポーツドリンクでも構いません。決して抜けた歯を水道水で長時間洗ったり漬けたりしないでください。なぜなら水道水に長時間漬けると、歯の根の周囲にあり歯を骨に固定する役目をしている重要な歯根膜という組織が死んでしまうからです。歯根膜は乾燥に弱く、口の外では約30分しか生きていません。牛乳に漬けておくと歯根膜を数時間生かしておくことが可能です。
 
繰り返し申しますが、唇が切れたり舌を噛んで多量に出血していても、冷静に対処してください。もちろん頭部に骨折や意識障害の可能性があるときは迷わず救急車を呼んで外科に行ってレントゲン検査を受けて、しかるべく処置を受けて下さい。その結果、幸いにも頭部や頸部に異常がなく救急医の許可が出たら、すぐに抜けた歯を牛乳に入れて歯科医院に持って来てください。
次回はその外傷歯の治療方法と予防方法をお知らせします。
2008年-11月
電動(音波)歯ブラシ使用の是非について
最近よく患者様に、「電動(音波)歯ブラシを使用していますが、どうですか?」と質問を受けます。反対に「どんな歯ブラシをお使いですか?」という質問に「電動(音波)歯ブラシを使っています」とお答えになる患者様が増えてきています。
 
 電動(音波)歯ブラシ使用の是非について、結論から述べますと、正しく使用すれば、電動(音波)歯ブラシのほうが、手で磨くよりも短時間で歯垢
を除去することができるため、電動(音波)歯ブラシの使用は、有用性が高いといえます。
 
 しかし電動(音波)歯ブラシの使用に賛成しない専門家もいます。その理由として、歯を摩耗させたり、歯肉を傷つける可能性がある、歯ブラシ自体が太くて重い、替え歯ブラシを含め高価である、電気を使用するなどが挙げられます。
 
 実は私は、開業した20数年前から電動歯ブラシを使用しています。確かに当時の電動歯ブラシは、お世辞にも使い勝手が良いとは言えませんでした。当時は手で磨くほうがきれいに歯垢が取れていたような気がします。
しかしこの20年で、電動歯ブラシは格段に進歩しました。最近は電動歯ブラシよりヘッドの振動数が多い音波歯ブラシが主流になっています。
 
 なぜ専門家である私が、初期から電動歯ブラシを使用していたかと申しますと、子供の歯磨きに苦労していたからです。もうひとつ、介護が必要な祖父母の歯磨きにも苦慮していました。小児や介護が必要な年配の方の仕上げ磨きには、電動(音波)歯ブラシがとても効果的です。
 
 また歯磨き粉をつけ過ぎない、強く押し付け過ぎない、ヘッドが小さく毛の硬さが軟らかめのもの使用すると、歯を摩耗させたり、歯肉を傷つけることもありません。手で磨くのと併用されると一層効果が上がります。たとえば、朝は手で磨いて、夜は電動(音波)歯ブラシで磨くというふうにされると良いでしょう。
 
 当院では、衛生士さん三名はもちろん、スタッフ全員に音波歯ブラシを配布し使用してもらっています。手で磨く歯ブラシの使用方法が最も基本であり、重要なことですが、電動(音波)歯ブラシの使用法についても遠慮なくご質問ください。きっと良いアドバイスをお伝えできると存じます。
2008年-10月
歯肉から出血する時の歯みがきについて
 歯肉(歯ぐき)から出血している時、歯みがきを中止すべきか、そうでないかよく相談を受けます。結論を先に述べますと、歯みがきは中止せずに続けるほうが良いということです。
 
 なぜなら歯肉出血の原因の多くは歯周病だからです。出血がある場合、安易に歯みがきを中止すると、歯肉の炎症が増強して、さらに出血しやすくなります。歯肉から出血しても、その部位を、こきざみにやさしく軽く何回も磨くことによって、少しずつ歯肉の炎症がおさまり、出血しなくなります。また親知らずや大臼歯(おとなの歯)が生えてくるときも、歯肉に炎症が起きて出血しやすくなります。ただし例外もあります。
 
 歯肉からの出血を認める場合、原因が歯周病や外傷などの局所性のものと、ごくまれに全身性のものがあります。全身性のものとしては、白血病や血友病、肝硬変などがあります。また心筋梗塞や脳梗塞の治療薬として服用される抗凝固薬(血をサラサラにするお薬のことです)の副作用で歯肉から出血することもあります。これらの全身性の原因で歯肉から出血する場合は、歯みがきは一旦中止すべきです。
 
 いずれにしろ、歯肉から出血する時は、歯みがきは中止せずにしばらく続けてみて、それでも出血する場合は、遠慮なくお越しいただければ幸いです。出血する原因を調べてすぐに対処いたします。
2008年-9月
睡眠と歯科の深い関わりについて
 朝起きると、顎に疲労感や不快感があったり、「寝ているときに歯ぎしりをしていた」と言われたことがある方は、「ブラキシズム」という口の異常な習癖を病的に起こしている可能性があります。また音は出さないが歯を強く噛みしめることを「クレンチング」と言います。
 
 特に病的な「ブラキシズム」と「クレンチング」の力は、ガムを強く噛んだ時の数倍から十数倍に達し、歯が擦り減ったり、かぶせものが頻繁に外れたりするだけではなく、顎関節症や睡眠障害を引き起こします。
 
 つまり病的な歯ぎしりや噛みしめは、眠りを浅くし睡眠障害を引き起こす可能性があると言うことです。
 
 ところが睡眠中になぜ歯ぎしりや噛みしめが起きるのかは、まだわかっていません。つまりメカニズムが解明されてないので、治療法は対症療法となります。中でも寝るときに、歯にスプリントというマウスピースを装着する「スプリント療法」が、歯ぎしりや噛みしめを軽減することが医学的に証明されています。
 
 具体的には、歯科医院で、歯型を取り、スプリントという透明の硬質のマウスピースを作成します。費用は保険適用できますが、三割負担の場合一部負担金は、約5000円ぐらい必要となります。
 
 もうひとつ、あえぐような激しいいびきの後に呼吸が一時的に止まる「睡眠時無呼吸症候群」も睡眠障害を起こします。この病気の治療法は「鼻CPAP(シーパップ)」が基本ですが、軽症の方は歯科で、マウスピースの一種である「スリープスプリント」を作成し使用することにより、症状が改善することがあります。これも保険が適用できますが、歯科単独では無理で、耳鼻科または内科のドクターの診断書が必ず必要となります。
2008年-8月
なぜ寝る前に歯を磨くことが重要なのですか?
お口の中には、いろいろな細菌がいますが、中でもむし歯の原因菌として知られているのがミュータンス菌です。最近の調査で、このミュータンス菌が夕食後、歯を磨かないで寝ると、翌朝起床時には前日の夕食後と比べて、約30倍に増えることがわかりました。就寝中は唾液の分泌量が少なくなり、自浄作用が低下し、さらに就寝中は適度な温度が長時間保たれるため、細菌が最も繁殖しやすい状態になるからです。
 
つまり、「むし歯は、夜つくられる」ということです。だからこそ、むし歯予防や歯周病予防のためには、寝る前に念入りにブラッシングを行い、清潔にしておくことが大切なのです。特にお子様のいるご家庭では、夜寝る前に歯を磨く習慣をしっかり見につけるようにお願いします。
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